31話 この世界にスライムは存在しない
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爆発。爆発。爆発。
(ひゃっはー!!! たっのしー!!! 今日は最高の爆発日和だ!)
(うひゃひゃひゃひゃひゃ!!! この爆発ならカナタたんにも気に入ってもらえるはずだお!!)
(絶えず自壊する泥の人形。破道の九十『エクスプロージョン!!!』)
(お前はもう爆発している)
今日も天使族の集落では、みんな幸せそうに魔物を爆発させていた。
……なんか前世で聞いたことのあるような決めゼリフが流行っている気がする。多分ルナ辺りが僕の前世の記憶を輪廻の輪から拾って教えてるんだろうな。
そんな天使族達の爆発を評価しているのがじいじだ。じいじはどうすればいいかなどを具体的に教える器用さはないが、観察眼や審美眼に優れている。
(ふむ、以前よりは良くなっている。爆風のベクトルも素晴らしい。じゃが、爆圧にわずかに迷いが混じっておる。同時に、ちと優等生すぎるかの。これが本当にお主の表現したい爆発か? 今一度心に問いかけ、覚悟が決まればまた見せにこい)
(チタン様、ご指導ありがとうございます!)
(ガハハハハ! ワシの爆発が参考になれば幸いじゃ! 爆発道は奥が深く、険しい。これからも精進するんじゃ)
じいじは実質的なこの集落の王だ。天使族の中で誰よりも強いので、とても慕われている。
じいじに認められるように、集まったみんなは日々力を磨いている。ただ圧倒的強者に見てもらえるというだけで、みんな死ぬほど嬉しいらしい。
他の音にも耳をすますと、岩が砕けるような殴打音とともに、この集落の中では比較的若者達の声が賑わっていた。
(おらおらおらおら!)
(ぐっ、その程度、全く効かないわ。じゃあ、次は私が本物の殴りを教えてやるわ)
(へっ、お前みたいなか弱い女のパンチなんて、へでもぶごあ!!!)
うん、戦闘民族らしく、楽しく殴り合いの青春をしているようだ。なんとなく、ちょっとラブコメの波動を感じる。
(うむ、両者なかなかいいパンチだ。だが、これで終わり。さあ、飯の時間だ)
おっ、このハスキー声は母だ。母は若者に戦闘術を指導しながら、この集落のみんなに食事を振る舞う日々を送っている。
若い芽がすくすく育つことが母は嬉しくて仕方ないようで、今日もふぁっさふぁっさと羽が忙しい。
そんないつもの生活音をBGMに、僕は宝石に魔力を注ぐ。宝石に魔力を注ぎ、魔力が枯渇したら舞いの猛特訓。そんな日々の連続だ。
この宝石に魔力を注ぐ作業がかなり厄介で、十の魔力を注いでも、魔力は一ほどしか貯蓄できない。宝石は確かに魔力を溜め込むが、抵抗力があるせいで時間がかかるのだ。
この作業を人に任せようにも、ユニークスキルはその人自身の魔力でしか発動できないらしい。
うーん、この仕様、めんどくさいなあ。
「でも、その作業もそろそろ終わりだ。長かったなあ」
宝石に魔力を流しながら、独りごちる。
集落ができてから大体半年ほどこの作業をやっているので、そろそろ僕の「奥義」が使える魔力が溜まりそうになっている。
奥義が使えれば、僕の「世界征服」に一歩近づく。前世でできなかった世界征服は、今世ではぜひともなしたい。
というのも、僕の前世の唯一の後悔は、世界征服のやり方を間違ったことなんだよ。前世は覚えていないけど、ルナが世界征服という単語を出した瞬間、ピンときたんだ。
それに伴って、僕の目指す「色」も見つけ出した。全てはそのための準備だ。
……ふふっ、世界征服してセカイ様に喜んでもらうの、楽しみだなあ。
と、僕が一人にやけていると、家の扉が開き、ルナが帰ってきた。
「カナタお兄ちゃん、ただいまー」
「おかえり、ルナ、雪まろ。ちゃんと“白のドクター”も働いてる?」
「うん、ばっちし!」
ルナがピースサインを僕に見せつけて、「いぇい!」と笑う。ルナの方も計画は順調のようだ。
白のドクター――ルナが左手に大切そうに抱えている、スライムのような生き物。あれは僕がルナに乞われて新しく生み出した魔法生物だ。
白のドクターは弱く儚い小さなスライムだ。だが、それでも僕はかなりの魔力を使って作り出した、白の女王と並ぶほどの最高傑作である。
「この子のおかげで、地脈は少しずつ回復してる。このままのペースなら百年以内にこの大陸の地脈が正常に戻りそうだよ! カナタお兄ちゃん、ありがとう!」
「うんうん、僕の作った子が役に立ってくれて嬉しいよ。それに、セカイ様のためだしね」
ルナは僕達の知らないような色々な世界に関する知識を持っている。そういうことがあるたびに、ルナが神様となるために生まれてきたというのを実感する。
そんな神様見習いのルナによると、本来世界はマナが地脈を通り、世界をぐるぐると循環するのが正常らしい。
ただ、この世界は長年の殺し合いの影響で、言ってみれば傷だらけのような状態らしい。その傷を治すために、この世界の地脈に流れるマナは常にオーバーヒートを起こしている。
そんな現状に抗うために作り出されたのが、白のドクターだ。ぷにぷにとした弾力のある流線型の身体で、大きな特徴は頭にCDみたいなのをつけていること。僕の医者のイメージがああいうものだったせいで、それに影響されたんだろう。
「天使族のみんなが魔物を狩って魔石をくれるおかげで、今日も白のドクターが分裂してくれたんだよ。ありがたいね」
「魔石の使い道、現状だと白のドクターに食べさせるくらいしかないもんね」
魔物は魔石を持っている。ただ、これは魔物が食べるとより強くなる原因としか分かっておらず、捨てると魔物のためになるし、捨てるに捨てられない。増える一方で、困った存在だった。
そんな使い道のない魔石がもったいないので、僕は魔石を食べて栄養とする白のドクターを生み出した。
白のドクターは子を生まない代わりに、魔石をお腹いっぱい食べると分裂する。その分裂体が世界の傷を塞ぐバンドエイドのような効果を発揮し、傷を直す補助をする。そして、完全に一つの傷が治ったら、その分裂体は地脈に溶けて消えてしまう。
白のドクターはそういう生き物だ。
「白の女王も空気の淀んだマナを綺麗にしてくれているし、白のドクターも頑張ってくれてる。これでようやく天使族の大陸は安泰だよ。カナタお兄ちゃん、ありがとうね!」
「そうだね。でも、他の大陸はそうもいかないから、世界征服をがんばらなきゃなあ」
この世界の大陸の位置は、エチエチお姉さんが大まかに教えてくれている。
その位置関係から、僕達天使族が住むこの大陸を「頭大陸」と呼ぶことにした。
頭大陸は大丈夫でも、他の「右腕大陸」「左腕大陸」「右足大陸」「左足大陸」もボロボロなのだ。
セカイ様は世界そのものだ。頭だけ治しても意味がない。せっかくなら全身を治して差し上げたいよね。
「カナタお兄ちゃんが世界征服する前に、世界自体が壊れちゃったら意味ないもんね」
「そうだね。あっ、そうそう、世界征服で思い出した。明日には奥義を発動する魔力が溜まるだろうから、そろそろ本格的に動き出すからね」
「分かった! 楽しみだね!」
さあ、そろそろ僕も前世の僕を越えようか。




