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第10話 大岩と水面を剣で叩くだけ バシャァンバシャァンとガンッガンッな修行 その1

――キィン……! ガンッ! キィン! キィン……! ガンッ! ガキィン!


――キィン! ガンッ! キィン……! ガンッ! ガンッ! ガキィン!


「よしっ……」


毎回、剣を振り下ろすたびに、意識を全身から腕へ、そして腕から指先へと絞り込む。


――バシャァン! バシャァン! ゴボッ…… バシャァン! ゴボッ…… ザシュッ!


――ザシュッ! バシャァン! ゴボッ…… ザシュッ! ゴボッ……


今日、僕がやっていることを一言で言えばこうだ。

今、僕はとても大きな魔物を倒した直後だ。

とても手に汗握る戦いだった……いや、ちがうちがう。


町の南門を出て、二十数分行き着いた場所だ。ここは「河畔」。

おっさんに勧められた、スキル上げに最適とされる場所。


昨日ベッドで眠れなかったことや疲れは関係なく、集中して叩く。


――キィン! ガンッ! ガキィン! キィン! ガンッ! ガンッ! ガンッ!


――ガキィン! ガキィン! キィン! ガンッ! キィン! ガンッ! キィン!


大きな岩に向かって、僕は剣を振り下ろす。

当然、岩は僕を弾き返す。

その重み。その硬さ。

大きな岩が真っ二つに割れるなんて、絶対にできないだろう。

ちなみに、マクダフの剣は一部刃こぼれしているが、僕の剣ではないため気にする必要はない。


僕は次に「よもつ」川へ向かった。

膝まで川に入ると、手中の「マクダフの剣」を水面に叩きつけた。


――バシャァン! バシャァン! ゴボッ…… ザシュッ! バシャァン!


――ザシュッ! バシャァン! ゴボッ…… バシャァン! ゴボッ……


水面の衝撃音と、剣が水を切る音。


戦闘技術スキルも上げていかなければならない。

このスキルを上げることで、戦闘中の判断力が冴え、命中精度や筋力などの補正を一時的に引き上げられるからだ。


近接武器か遠距離武器かに関わらず、ほぼ全ての冒険者が持つスキルだ。

戦闘技術が高ければ、武器自体の補正も上がるため、単に武器スキルだけが高い冒険者よりも圧倒的に強くなる。

その分、補正が大きい。

そのため、冒険者の中には「鑑定スキル」と並ぶ必須スキルだと考える者もいれば、「強化スキルの方が実用的だ」と考える者もいる。


だがここら辺のことは、僕はまだよくわからない。

「強化スキル」については魔法スキルの分類であり、僕にはあまり馴染みがない。

魔法スキルのことなんて、僕は何も知らないのだ。


僕はおっさんにここまで連れてこられて、最初に教わったこの「刀剣スキル」の上げ方を聞いたとき、おっさんは頭がおかしくなってしまったのではないかと思った。

物語に登場する迷い妖精が本当に存在するのではないのかとも。

僕がこの「変な」やり方でスキル上げをすることになった背景には、もう少し話を戻す必要がある…。






今日も少し早く起き、僕と奴隷のマクダフは露天市場へと向かった。


準備をしているとおっさんとエリヤがやってきた。

エリヤは昨日で客引きの仕事が終わったと思っていたのか、今日もおっさんから仕事をもらえて一層喜んでいる様子だ。


「よし、揃ったところで今日の売り物について話す。よく聞け……今日は『ヘスサ』と『パンポタ』を売るんだ!

特にパンポタは最高だ。量が多く作れるし、コスパは最強だからな」


ヘスサについては知っているが、パンポタという料理については僕にはまだ知らなかった。


「トリポリオの旦那ぁ……『ヘスサ』と『パンポタ』って何ですかい?

俺にできるなら、コックさんでも傭兵さんでも、物乞いさんでも何でも良いですがねぇ」


マクダフがおっさんに尋ねた。知らないものは、僕と同じように作りようがないのだ。


「ヘスサは、マヨネーズサンドイッチですわ。マヨネーズが最高なのよ」

エリヤの説明は少しおかしい。でも、半分くらいは合っていて面白い。


「蛇肉を焼いてステーキにし、パンに挟んで出すのがヘスサだ。エリヤが言ったように、マヨネーズは絶対に忘れるな。パンポタはパンと卵を使ったスープだ。簡単だが、料理スキルが高いほど一度に作れる量が増える。」


