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17 トウキョウ01

―――四ツ谷杯一週間前 午後十一時


 有楽町駅の戦闘で敗北した上野軍は、品川軍の追撃をかわしつつ東京駅の北側まで後退し、そこで防御ラインを敷いた。品川軍は東京駅の南端まで進出し、当初の目的の有楽町駅の『入り口』を支配下に収め防衛態勢を整えた。


 この日の戦闘はいったん落ち着いた形だったが、品川陣営の四ツ谷杯の準備作戦はまだ終わっていなかった。

 深夜になり、今度は真田が提案した山手線活用作戦の事前準備のため、真田はムサシとピンクドルフィンの如月ハニーとともに東京駅に向かっていた。

 

 一行には同じ品川陣営のプレイヤーのアキラが同行している。

 アキラは黒焦げこぶ茶から紹介された品川陣営のプレイヤーだった。

 アキラは終始無言で黙々と先頭を歩いて行く。その後ろにムサシと真田、しんがりは如月ハニーだった。

 誰にも出会うことなく、一行は旧八重洲ブックセンタービルの前を通り過ぎる。


 先日こぶ茶の元を訪れた際にアキラのアドレスを教えてもらい、真田はすぐにメールで山手線の作戦活用について相談をした。

 しかし一週間全く返事がなく、日比谷公園での戦闘後の夕方にやっと一行だけメッセージが来た。


『今夜十一時に有楽町マリオン前 腕の立つ奴を連れて来い』


 メッセージを読んだ真田は追加の質問メッセージを返したが結局返信は無かった。


 こぶ茶の話ではアキラはかなりの変わり者で、どこのチームにも属さず自宅も持たず、いつも一匹狼で行動しているとの話だった。ただ、以前から謎の山手線のことを調べており、品川陣営では彼が一番山手線に詳しいということだった。


 質問に対する返事がもらえなかったので、真田は様々な状況を想定して潜入メンバーを人選した。

 まず、山手線の始発駅である東京駅への潜入を想定し、なるべく少人数による構成が望ましいと考えた。それからアキラの返信に書かれていた『腕の立つ奴』について考察した。射撃の腕ならカーリーだが、潜入任務ならばムサシの方が応用が効くと考えた。あとは万一上野軍との射撃戦になった時の護衛だが、山手線作戦の担当はピンクドルフィンが適任と考えていたので、リーダーの如月ハニーに依頼した。


 一行は東京駅の南端に到着した。東京駅は巨大な建造物で、上野陣営が陣地を構える北端までは四百メートルほど離れている。春菜のバックアップで敵ドローンの妨害を行なっていたが、それでも真田たちは油断せず辺りの様子を伺いながら進んだ。


