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竜とセバスチャン  作者: らる鳥
二代目セバスチャン

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 グラファール様は王都の上空を、己の存在を誇示するように一度だけ旋回し、それからさらに南へと向かう。

 

 早馬、馬を限界近くまで酷使しながら急いでも三日は掛かるロワイスと王都の距離を、僅か数時間で移動するグラファール様だから、今日中には目的地であるシュリル伯爵領に到着する筈だ。

 故に僕は、今のうちに心を決めなくちゃならなかった。


 死んだ爺ちゃんや、グラファール様は僕の事を勇敢だとか、恐れ知らずだというけれど、実際には僕にも怖いものくらいはある。

 まぁ、戦場が怖いかと言われれば別に然程に何も感じないんだけれど、……もし戦場でグラファール様の足を引っ張ってしまうような事があればと考えると、流石にそれは怖い。

 だからその可能性を極力排除する為に、僕は自分が知る戦場に対しての情報を整理し、何が起きても焦らずに済むよう、心の準備をしておく。


 まず最初に、戦場で勝敗を分ける要素は無数にあるが、その中でも比較的に大きな比重を占めるのが、兵の数と質だろう。

 戦いにおいて、殆どの場合は数が多い方が有利である。

 もちろん多数が故に身動きが取れず、少数が多数に対して有利に戦った戦場が、これまでの歴史上になかった訳ではないけれど、それは非常に巧みな用兵や、兵の質が上回ったが故の結果であって、例外だ。

 基本的には多数が少数に対して有利である事を否定できるような例ではない。


 今回の戦いにおいて、多数であるのは敵軍だ。

 王国南部の要であり、国境近くに領地を持つ大貴族であるシュリル伯爵も、もちろんかなりの数の兵を有してはいるのだろうが、国を相手に、それも同盟を組んだ二カ国を相手に勝る程では決してないだろう。

 そもそも他国からの大規模な侵略に対して、シュリル伯爵のような辺境の大貴族が担う役割は、周辺貴族を纏めて軍を組織して、王都からの援軍が到着するまで持ちこたえる事である。


 しかし今回は、その周辺貴族の一部が裏切った為に軍を組織する事ができず、王都からの援軍も届かないという事態になっていた。

 数の力は、敵が圧倒的に勝るだろう。


 次に質に関してだが……、これは単に兵の練度が高いかどうかだけじゃなく、魔術師のような特殊な力を持った者、或いは人並み外れた実力者を擁しているかも含まれる。

 ここを突き詰めるにはまず、魔物に関しての話になるのだが、ある説では魔物とは、人間が越えるべき試練だと言われていた。

 というのも、一匹でも魔物を殺した人間は、一匹も魔物を殺していない人間に比べて誤差のように僅かではあるけれど、強くなるからだ。


 これは単に身体能力だけの話じゃなくて、技の冴えとか直感等も含む、総合的なものが変化するらしい。

 なのでロワイスでも以前は自警団が、今では領主の軍が、訓練だけではなく、定期的に魔物の狩りを行っている。

 尤も弱い魔物を幾らか狩るだけじゃ、その効果も微々たるものなので、グレートホーンの屠殺も兵士が行う事で、少しでも多くの力を手に入れられるようにしていた。

 角を折って大人しくなったグレートホーンでも、ロワイス周辺の弱い魔物に比べれば、殺して得られる力は幾らか多い。

 僕も爺ちゃんに、十歳の頃からグレートホーンの屠殺には参加させられてる。

 殺せば強くなれるか否かが、単なる獣と魔物を区別する最大の要素だろう。


 なので手強く狂暴な魔物を倒し続けてる冒険者の一部等は、人間離れした強さを有している事があった。

 もちろんそこまでの手練れは相当に珍しいらしいが、ロワイスにも昔はそのくらいの力を有していたという元冒険者がいるのだ。


 ちなみに、昔、その冒険者とグラファール様が戦いになりそうだったことがあって、爺ちゃんはその時は咄嗟に動けず、その反省から家令にも戦う力は必要だと考えたらしい。

 僕はその元冒険者、ロデナ先生から、冒険者になってもいっぱしに活躍ができると太鼓判が圧されるくらいには、訓練を受けさせられているし、魔物も殺してる。


 まぁさておき、こうした実力者を軍が擁していた場合、城壁を駆け上って内部に侵入、門を開放される等の奇襲を恐れなければならなくなるので、時に戦場を決定づける事もある、無視できない要素だろう。

 そして今回、僕が特に気を付けなければならないのは、こうした特別な人間だ。

 並の人間が竜を傷付ける事は不可能だが、魔物を殺し続けて人間の枠を超えた特別な戦士は、場合によってはグラファール様を傷付けるかもしれないから。

 僕は戦場で、そうした者を決して見逃してはならなかった。

 幾ら強い戦士であっても、遠くの空を飛ぶグラファール様には届かないだろうし、うっかり近付いたりしなければどうとでもなる。


 逆に魔術師は、見つけ次第叩かなきゃいけない存在だ。

 魔術は人間に扱える神秘の技で、竜の魔法程に自由でもないし、強くもないが、それでもできる事の範囲が広く、何をしてくるがはわからない。

 特に人数が揃っていた場合、準備の時間を与えてしまうと、戦況を一変させるような大規模な魔術を使われかねなかった。


 ちゃんと情報を整理すれば、僕の中での優先順位が決まってくる。

 そう、優先順位だ。

 今回、シュリル伯爵領は二方向から攻められていて、一つは陸路で東から、隣国のロロビアが攻めてきていて、もう一方はロロビアの同盟相手、王国とロロビアから見て南の島国、トルトマステアが船を使って、海から攻撃を仕掛けてきていた。


 このどちらを優先して対処しなければならないかと言えば、……やはり海から攻めてきているトルトマステアだろう。

 陸からの侵攻は、国境近くに備えられた砦等の防衛施設で、幾らかでも食い止められた。

 しかし海からの攻撃は、シュリル伯爵領の中心である町に、直接仕掛けられているそうだ。

 ここが陥落すればシュリル伯爵領はロロビアとトルトマステアの手に落ちて、両国はそこを王国侵攻の足掛かりにする。


 まずは海からの敵を叩いて町を救援し、それから陸路を攻めてくる軍を上空から威圧すればいい。

 より危険な海からの敵は大急ぎで叩く必要があるけれど、陸の敵は侵攻を遅らせられれば、無理をする必要はなかった。

 時間さえ稼げば、裏切った領主の処断をしながら、王都からの援軍がやってくる。


 情報が整理されれば、優先順位が決まり、するべき事も見えてきた。

 グラファール様の翼なら、シュリル伯爵領の町までは、もうあと少しだろう。




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