第29話 バンステドロップ金策決行――一度きりの強奪
「いらっしゃいませ……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「い、今すぐにこの装備とアイテムを預けたい……いい、今すぐにだ……!」
どうやら、かなり切羽詰まっている様子だ。
これは――チャンスかもしれない。
まだ自分の順番ではないのに、一人の大人が騒いでいる。
何を預けようとしているのかは分からない。だが、この状況なら――床に何かを落とす可能性がある。
僕は姿を消せる。
だが、動けば即座にポーションの効果は切れるし、においまでは消せない。
――そして、最初の一本の効果が、そろそろ切れる。
効果が切れれば、姿は元に戻る。
そうなれば、この場にいる全員に見つかる。
その時はどうするか――おっさんには聞いてある。
「慌てず二本目を飲め」
見えて、また消える。
それだけでいいらしい。
正直、バレると思っていた。
だが、おっさんは言った。
「誰もカウンターの下なんて見てねぇ。そこに子どもがいると思う方が不自然だ」
――銀行内は、思った以上に混み始めていた。
冒険者や商人たちが列を作り、順番を待っている。
ドクン、ドクンと、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。
失敗したらどうなる?
子どもだから許されるか?
……そんな甘い話じゃない。
でも、ここまでやってきたんだ。
僕はこのために、何日も練習してきた。
なら、やるしかない。
「は、早くしてくれ……! こ、こここれだけは持って移動したくないんだ……!」
「お客様、順番になりましたら対応いたしますので、お待ちください」
――この人だ。
直感だった。
今回のチャンスは、この人しかない。
僕は急いで、二本目の逆さまポーションを飲んだ。
一瞬、誰かと目が合った気がした。
だが――もう遅い。
変な姿勢のまま透明になってしまった。
(まずい……この姿勢での待機、練習してない……)
だが、もう後戻りはできない。
――ついに、あの男の番が来た。
男は、乱暴にカウンターへ装備とアイテムを置く。
よし。第一条件クリア。
「こ、これだ! ここ、こここれを預ける! ははは早くしろ!」
「装備三点、消耗品四点を確認いたしますので――」
「いいから早くしろ!!」
ドンッ!!
カウンターを叩く音が響いた。
その瞬間――
カツン。カラン……カラン……
落ちた。
何かが、落ちた。
全員の視線が、騒いでいる男に集中する。
――今だ。
今しかない。
僕は迷わなかった。
落ちた物の正体なんて分からない。
考えている暇もない。
身体が勝手に動いた。
床で小さく跳ね、転がるそれへ――手を伸ばす。
掴んだ。
もう、手は開かない。
感触からして、小さい。
指輪のような形だった。
だが――今はどうでもいい。
走る。
全力で、銀行の外へ。
後ろで誰かが何か言っている。
だが、聞こえない。
止まったら終わりだ。
息が苦しい。
だが、体は軽い。
――出口が見えた。
誰も止めない。
そのまま外へ飛び出し、すぐ横の路地へ滑り込む。
そして――
スクロールを取り出す。
「ランダム転移スクロール発動!!」
光る。
破る。
その瞬間――
後ろから追ってきた男と、目が合った。
血走った目。
「お、おおお、お前……それは……!!」
――次の瞬間、世界が歪んだ。
体が引き裂かれるような感覚。
視界がねじれる。
そして――
転移。
気がつくと、僕は地面に膝をついていた。
吐いた。
息が荒い。
視界が揺れる。
(これが……転移……)
周囲を確認する。
――西門の外。
見覚えのある場所だった。
助かった。
完全に知らない場所じゃない。
待ち合わせは北門だ。
距離はあるが、行ける。
僕は走った。
途中で何度も足が止まりそうになる。
それでも、走る。
さっきの男の顔が頭に浮かぶ。
(考えるな……)
走る。
走る。
――やがて、思考が少しずつ落ち着いてきた。
これは、本当に金策なのか?
……いや。
成功はした。
ルート権は消えていた。
おっさんの言った通りだった。
だが――
胸の奥に、妙な感覚が残る。
待ち合わせ場所に着くと、すでに二人はいた。
「旦那ぁ……遅いですぜ。さぁ、行きましょうや」
「よぉ、なまくさジョン。顔見りゃ分かる……成功だな」
おっさんはニヤリと笑った。
「馬車が来る。乗るぞ。話はそれからだ」
――こうして。
僕たちの、本当の冒険が始まった。
【あとがき:現在のステータス】
【スキル】
■武器系
刀剣スキル 18
盾スキル 3
戦闘技術スキル 11
■生産系
料理スキル 13
■その他
鑑定スキル 0.3
【所持金】
671g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚))
【所持アイテム】
・蛇肉(大量)
・???のスクロール 6枚
・奴隷のマクダフの野郎
・武器破損した剣
・木剣2本
・???の指輪(バンステ金策で入手)
【装備品】
・骨護札の首かざり
・水トカゲの手袋(呪)




