第56話 空を這うもの
鐘の音は、長かった。
ゴォン。
ゴォン。
低い。
腹に響く音。
───
通行人たちがざわつく。
「なんだ?」
「またか?」
「西門の方じゃないか?」
空気が変わる。
さっきまで笑っていた酔っぱらいまで、真顔になっていた。
───
ジョンも空を見る。
黒い。
細長い煙。
空を這うみたいに、ゆっくり伸びている。
「ケムトレイル……」
おっさんが小さく呟く。
その声は、いつもより低かった。
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も」
おっさんは舌打ちした。
「面倒事の匂いしかしねぇ」
───
兵士たちが走っていく。
鎧の音。
怒鳴り声。
慌ただしい。
───
「西門封鎖しろ!」
「一般人は近づけるな!」
「冒険者ギルドへ伝令!」
町全体が、一気に騒がしくなる。
「な、なんなんですか?」
ジョンが聞く。
だが。
おっさんはすぐに答えなかった。
黒い煙を睨んでいる。
嫌なものを見る目だ。
「魔物の異常発生」
ぽつりと言った。
「あるいは進化群だ」
「進化?」
「たまにいるんだよ」
おっさんは歩き出す。
早い。
「妙な条件が重なると、魔物が群れごと変質することがある」
───
ジョンも慌てて追いかける。
「変質?」
「強くなる。賢くなる。増える」
嫌な単語ばかりだ。
───
「”これは”、その前兆だ」
風が吹く。
黒い煙が、空でゆっくり揺れる。
まるで、生きているみたいに。
「見た目だけなら綺麗とか言う馬鹿もいるがな」
おっさんは吐き捨てた。
「実際は災害だ」
ギャンブル施設からも人が出てくる。
野次馬だ。
冒険者たちも騒いでいる。
「おい、また出たぞ!」
「今回はどこの群れだ?」
「賭けになんねぇかな」
笑っている奴までいる。
ジョンは空を見た。
黒い煙。
嫌な感じがする。
なのに。
少しだけ、気になってしまう。
「……見に行きませんか?」
おっさんが止まった。
振り向く。
「本気で言ってんのか?」
「だ、だって」
ジョンは言葉を探した。
「もしかしたら、稼げるかも」
沈黙。
───
おっさんは深いため息をついた。
「お前」
呆れた顔。
「完全にギャンブルの町に染まってんな」
───
でも。
否定はしなかった。
「……まぁ、情報だけなら見てもいい」
「ほんとですか!?」
「ただし近づきすぎるな」
おっさんは指を立てる。
「ケムトレイル絡みは、“普通じゃない”」
その言い方が、妙に引っかかった。
「普通じゃないって?」
「説明が難しい」
少し考える。
それから、低い声で言った。
「――たまに、人間側までおかしくなる」
───
風が吹いた。
黒い煙が、空を裂く。
───
その時。
ジョンの胸元。
服の下。
───
バンステ金策で手に入れた指輪が。
じわりと、熱を持った。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
2,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)




