表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/76

01 カーリー03

 アラームが鳴りウィンドウが開き、視界右下のレーダーには渋谷陣営プレイヤーを表す赤い点が五つ表示さる。さらに視界中央にドローンからの映像が表示され、何人かのプレイヤーの姿が映し出される。同時にAIが読唇術で読み取った会話内容が字幕で表示される。これもチームメイトがゲーム内で開発した独自機能だった。


『昨日さぁ、彼女と温泉に行ったんだけどさぁ、夜寝かせてくれなくて寝不足なんよ』

『まじか、そりゃうらやましいなぁ』

 軽薄な会話である。

 隊列もバラバラで緊張感のかけらもない。香織は伏射の姿勢でドラグノフを構えて無表情にスコープを右目に当てた。両足を爪先立ちにして体を固定しお尻に軽く力を入れて肛門を締め、射撃の反動に備える。


 最後尾のプレイヤーの腹部に照準を合わせる。心臓の音を聞き、吐息、指、引き金、そして銃声。


――― ダァァン


 ドラグノフの7.62x54mmR7N14弾が四条右回りの銃身ライフリングを通過して放たれる。その0.6秒後、弾丸は男のアバターの胃のあたりに命中した。

 男は体をくの字に曲げてガックリと膝を落とす。


 異常に気づいた前の四人が驚いて振り返る。

 香織は慣れた手つきで次弾を装填し、次に隊列の先頭で振り返った男の背中に照準を合わせる。


 心臓、呼気、指先、銃声・・命中・・・

 男は膝を折ってうつ伏せに倒れた。香織は素早く次弾を薬室に送り込む。


 前から三番目を歩いていた男は危機を察知して横っ跳びに路地に逃げ込もうとした。

 動きの速い目標の狙撃は難易度が上がるが、香織は全く慌てなかった。

 男の移動する先の未来の空間にアバターの輪郭がはっきりとイメージできた。素早く狙いを微調整する。


 一、二、三、銃声・・・

 男の路地への回避はぎりぎり間に合わず、やはりうつ伏せに道に倒れた。


 残りの二人は逃げずにその場に伏せてきょろきょろとあたりを見回しながら銃を構えていた。

 右側の男がスマートフォンを操作している。読唇術アルゴリズムは恵比寿駅にいる仲間に救援要請をする会話を文字表示している。

 香織はその男の手に照準を合わせて引き金を引く。弾は男のスマホと指を粉々に砕き、そのまま貫通して右の肺にめり込んで止まった。


 香織の身体はもうすっかり熱くなっていた、吐息が漏れそうになる。

 撃たれた四人はまだ生きていたがもう戦闘は行えない重傷だった。血を流して道路に転がっている。

 最後の五人目の男は恐怖に顔を引きつらせながらきょろきょろと狙撃手を探している。

 香織の残虐な性癖が発動する。

 香織は五人目の無事な男の目の前に倒れているリーダーらしき男の横顔を狙って撃つ。ポンと頭が割れて伏せている男の顔に血がべっとりと飛び散った。


『うわぁ』

 ドローンの読唇術アルゴリズムは悲鳴も忠実に読み取って文字にする。男の顔が醜くひきつる。

 男は無様に向きを変えると這いつくばったまま元来た道を引き返し始めた。香織はすかさず最後尾で瀕死になっている男の額を狙う、逃げる男の目の前で再度人間の頭がポンと割れた。


 逃げる男はさらに向きを変えて今度は路地に逃げ込もうとする。そこには先ほど路地に逃げ切れずに撃たれた男が瀕死で転がっている、香織はその逃げ損なって倒れている男の後頭部を撃った。


 三たび、男の目の前で仲間の頭が砕けた。

『ひぃ、ひぃひ』

 男はついに逃げ場を失い、その場にへたり込んだ。先ほど彼女に寝かせてもらえなかったと話していた男だ。

 涙を流しながら胸の前で指を組んで祈りを捧げるようにお辞儀をするポーズを繰り返している。。


 香織は男の眉間に照準を合わせる、スコープ越しに鼻水とよだれを垂らして泣きじゃくる情けない顔が見えた。

 香織の下半身から熱い液体が大量にあふれ出る、興奮が極限に達する。

「はぁはぁ」香織は震える快感を必死にこらえながら射撃動作に入る。


 心臓、吐息、指先、引き金、銃声・・・

 男の眉間にポンっと紅い花が咲く。同時に、香織の後頭部に電撃のような衝撃が走り、全身が痙攣し、下半身から熱い液体がほとばしった。


「んんんーーー・・・」

 香織は興奮のあまり耐えきれず、失禁していた。




01-04


 香織は渋谷陣営のプレイヤーを全滅させるとドローンの情報を確認した。あたりに敵の気配は無かった。

 下着はびしゃびしゃに濡れていたが、もうしばらく興奮の余韻に浸っていたかった。香織は落ち着きを取り戻すために目をつぶって一つ、大きく深呼吸をする。脳裏にはまだ最後の男の断末魔の表情が残っている。

