カランド(18)
[吹雪]:「足りたか? よければもう一杯飲んだら?」
[聖奈美]:「あたしを太らせたいの? あなたは。これ以上飲んだら、お腹タプタプになるでしょう」
[吹雪]:「……なっても全然余裕ありそうだけどな」
[聖奈美]:「……スケベ、変態」
[吹雪]:「な、何で!?」
[聖奈美]:「今、イヤらしい目線であたしのこと見たじゃないの」
[吹雪]:「み、見てないって。見たら怒られるの承知してるから」
[聖奈美]:「そ、その解釈の仕方は改めなさい。常に怒ってるみたいじゃないの」
[吹雪]:「……怒ってなかったのか? 普段」
[聖奈美]:「普通に返さないで! そういうこと」
[吹雪]:「わ、悪い。いや、ほら、いつも注意されてばかりだったからつい……」
[聖奈美]:「別にあなたが憎らしくて注意してたわけじゃないわ。というか、するわけないじゃないの。これがあたしの素なのよ、須藤さんとかが側にいるから分からなかったかもしれないけど」
[吹雪]:「舞羽?」
[聖奈美]:「あの子は、あたしとはまるで逆よ。雰囲気からしてそうだと思わない?」
[吹雪]:「まあ、昔からポヤーンとしてる奴だったからな」
[聖奈美]:「あの子が静だとしてあたしは動。昔からこうなのよ、自分でも分かってはいるけど、マナーが悪い人とかは注意しないと気が済まないの」
[吹雪]:「悪いことじゃないだろう。お前は間違ったことはしてない」
[聖奈美]:「それは、表ではね。でも、それが勘違いを産むこともあるのよ。今さっきまでのあなたみたいに」
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「怒ってる自覚はないけど、そう捉えられることも少なくない。だから、あたしのイメージは怖い人っていうのが先行するわ。だからといって、あまり変えようとも思わないけどね、これがあたしの素なんだから」
[吹雪]:「お前の言うとおり、気にすることはないと思うぞ、俺は」
[聖奈美]:「……そう?」
[吹雪]:「お前のその態度が素敵―って人も結構いるらしいからな。翔が以前そう言ってた」
[聖奈美]:「……あの男の情報はアテになるの?」
[吹雪]:「あいつ、女の子のことに関してはすごい詳しいから間違ってないと思うぞ」
[聖奈美]:「そ、そう」
[吹雪]:「俺も、ちょっと安心したよ。お前が俺のことを憎たらしいって思ってたわけじゃないことが分かって」
[聖奈美]:「……こういうところは頭が悪いのね、あなた」
[吹雪]:「?」
[聖奈美]:「顔も見たくないような相手に、自分の仕事を手伝わせたりなんてするわけないでしょう? 単純に考えて」
[吹雪]:「いや、それで間違ってたら俺すっげぇ寂しい男じゃないか」
[聖奈美]:「別に嫌いじゃないわよ、あなたのことは」
[吹雪]:「おお……」
[聖奈美]:「な、何よ?」
[吹雪]:「いや、杠からそんな言葉をもらえると、何かちょっとぐっとくるものが」
[聖奈美]:「……あなた変わった性癖を持ってる人なの?」
[吹雪]:「な、何をいきなり? そんなことはないと思うぞ!」
[聖奈美]:「完璧に否定はしないのね」
[吹雪]:「そこは大目に見てくれると助かる」
何せ、経験なんてないからな。
……………………。
[場所:校庭]
[聖奈美]:「ここまででいいわ」
[吹雪]:「え? 中まで持ってくぞ? ここまで来たんだし」
[聖奈美]:「あたし、今日の仕事はこれだけだから、後は置いて帰るだけなの。帰り道が違うし、待たせるのは悪いでしょう」
[吹雪]:「そうか、だったらいいが」
[聖奈美]:「そ、その、ジュース、美味しいところ教えてくれてありがと」
[吹雪]:「おお、気にするな。是非贔屓してくれ」
[聖奈美]:「か、考えておくわ」
どうやら本当に口に合っていたらしい。
[聖奈美]:「じゃあ、今日はこれで」
[吹雪]:「おう、じゃあな」
さて、帰るか。今ならタイムセールとかやってるかもしれないな。
[ダルク]:「聖奈美、今日は何だか表情豊かだったね」
[聖奈美]:「あたしはいつもどおりよ」
[ダルク]:「そうなの? ホントに?」
[聖奈美]:「何? 違うって言ってほしいの?」
[ダルク]:「だって、ちょっと楽しそうにしてたからさ。私も楽しかったから聖奈美は違うのかなって」
[聖奈美]:「……ま、まあ、それなり、ではあったわよ。少しだけだけどね」
[ダルク]:「そっか、えへへ」
[聖奈美]:「な、何笑ってるのよ? ダルク」
[ダルク]:「別にー。何でもないよー」