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31 アキハバラinBAP

―――四ツ谷杯三日後 午後一時


 秋晴れのBAP世界の秋葉原、如月コンサルティングの真田悠斗は同僚の河合春菜と二人でBAPにログインし、ヨドバシカメラ前の通りを歩いていた。

 この日二人は、BAP内に新しくオープンした丼玉屋の店舗の視察に行くところだった。


「何回見ても恥ずかしいですね、この動画」

 春菜はスマートフォンでネットに接続して、四ツ谷杯の録画映像を見ながら歩いている。

「うわー何これ、私完全にモジモジ君ですよ、もうお嫁に行けないわ。あ、真田さん撃たれちゃいましたよ」

「なに歩きスマホやってんだ、行儀悪いだろ」

「あー、私も撃たれちゃいました。真田さんがちゃんと敵を倒してくれないからですよ。カーリーさんが倒してくれたから良かったですけど」

「仕方ないだろ、相手が遠かったんだから。無理を言うな」


 四ツ谷杯は品川陣営の勝利で終わった。十倍の賞金と副賞のA―10攻撃機が授与された。

 こぶ茶と主要メンバーの協議の結果、A―10攻撃機はイベント専用で使うことが決まり今は羽田空港に駐機されていた。


 イベント終了後、品川陣営の勝利が発表されると、四ツ谷杯を観戦していた世界中のプレイヤーからクレームが殺到した。品川陣営は最後、フラグに触っていないという抗議だった。

 負傷した真田と春菜が肩を抱き合ってフラグに歩み寄るシーンは世界中のBAPプレイヤーに数億回再生され検証が行われたが、やはり二人はフラグには触っていないとの結論に達した。


 イベント終了間際、真田と春菜は確かにフラグの目前まで近づいたが、本人たちもやはり旗に触った覚えはなかった。その時二人はなぜ勝ったのか分からず、首をかしげながらログアウトしたのだった。


 イベントの翌日、謎はあっさりと解けた。

 二人がログインしてディケロのビルに行くと、ジョーがニヤニヤしながら待っていた。ムサシとナミとロッキーと、カーリーとジュリアもみんな集まっている。


「おつかれさまー、勝っちゃいましたね! なぜか」春菜が陽気に言う。

「おまえら二人の愛の力のおかげじゃないか?」ジョーが冷やかす。

「ははー、何言ってるんですかジョーさん冗談がきついですよ」春菜が顔の前で手を横に振る。


「それにしてもやっぱり訳が分かりません。あの時確かにフラグには届かなかったんですが」

 真田は訝しげだったが、ジョーは相変わらずニヤニヤしている。他のメンバーもどうやら事情を知っているらしく、やはりニコニコしながら二人を見ている。


 ジョーがテーブルの上に置いてある電磁メタマテリアルスーツを取り上げた。

「これを忘れているだろ」

「あ、これもしかしてジュリアさんが着ていたやつですか? じゃあジョーさんが?」

 春菜の顔がパッと明るくなる、真田も気づいた様子で「なるほど」と頷く。


「ああ、俺が透明の体でフラグに触った。その直後に犬爆弾で吹っ飛ばされたけどね」

「なるほど、それで録画映像にはなにも映っていなかったんですね」

「今、こぶ茶さんがドローンの赤外線録画を公開する準備をしている。品川は今回の勝利ですっかり悪者にされてるからな」

「確かにひどい噂が流れてますよね、チート技使ったんじゃないかとか言われてるけど、そんなことする訳ないのに、って言うかBAPのガードは固すぎてハッキングとかできないし」

「と言うわけで、今回の勝利の一番の功労者は、このスーツを置いていってくれたジュリアに決定だな」

「え? 私ですか? 私何もできなかったのに」

「みんなはくしゅー!」

 全員がパチパチと手を叩いた。ジュリアは照れてモジモジした。



――――――


「それにしても、BAPの中に店を開くなんて丼玉さんも思い切ったことしますね」

 春菜が歩道を歩きながら動画アプリを閉じて真田に言う。

「社長はジョディと話す楽しさをもっとみんなに知ってほしいって言ってたからな」

「じゃあ、自由に話せるようにジョディさんをネットで公開すればいいのに」

「いや、社長のこだわりはやはりリアルのアンドロイドだから、二次元のジョディはジョディじゃないってことなんだろう。BAPは理論的には二次元だが、人間の知覚的には三次元だから、社長的にはオーケーなんだろうな」


「なるほど、やっぱりこだわりを極めようとする人は考えることが違いますね。あ、真田さん、あの行列もしかして」

「ああ、秋葉原店の行列だな」

 行列は二百メートルはあるだろうか、BAPプレイヤー達の長い列ができている。


「今日は、やっぱり並ぶんですよね」

「そうだな、一応丼玉さんからの要請でオフィシャルな訪問だが、今日は並ぶしかないだろう」

「あー、早くジョディさんとお話ししたいなー、四ツ谷杯のこと話したらきっと興味持ってくれますよね」

「そうだな、楽しみだな」

 二人は行列に歩み寄ると、大人しく最後尾に並んだ。


 二人が並んだ行列の上空には、燕型のドローンが飛んでいた。フォークトが設計し、春菜がプログラミングしたパロパロ君だ。

 ジョディはそのドローンからの映像を見ていた。

 真田と春菜が列に並ぶのを確認すると、二人の表情、顔色、髪型、姿勢、動作のスピードなどから情報を分析し、体調、疲労度、ストレス度、機嫌などを推測する。


 丼玉屋秋葉原店の事務室のパソコンにはジョディの顔が表示されている。

 その顔がしゃべった。


「私も早くお二人とお話ししたいです楽しみです!」

 パソコン画面のジョディはにっこりと微笑んだ。


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