第24話「来訪」
朝だった。
村の外に、人が集まっている。
見慣れない装い。
整った動き。
数は多くないが、明らかに違う。
その中心に、ひとり立っていた。
王だった。
特別な音はない。
号令もない。
ただ、静かに立っている。
村の中も、いつも通りだった。
人は動いている。
声は小さい。
間がある。
違いは、外側だけ。
王は一歩、村に入る。
土の感触。
風の流れ。
少しだけ、目を細める。
「……静かだ」
ぽつりと言う。
隣にいる側近が、わずかに頷く。
「はい」
それ以上の説明はない。
王はゆっくりと歩く。
急がない。
誰も急がせない。
すれ違う村人が、軽く頭を下げる。
声は出さない。
王はそれを見る。
視線の動き。
距離の取り方。
無駄のない所作。
すべてが、整って見える。
井戸の方へ向かう。
人がいる。
けれど、密集していない。
自然に空いている場所。
その中心に、ひとり座っている。
動かない。
話さない。
ただ、そこにいる。
王の足が止まる。
「……あれか」
小さく言う。
誰に確認するでもない。
それでも、側近が応じる。
「報告にあった中心人物かと」
村長が少し離れたところに立っている。
呼ばれて、近づく。
「……あの者で間違いないか」
王が聞く。
村長は一瞬だけ言葉を選ぶ。
確信はない。
説明もできない。
「……はい」
小さく答える。
否定はできなかった。
王は、もう一度ユルを見る。
何もしていない。
何も示していない。
それでも。
周囲の空気が、その位置を基準にしている。
人の流れが、そこを避ける。
距離が保たれる。
王はゆっくりと頷く。
「なるほど」
短い言葉。
だが、その中に確信がある。
「意図的に、何もしていないのだな」
誰も否定しない。
誰も肯定もしない。
それでも、その解釈はそのまま通る。
「無為による統制…」
王は小さく呟く。
新しい言葉が生まれる。
ユルは、動かない。
聞いていない。
王は一歩だけ近づく。
空いている空間へ。
足が止まる。
一瞬だけ、沈黙が深くなる。
それ以上は進まない。
王は、そこで立ち止まる。
「……十分だ」
静かに言う。
それ以上、近づかない。
振り返る。
「この村は、そのままでよい」
側近が頷く。
村長も、遅れて頷く。
何も変わっていない。
何も決まっていない。
それでも。
何かが確定した。
王は歩き出す。
来た道を戻る。
音は小さいまま。
空気も変わらない。
ユルは、目を閉じている。
王が来たことも、知らない。
見てもいない。
少しして、目を開ける。
周囲を見る。
人はいる。
少し多い気もする。
首を傾げる。
「……なんかあったか?」
誰も答えない。
風だけが、静かに通り過ぎた。




