第54話 ハメられた少年
ジョンは、少し浮いていた。
歩き方が軽い。
顔も、少し緩んでいる。
「2倍……」
口の中で繰り返す。
「5倍……」
すごい。
お金って、増えるんだ。
働かなくても。
戦わなくても。
銀行が勝手に増やしてくれる。
そんな話が、本当にあるなんて。
「……随分と機嫌がいいな」
隣を歩いていたおっさんが言う。
「え?」
「顔だ。気持ち悪いくらい笑ってる」
そんなにだろうか。
でも、仕方ない。
だって。
金貨10枚が、もっと増えるかもしれないのだ。
「投資ってすごいんですね」
その瞬間。
おっさんの足が止まった。
「……なんだって?」
「え?」
僕も止まる。
おっさんが、ゆっくり振り向いた。
嫌な顔をしている。
ものすごく。
「お前」
低い声。
「何をした?」
「え?」
「何にサインした」
急に怖くなる。
「えっと……銀行の人が、特別なお客様だけの投資案件だって」
言いながら。
少しずつ。
不安になってくる。
「……フハハハハハ」
おっさんは額を押さえた。
深いため息。
「やられたな」
「え?」
「典型的な養分コースだ」
養分。
聞いたことがない。
「でも、2倍とか5倍とか――」
「なるほどな」
おっさんは僕の話を遮った。
「ちゃんと夢を見せてきたか」
嫌な予感がした。
さっきまで熱かった頭が、少し冷える。
「……だめだったの?」
「だめかどうかは知らん」
おっさんは肩をすくめる。
「実際に増えることもある」
「なら!」
「最初だけな」
僕の声が止まる。
「銀行ってのはな」
おっさんは歩きながら言った。
「客から金を抜く方法だけは、昔からよく考えてる」
「……」
「特に、“自分だけ特別”って思わせるのが上手い」
胸が、少し痛くなる。
「で、いくら突っ込んだ」
言いづらい。
でも。
「……10枚、全部」
おっさんが空を見た。
しばらく何も言わない。
「まぁ」
ぽつり。
「授業料と思うしかねぇな」
「じゅぎょうりょう……」
「勉強代だ」
歩き出す。
「高ぇけどな」
僕は慌てて後ろを追いかけた。
「で、でも! 本当に増えるかもしれないじゃないですか!」
「かもな」
「だったら!」
「その時は銀行がもっと美味い方法で回収する」
即答だった。
夕方の風が吹く。
ギャンブルの町。
笑っている奴もいる。
泣いている奴もいる。
その真ん中を、僕たちは歩いていた。
そして。
銀行の二階。
厚い扉の向こう。
「――ガキは?」
「契約完了しました」
「そうか」
男が笑う。
「今月のノルマは達成だな」
机の上には、契約書。
ジョンの名前。
その下に、小さく書かれていた。
【途中解約時違約金:元本の九割】
誰も、説明はしていなかった。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 20
盾スキル 3
戦闘技術スキル 13
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
2,171g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・???の指輪(バンステ金策で入手)
・ゴブリン(テイム)
【投資・契約】
・中立共栄大金庫投資案件(ポーシャ支店)
元本:金貨10枚
状態:運用中
想定利回り:2倍〜5倍(説明ベース)
詳細:非公開/高リスク
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)




