第47話 負けなければならない男
この試合で――俺は負けなければならない。
竜騎士団副団長である、この俺様がだ。
なぜか?
話せば長い。
そして、誰にも話せない。
観客は、全員が俺の勝利を信じている。
当然だ。
俺は王国の象徴、竜騎士団の副団長。
そして隣には、愛竜。
対するは――ガキと、銃を持ったゴブリン。
勝てない要素がない。
……普通ならな。
だが今回は違う。
俺は、この試合で負けなければならない。
理由は単純だ。
金だ。
ガキのゴブリンが勝てば、オッズは跳ね上がる。
史上最高だ。
俺はそこに、全財産を賭けた。
これで勝てば――
竜騎士団の資金は救われる。
……俺様が、少し使い込んでしまった金もな。
チッ。
あのバッサーニオのオーナーめ。
余計なことをしやがって。
あのガキなんぞを出場させるから、
俺様が直々に出る羽目になったんだ。
これが上にバレたら面倒だが……仕方ない。
この試合、さっさと負けて姿を消す。
それで終わりだ。
そのための仮面だ。
俺も、竜も。
――バレるわけがない。
「さぁ!世紀の一戦だぁぁぁ!」
実況が叫ぶ。
「副団長に全額だ!」
「手ぇ抜くなよ、王国のシンボル様!」
うるせぇ。
好き勝手言いやがって。
ただの三回戦だぞ。
決勝でもなんでもない。
……のはずだった。
あのオーナーが、無駄に宣伝しやがったせいで。
客が多い。
多すぎる。
これじゃあ――
雑な負け方ができねぇ。
場外に飛ぶ?
上空で時間切れ?
全部、怪しまれる。
――面倒だ。
試合中に、自然に負ける方法を考えろってか。
クソが。
ちらりと対戦相手を見る。
ガキと、ゴブリン。
……やる気がない。
まぁ無理もない。
竜相手だ。
普通なら、絶望する。
安心しろ。
俺は攻撃しない。
当てるふりだけだ。
羽で隠して、なぞる程度。
だから――
攻撃しろ。
早く。
何でもいい。
当てろ。
そしたら俺の竜は倒れる。
頼むから――
撃て。
撃て。
撃て。
「よしパック!勝つぞ!僕たちなら勝てるはずだ!」
「無理だろ!さっさと負けろガキ!」
「ゴブリン死ぬぞー!」
外野がうるさい。
どいつもこいつも、自分の金しか見ていない。
……クズどもが。
だが。
ガキが折れるよりはマシか。
少しヒントを出すか。
「少年!」
声を張る。
「我が竜の爪は、どの魔物よりも硬い!」
観客がどよめく。
「だが――羽は脆い!」
わざとらしく笑う。
「ハハハ!」
頼む。
これで分かれ。
銃なんだろ?
撃て。
羽を。
撃て。
「よし!パック!爪に気をつけろ!」
……いいぞ。
「羽だ!羽を狙えば勝てるかもしれない!」
――よし。
よしよしよし。
分かるガキは嫌いじゃない。
あとは事故らせるな。
爪に当たるな。
絶対にだ。
勝つのは簡単だ。
だが。
負けるのは――
こんなにも難しいのか。
クソ。
骨が折れる。
【あとがき:竜騎士団副団長(仮面)の現在のステータス】
【名称】竜騎士団副団長(仮面)
【所属】王国軍/竜騎士団
【状態】資金難/隠蔽行動中
【能力】
筋力:A
耐久:B
敏捷:B
知能:B
統率:B
【特性】
・竜騎乗
・戦闘経験豊富
・状況判断(高)
・責任回避(極)
【スキル】
・竜操作(Lv5)
・空中戦闘
・威圧
・演技(Lv1)
【装備】
・仮面(身元隠蔽)
・竜騎士装備一式
・愛竜(大型飛竜)
【所持】
・賭け札(全財産)
・不足資金領収証(竜騎士団運営費)
【名称】竜騎士団所属飛竜
【種族】飛竜
【状態】仮面装着/主命待機
【能力】
筋力:S
耐久:S
敏捷:A
知能:C
【特性】
・飛行
・高耐久
・威圧
・従順(副団長に対して)
【弱点】
・羽部(物理耐久低)
【備考】
・王国象徴戦力
・本来は対人戦不使用
【公式記録】
・本試合に不正行為は確認されていない




