第36話「いつも通り」
朝だった。
村は、いつも通りだった。
空は明るい。
風は弱い。
音は、少ない。
家の中で、ユルが目を開ける。
しばらく、動かない。
天井を見る。
何も考えていない。
やがて、体を起こす。
ゆっくりと立ち上がる。
外に出る。
光が、少しだけまぶしい。
目を細める。
誰かが通る。
軽く会釈をする。
ユルも、少しだけ頷く。
それだけ。
道を歩く。
急がない。
止まりもしない。
ただ、進む。
井戸が見える。
いつもの場所。
その周りに、少し間がある。
誰も近づかない場所。
ユルは、そこへ行く。
同じ位置に座る。
いつも通り。
風が通る。
石が、積まれている。
形は整っている。
誰が作ったのかは、もう分からない。
子供が少し離れたところで遊んでいる。
声は小さい。
大人たちは、静かに動いている。
無理をしていない。
それでも、回っている。
遠くでは、荷物を運んでいる。
ゆっくりと。
急がない。
それで間に合っている。
誰も困っていない。
世界は、完成している。
どこでも。
争いはない。
混乱もない。
大きな変化もない。
ただ、続いている。
そのまま。
ユルは、石を見る。
少しだけ視線を動かす。
それ以上は何もしない。
興味もない。
やがて、空を見る。
雲が流れている。
ゆっくりと。
しばらく、そのまま。
時間が過ぎる。
何も起きない。
何も変わらない。
それでいい。
ユルは、小さく息を吐く。
「……まあいいか」
誰に向けた言葉でもない。
意味もない。
確認でもない。
ただ、出ただけの言葉。
風が、それを流す。
誰にも届かない。
ユルは、横になる。
目を閉じる。
すぐに動かなくなる。
周りの音が、少し遠くなる。
村は、そのまま続いている。
何も変わらない。
これからも。
ずっと。
何も起きない。
それで、終わる。




