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「魔王として転生した元勇者、もう人間には味方しない」  作者: ごま
この世界に、俺の居場所はない

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14/16

影の鏡、名前なき夜


王都ルメル。

聖王宮の高塔、その最上階にて――


神導リアナは、静かに祈りを捧げていた。


眼前には一枚の“神鏡”。

女神レリアと繋がるとされる聖具。


その表面に映っていたのは、勇者レオナの姿だった。


「……まだ、不完全」


リアナの声は、冷たくも美しかった。


「魂に“裂け目”がある。……だが、それでこそいい」


神鏡が微かに脈動する。


(神は完全を求めない。

不完全こそが、調整しやすく、物語を導きやすい)


「この勇者は、いずれ“正しい絶望”に至る」


それが、教会の方針だった。


祈りの名のもとに――勇者という“役割”を完遂させるために。



その頃、レオナは王宮の一室にいた。


祝宴の準備のために着替えを命じられていたが、彼の手は止まっていた。


(……俺は、どうして戦ってる?)


魔物を斬った。

人々に称えられた。

けれど、心が追いつかない。


「“勇者様”」


控えの間から声がする。

白いローブの神官が、優しく微笑んでいた。


「お支度は進んでいますか?」


「……はい」


無意識に応えていた。

もう、否定することも、意味を持たないと知っていた。


けれど。


(“あの声”は、なんだったんだろう)


初任務の帰り、広場の影で――

彼は確かに、誰かに“見られていた”気配を感じた。


言葉も、音もなかった。

けれど、あれは――呼ばれていた。


(俺を……見透かすような、瞳だった)


彼はまだ知らない。

それが、“魔王”の視線だったことを。



一方、黒神城では。


リヴァンは、玉座の間にいた。


左手の黒神盤が、低く唸っている。


「……何かが、動いたな」


アルヴィアが姿を現す。


「神鏡の力が作動しました。女神教会の内部、勇者の意識に干渉が始まっています」


「つまり、“物語”を強制している」


リヴァンは目を細めた。


「なら――俺も“干渉”しよう」


ネグレウスが笑う。


「王が動く、ということだね?」


「いや。まずは“彼女”を動かす」


その言葉に、アルヴィアとネグレウスが一瞬だけ視線を交わす。


リヴァンは、玉座の間の片隅に立つ少女へ目を向けた。


ルシア。


白い髪に、静かな紅の瞳。

何も言わず、ただリヴァンの背後に立ち続けていた存在。


「ルシア」


その名を呼ぶと、彼女は小さく首を傾げた。


「あなたに――“記憶”が戻ったら、何を見ると思う?」


「……わかりません」


「なら、思い出してみるか? お前の中にある“真実”を」


黒神盤が唸り、空間に黒い歪みが走る。


その中心で、ルシアの瞳が揺れた。


「……私が何者で、なぜここにいるのか……」


その声には、微かに震えがあった。


「必要なら、記憶を暴いてやってもいい。だが――選ぶのはお前だ」


ルシアは、しばらく黙っていた。

やがて、ゆっくりと口を開いた。


「……いいえ。まだ、知りたくありません」


「理由は?」


「知らないままで……あなたのそばにいたい、から」


静かだった。


だが、その言葉の奥にある“意志”だけは、確かにリヴァンに届いていた。


(……異物、か)


かつて、自分も世界の異物だった。


なら、この少女もまた――。


「なら、いい」


リヴァンは立ち上がる。


「いずれすべての偽りが暴かれる。その時、お前が選べばいい」


ルシアは静かに頷いた。



「王」


ネグレウスが前に出る。


「準備は整っています。王都への“次の仕掛け”……例の“記録の幻廊”を使えば、今度は神導たちに直接揺さぶりをかけられる」


「やれ。真実は一つずつでいい。だが確実に、“見せつける”」


「了解」


ネグレウスが笑う。その顔にあったのは、ただの愉悦ではなかった。


(この王なら、本当にすべてを壊すかもしれない)


黒神盤が静かに、だが確かに脈動していた。


物語は、ゆっくりと転がり始めていた。


誰もが――“自分の役目”から逃れられないままに。


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