パンポタとは、パンポタージュ(おかゆのようなもの)のようだ。これなら僕でも作れそうだ。

こんな簡単な料理が、ヘスサ同様にお金稼ぎになるのか。僕にはまだわからなかった。


「ジョン……お前とマクダフで少し試作してみろ。レシピは簡単だ。誰でも知っていれば作れるが、違いがはっきり出る料理だからな」


そう言って、おっさんは僕とマクダフに作り方を教えてくれた。

何とも簡単な料理だ。パンを小さくちぎって水と一緒に鍋に入れ、卵を入れてかき混ぜるだけ。これを「煮込む」という調理法で作るのだ。


煮込む時間は少しかかるが、僕でも作れた。出来上がった料理をお互いに出し合う。見た目に大きな違いはないが、僕のスープは少し色が薄い気がする。


「さぁ、エリヤに食ってみろ……どっちがうまいか言ってみろ。お前らも互いに食べて比べろ」


すぐにエリヤがパンポタを手に取り、食べるというよりは飲むような仕草で口に運んだ。僕とマクダフも、おっさんの指示通り二杯ずつ飲み比べる。


「ああ!僕のパンポタのほうが味が薄い。なんだこれ、マクダフのパンポタは味がこすぎる……」

「やっぱりね。ジョンよりこっちの強面のほうが、食べた感じがあるわ。なぜなの……?」

「旦那ぁ……旦那の料理は味が薄すぎるぜ。アナポロス協会の教団に出す料理じゃないんですぜこれ……」


さんざんな言われようだったが、僕の作ったパンポタはマクダフのものと比べると明らかに劣っていた。

僕が作った料理を知らない人に出せば、きっと美味しいと言ってくれるはずだ。

僕自身、作る料理はどれも美味しく、料理屋を開けるレベルだと思っていたのに、実際はそうではなかった。


「なっ、俺が言ったとおりだろ。ジョンは料理スキル 13、マクダフに至っては 32。これだけの差があれば、味にも違いが出るのは当然だ。

そして、その美味しいマクダフの料理に『これ』を入れる。これがパンポタの隠し味だ」


おっさんは不思議な液体を鍋に入れた。

食べられないものを入れるとは思えないが、何を入れたのか僕には分からなかった。マヨネーズなら分かるのだが。


「さぁ、お前ら食ってみろ……飛ぶぞ」

マクダフが作ったパンポタに、何かの液体を入れて軽く混ぜ、煮込んだものを前に出した。

一口食べてみると、はっきりとわかった。

このおっさんが作ったパンポタは、僕の作ったものよりも美味しく、マクダフのものよりもさらに深みがある。味が「こもっている」のだ。僕の作るヘスサとはまた違う、濃い味がする食べ物だ。


「おいしいっ!これは売れますわ……ヘスサと一緒に出せば軽食セットに!セットで少し単品より安くすれば、もっと売れそうですわ!」


「スゲー濃いぜこのパンポタとか言う料理……一度食べたら絶対に忘れない味だぜ……もう一杯頼む」


どうやらみんな美味しいと思ったようだ。誰も聞かないようなので、僕が尋ねた。

おっさんが入れたあの液体の正体は何か。


「いきなりマクダフの料理がもっとおいしくなったけど、何を入れたの……? その液体はマヨネーズみたいなものなの?」


おっさんから返ってきた答えは、僕はあまり聞きたくなかった。


「あの液体の正体はな、『蛇肉』さ……蛇肉を水や調味料と一緒に煮込んで作ったブイヨン……いや、出し汁だ。あれを水 1:出し汁 3 の割合で混ぜたら、もっとうまくなるぞ。病みつきになるぞ……」