 香織は目をつぶったまま恍惚の笑みを浮かべる。


 目を開き再び双眼鏡を覗くと、いつの間に現れたのか、路上に一人の女性プレイヤーが立っていた。

 モデルのような長身に、デニムジャケットとレザーパンツのアバターだ、美しい黒髪が眩しい。

 しかし何より香織が驚いたのはその顔立ちだった。


 BAPのアバターはプレイヤーの顔をスキャンして作られるので本人に似た顔の作りになる。ある程度の調整はできるが、基本的な骨格は大きく変えることはできない。

 しかしこの女性の顔は、その基本的なパーツの構造と配置のレベルで、香織が今まで見たどのアバターより完璧に均整が取れていた。まるで有名な彫刻家の作品を見ているような、息をするのを忘れてしまうほどの美しさだった。


 アバターをタップしてハンドルネームを表示させると『ジュリア』と表示される、品川陣営の青文字だ。

『品川陣営? こんな敵地に近い所でたった一人で?』

 普通に考えれば、たちまち囲まれてなぶり殺しにされる。


『装備は・・・右手にシグザウエルP228、拳銃一丁だけ、ありえない!』

 明らかに右も左も分からない初心者が軽装で迷い込んで来たという状況だ。

 普段の香織だったらどうなろうと気にも止めなかったが、そのプレイヤーの美しい顔立ちが無性に気になって放って置けない気持ちになっていた。


 ビルを出て注意しに行くか、いやそれでは二人揃って襲われる危険性が高い。窓から手を振って知らせるか、それも位置がバレて襲撃される。

 せめて襲われた時に援護射撃をするしかない、なんとか自力で逃げ切ってくれれば。


 香織が悶々と考えを巡らせているのに、当の本人はのんびりと辺りを見回しながら、午後の散歩を楽しんでいるような風情だった。時々唯一の武装のシグをぐるぐる回してガンプレイをしている。妙に上手だ。


 いや、感心している場合ではない、なんとか彼女を安全地帯に導かなくては。


 その時香織は、ジュリアの大理石のように美しい額に赤い点が付いているのに気づいてハッとした。狙撃銃のレーザーだ。自分以外にもこのポイントで張っていたスナイパーがいたのだ。

「危ない、逃げて!」

 香織は思わず叫んでしまった、しかしその声は彼女には届かなかった。


―――パァン

 銃声が鳴った。


 その直前、ジュリアは首を右に傾けた、銃弾はそれたようだ。


―――いや、違う

「よけ、た?」

 ジュリアは何事も無かったように散歩を続けている。


―――パァン、パァン

 さらに続けて二度、銃声がした、ジュリアは踊るように半身になった。弾は当たっていない。


 香織は確信した、信じられないことだがジュリアは銃弾を避けている。

 秒速千メートル近い速さの弾丸をどうやって・・・香織は唖然として双眼鏡に見入った。


 その時、ジュリアがこちらを見上げた。

 目が合った。

 アバターとは思えない美しく澄んだ瞳で、香織に向かってにっこりと微笑み、人差し指を立てて左右に振る。


 香織は思わず双眼鏡から目を離した、胸が急速に鼓動を打つ。

『もしかして、私に気付いている?』


 また銃声がした。ジュリアはひらりと身を翻すと、そのまま悠然と路地に姿を消した。

 あたりは静まり返った。

 先ほど香織が狙撃した渋谷プレイヤーの死体が道に転がっている。


『夢でも見ていたのか』

 香織は呆然としながら双眼鏡から目を離した。

 ジュリアの笑顔が脳裏に焼き付いている。

 香織の胸に恋慕に似た想いがこみ上げた。


―――彼女にもう一度会いたい・・・


 その時、香織の思考をかき消すように、『緊急』の赤文字が視野に表示され、同時にけたたましく警報が鳴り響いた。

 部屋の外の廊下に設置しておいたセンサーが反応したのだった。


『敵? 動物?』

 香織は遮光カーテンから出て窓の外を見下ろす。いつの間にか香織のいる建物の入り口付近に銃を構えた敵が二人立っている。

『スナイパー狩り! ドローンに反応は無かったはず、ジャミングをかけられてすり抜けられた?』

 ビルの入り口に設置しておいたセンサーは恐らく発見されて解除されたのだろう、廊下の天井に設置したセンサーが最後の砦だった。


 ドアの外に足音が聞こえる。

 香織は素早く壁際に移動し、起爆装置を起動する。


―――ドンッ!


 鈍い音がして床にセットしておいた爆薬が爆発し、大きな穴が空く。

 香織はその穴にスルリと体を滑り込ませ真下の6階の部屋に下りた。そのままドアを開けて廊下に出る、下の階に敵はいないようだ。


 廊下の窓からビルの裏を見下ろすと、裏口にも見張りが二人いる。香織は廊下の窓を開けて体を乗り出し、ドラグノフをセミオートで連射する。見張り二人は不意をつかれて倒れた。


 上の階から階段を降りてくる足音が聞こえる。

「下だ、絶対に逃がすな!」

 怒鳴り声が聞こえる、香織は廊下の窓にフックをかけてロープで一気に降下した。


 地面に着地すると、そのまま品川陣営が支配する五反田方面に全力で走った。

 四機のドローンのジャミングをフルパワーで稼働させながら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