 八重洲南口の改札から構内に入ると、駅の中は明かりが点いていた。無人だった。しんと静まり返り、真田たちの足音だけが不気味に響く。

 アキラはどんどん先に進んで行き、五番線ホームの階段を上る。


「どこに行くんだい?」

 ハニーが周囲を警戒しながら真田に小声で尋ねる。

「多分、山手線のホームだと思います」

「あの夜中に一周するあれかい」

「今度の四ツ谷杯でハニーさんのチームに乗ってもらおうと思っています」

 真田が答える。


「いや、あれは確か人は乗れないはずだろう」

「それを何とかしようと思いまして」

 真田が時刻を確認すると午後11時20分だった。アキラは無言のまま階段を登りきる。ホームには山手線の緑色の車両が停まっていた。乗降ドアは全て閉まっている。


 ホームを神田方面に少し歩くとベンチがあり、そこに二人の若い女性が座っていた。アキラはつかつかとその二人に歩み寄ると、くるりと振り向いて言った。

「山手線の運転士と車掌だ」

 アキラはそう言うと一歩下がって黙ったまま突っ立っている。


「えっ?」

 真田は突然突き放されたように話を振られて困惑した表情で聞き返す。しかしアキラは何も言わずそっぽを向いている。

 二人の女性は座ったままつぶらな瞳で真田を見つめている。二人ともJRの制服を着て、両手を膝に置いて双子のように仲良く並んで座っている。


 真田はムサシとハニーを振り返った。二人とも手をどうぞお先にの形で前に出す。

 真田はとりあえず二人をタップしてみた。紫色の文字で『チエ』と『チナツ』と表示された。

 ハニーも真田の隣でタップの動作を取る。

「NPC・・・みたいだな」

「そうですね、とりあえず話しかけてみますか」


 真田は軽く咳払いをして二人のNPCに話しかけた。

「あのう、私は品川陣営の真田と申します。初めまして」

 真田が礼儀正しく挨拶すると、NPC二人も揃ってペコりとお辞儀をした。

 二人はあどけない表情で真田を見上げる。


「すみません、来週の日曜日にこの電車に乗りたいのですが」

 真田がホームに停車中の緑色の車両を指差しながら言うと、NPCの二人は顔を見合せた後、同時に答える。

「それはお願い事ですか?」声がキレイに揃っている。

「はい、お願いごとです」


 ふたりの顔がぱっと明るくなり、再び声をそろえて言う。

「承知いたします、では勝負です!」


 チナツはそう言う終わると同時にさっと立ち上がっていきなり真田に殴りかかって来た。

「うわ!」真田は手で頭を守る姿勢を取る、チナツの強烈な右パンチが真田の顔面を襲う。

 すかさずハニーが間に入り、チナツの右パンチを腕でガードした。


 ほとんど同時にチエも襲いかかる。それを見たムサシが大きく踏み込んで剣を居合抜きする、チエは間一髪鼻先でムサシの切っ先をかわし、後ろに飛び退いた。


 真田は一歩下がって言う。

「どうやら、お願いを聞いてもらうにはまずは勝負しないといけないようですね」

「なるほど、それで腕の立つ奴が必要って訳かい」


 山手線のホームは発砲禁止区域という判定のため、銃が使えないエリアだった。ハニーは銃を下に置くと、腰からアーミーナイフを抜き放って順手に構える。

 ムサシとハニーは並んで構えた。チナツとチエは素早い動きで左右に展開し、両側から回り込むフォーメーションを取り、そのまま一気に間合いを詰めて二人を挟撃する。


 チエがハニーに回し蹴りを放つ、ハニーはそれを身をかがめて避けると一歩踏み込んでナイフを突き出す。チエは軽やかにスウェーバックしてかわす。ハニーが続けて二歩三歩と踏み込んでナイフの突きを放つが、チエはその度に身を翻してかわし、体勢を立て直すと反撃の左のパンチを繰り出した。


 ハニーは素早くナイフを逆手に持ち替えるとチエの左パンチを迎え撃つ体勢を取る。

 しかしチエの左パンチの動作はフェイントだった。ハニーのナイフによる防御は空振りになり、その代わり右の脇が甘くなった。そこにすかさずチエの強烈な右パンチが炸裂する。


「うっ」ハニーは顔をしかめてよろける。

 チエはその隙を逃さず、左パンチをハニーのみぞおちに打ち込んだ。ハニーは膝をついてナイフを取り落としてしまう。チエがその落ちたナイフを蹴り飛ばす、ナイフは軽い金属音とともにホームの端まで滑って行く。


「なんだこいつら。動きが普通じゃねぇ」

 みぞおちを抑えて動けなくなったハニーの横をチエが悠々と通り過ぎる。


 ムサシはチナツに向けて横薙ぎに剣を振った。しかしチナツはそれをダッキングでかわして一気にムサシの懐に間合いを詰め、強烈な右パンチをムサシの腹に見舞う。

 チナツの顔がムサシの顔のすぐ下まで来ていた。ムサシは彼女のパンチを左手で受け止めながら、右手に持った剣の柄で彼女の側頭部を殴りつける。チナツは素早く後ろに飛んでかわし、間合いを取った。


 ムサシは剣を左下段に構えて滑るようなすり足で間合いを詰める。チナツも同じく前に出る。彼女が剣の間合いに入った瞬間、ムサシはダッキングでは避けられない低い軌道で左下から剣を振り上げた。しかしそれと同時に、チナツは前進を止めて急停止する。ムサシの剣先はチナツの制服の胸のあたりを薄く切り裂いて空振りする。ムサシは何万回も繰り返した居合の型で、振り上げた剣を目にも止まらぬ速さで振り下ろす。しかしその振り下ろしもチナツの髪の毛を数本切っただけで空振りに終わった。


 チナツはムサシの右に回り込み気味に一気に間合いを詰めて来る。その時、ナミを無力化して接近していたチエが後ろから回し蹴りを放つ。ムサシはその蹴りを身体をそらしてかわし、一気に横っ飛びに跳びのいて二人から距離を取った。

 二人の後ろを見ると、ハニーが真田に抱えられて離れていくのが見えた。一対二の戦いになっていた。


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