第76話 確定
路地が静まり返っていた。
誰も動かない。
誰も喋らない。
ただ。
ジョンの胸元で丸くなっている黒い毛玉を見ていた。
「……」
ジョンも見ていた。
何度見ても毛玉だった。
黒い。
丸い。
小さい。
どう見ても危険な魔物には見えない。
むしろ少し可愛い。
だが。
周囲の反応は違った。
王国騎士団。
赤黒いゴブリンたち。
巨大ゴブリン。
全員が緊張している。
まるで爆発寸前の爆弾でも見ているようだった。
「おっさん」
ジョンは小声で呼ぶ。
「これ、返した方がいいですか?」
おっさんは頭を抱えた。
「返せるなら今すぐ返してこい」
「ですよね」
「だが無理だろ」
その通りだった。
ジョンは毛玉を持ち上げようとする。
すると。
「キュゥ……」
毛玉が嫌そうな声を出した。
服を掴む小さな手に力が入る。
離れない。
全然離れない。
「ほら」
ジョンが前へ差し出す。
「お前のところに帰れ」
巨大ゴブリンを見る。
巨大ゴブリンも見ている。
数秒。
沈黙。
すると。
巨大ゴブリンが首を横に振った。
ジョンは固まった。
「え?」
今。
首を振ったか?
「おい」
おっさんも目を見開く。
「今の見たか?」
「見ました」
間違いない。
巨大ゴブリンは拒否した。
返却を。
「なんでだよ!」
思わずジョンが叫ぶ。
「お前のだろ!」
巨大ゴブリンは黙っている。
だが。
その目は毛玉を見ていた。
どこか困ったような。
諦めたような。
そんな目だった。
「隊長」
若い騎士が震える声を出す。
「どうしますか」
隊長はすぐには答えなかった。
かなり悩んでいる。
その理由はジョンにも分かった。
捕まえるべきだ。
普通なら。
だが。
巨大ゴブリンがいる。
赤黒いゴブリンもいる。
そして。
その全員がジョンを見ている。
下手に手を出したら。
何が起きるか分からない。
隊長は深く息を吐いた。
そして。
「撤退だ」
周囲がざわつく。
「た、隊長!?」
「今は撤退する」
苦しそうな声だった。
だが本気だ。
「この情報を王都へ持ち帰る」
ジョンの嫌な予感が大きくなる。
王都。
まただ。
最近ろくな話を聞かない。
「対象の監視は継続」
隊長の視線がジョンへ向く。
「絶対に見失うな」
やっぱりだ。
全然終わっていない。
むしろ始まった感じしかしない。
騎士団が少しずつ後退する。
誰も背中は見せない。
巨大ゴブリンを警戒している。
すると。
赤黒いゴブリンたちも道を開く。
攻撃しない。
ただ見送っている。
妙な光景だった。
戦場だったはずなのに。
いつの間にか停戦している。
そして。
騎士団が見えなくなった頃。
巨大ゴブリンが立ち上がった。
ズシン。
地面が揺れる。
ジョンの体が強張る。
今度こそ何か来る。
そう思った。
だが。
巨大ゴブリンはジョンの前まで来ると。
ゆっくりと膝をついた。
そして。
頭を下げた。
完全に。
礼だった。
「は?」
ジョンの思考が止まる。
後ろでは赤黒いゴブリンたちも同じように頭を下げている。
「いやいやいや」
ジョンが後退る。
「違うだろ」
違う。
絶対に違う。
何か大きな勘違いが起きている。
だが。
誰も訂正してくれない。
巨大ゴブリンが低い声を出す。
「……守る」
短い言葉。
だが。
はっきり聞こえた。
「守る?」
ジョンが聞き返す。
巨大ゴブリンは頷いた。
そして。
胸元で寝ている毛玉を見る。
「王」
ジョンの顔から血の気が引いた。
やめてくれ。
その単語だけは。
本当にやめてくれ。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
2,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)