また蛇肉か。

僕は野蛇を狩りまくったため、呪われてしまったのかもしれない。

もし野蛇の神様がいるとしたら、絶対に僕をおこっているだろう。

焼くだけでなく、煮込んでもしまった。


「そんな料理方法もあったんですね、トリポリオの旦那ぁ……じゃあ俺は今日、サンドイッチとパンポタージュを作って売れば良いんですね」


「ああ。売るのはエリヤに任せろ。お前は料理スキルを活かせ。個数制限はない。作れるだけ作って売れ。」


そう言って、おっさんは調味料のマヨネーズを作る材料とパンポタのための材料をテーブルにどんどん置いていった。

両方の料理にパンを使うようだ。

僕が持っている残りの食料品ドロップスクロール5 枚をすべて渡した。


朝食としてヘスサとパンポタを食べて、露天市場が開かれる前に、僕とおっさんはスキルアップのために河畔に向かった。






「ここら辺まで来たら、まぁ人に会うことはないだろう… 早速教えるぞ、最高の初期刀剣スキル上げ最適解を。」


そう言って、おっさんは周囲を見回し、ひときわ大きな岩を見つけ、指を差した。


「ジョン、この岩に向かって剣を振り上げて、叩き切る感覚で打ってみろ」


とっさにこの大きな岩に向かって剣を振るよう言われて、僕は驚いた。

こんな大岩をどうやっても僕には真っ二つにすることはできない。それに、僕の武器が壊れてしまうかもしれない。

それは絶対に嫌だ。


「お…… おっさん! こんな大岩に剣を振ったら剣が壊れちゃうよ…僕、この剣しか持ってないのに…… これ壊れたらどうやってこれから狩りをやっていくんだよ。

僕を本当に料理人にするつもりか?」


「ジョン、お前は武器一つしか持ってなかったか…? すまん、すまん。ならこれを使え。少しお前にはデカいが、魔物を狩るわけじゃない。気にするな」


おっさんが、僕には少し大きめの青銅の剣をわたしてくれた。

話を聞けば、これは僕の「持っていた剣」のようだ。僕がこんな武器を持っていたとは知らなかった。

手持ちの武器よりもいくらかマシな青銅の剣を、大岩に向かって振っていいものだろうか。

僕は少し考えていた。


「安心しろ…… これはお前の立派な所有アイテムだ。壊したところで誰かに怒られたり怨まれたりすることはない…… さぁ、やってみろ!」


僕はおっさんの指示通り、大岩に剣を振った。


――ガンッ! ガンッ! キィン! ガキィン!


かなり反動がある。

はね返ってきた剣に刺されそうになり、結構な危機感を覚えた。

初心者冒険者が、自分に合わない武器を持って、倒せないもの(大岩)に攻撃をしている。これは危険だ。


「そうだ。まぁ、初めはそんなもんだろう……じゃあ、次教えるぞ。ついてこい」


ここら辺で十分だろうと、大岩から少し離れた川へと連れてこられた。

何をするのだろうか。僕は少し怖かった。

大岩に剣を振ったと思ったら、次は川だ。この青銅の剣で魚でも捕まえろというのだろうか。


「この川に膝あたりまで入って、剣を水面に打ち付けろ。慣れたら腰まで入って、水面に打ち付けろ」


おっさんの顔を見ながら、僕は何も考えずに指示通り、膝あたりまで川に入った。

川の水は冷たかった。靴の中に水や小石が混じり、不愉快だった。

何も考えずに、水面に青銅の剣を叩きつける。


――バシャァン! バシャァン! ゴボッ… バシャァン!


何を僕はやらされているのだろうか。

この時の僕の顔はどうなっていたろうか。

剣聖のような顔か、それとも何か違うのか。

何度か大岩に剣を振ってはじかれ、膝まで川に入り剣を叩きつける。


――これを繰り返す。


僕とおっさんはこの間に何も話さなかった。

たまに、僕はおっさんの顔をチラッと見たりした。


「よし、そろそろいいだろう……見てみろ、ステータスを。これでも、その顔で俺を信じないかぁ…?」


おっさんはニタニタと笑いながら、僕にステータスのスキル値を確認するよう促した。

何かあるようだ。


ステータスを確認してみた。


■武器系

刀剣スキル:6

盾スキル:3

戦闘技術スキル:2


■生産系

料理スキル:13


■その他

鑑定スキル:0.3


「刀 6、刀剣スキル 6、刀剣スキル 6 だ。僕の刀剣スキルが 6 になっている。

三度も見た。間違いはない。刀剣スキルが 6 になっている。

こんなおかしな話はない。僕は笑ってしまった。」


「オヒョ… フヒョヒョヒョ……おっさん、これは一体!何がおきたって言うんだ。こんなオヒョヒョ…?」


僕はおっさんに何がおきたのか聞きたかったのと同時に、笑いが出てしまった。

この状況で笑わない冒険者はいないだろう。


「武器スキルの上げ方は一つじゃない。魔物を狩ったり、対人戦闘でもスキルは上がる。いや、上げることができる。ではなぜ、物体に武器を振ってスキルが上がらないと考えるのか。ジョン……お前はあまり人前で笑わない方がいいぞ。」


僕はそんな「物体に武器を振り続けてスキルを上げる」という話を聞いたことも見たこともなかった。

もし僕がこのやり方で刀剣スキルを上げたと言っても、誰も信じてくれないだろう。

そんな話をする人がいたら、どこかへ連れて行かれて二度と会えなくなるかもしれない。


初心者冒険者に良いスキル上げを教えてやると言って、こんな町から離れた「河畔」まで連れてきて、大岩を指さして持ってる剣を振り下ろし、叩いて、そのあとあの川で水面に剣を叩きつけろと言われて、言われるがままこの作業をしてくれる初心者冒険者はいるだろうか。


僕以外にいないだろう。

きっとこれから先にも、後にも。

【あとがき:現在のステータス】


【スキル】

■武器系

刀剣スキル 6(前回 4 → 今回は 2 上昇)

盾スキル 3

戦闘技術スキル 2


■生産系

料理スキル 13


■その他

鑑定スキル 0.3


【所持金】

115g


【所持アイテム】

・蛇肉(大量)

・???のスクロール 6枚

・奴隷のマクダフ

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