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ジョニトリー!  作者: 夜鷹亜目
ジョニトリー、風雲急を告げる!
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第三十一話

 八月六日。午前十一時。俺は最寄りの駅前に立っていた。


 学校が夏休みに入ってからは外出=女装になっていた。が、今日は久しぶりに男装だ。女装に慣れ過ぎて普段通りだった格好も少し違和感がある。自分で男装とか言っちゃうぐらいに。


「あづい……」


 天を仰ぐと太陽が燦燦と燃えていらっしゃる。肌がジリジリと焼かれるのが分かる。


『今日は絶好のお洗濯日和です。明日から雨模様が続くと予測されますので、お洗濯するなら今日です! 今日しかありません!』


 という、家を出る前に聞いたお天気お姉さんのフレーズを思い出す。


「俺が言い換えるなら『今日は絶好のゲーム日和です! お家で大人しくゲームを楽しみましょう!』なんだけどなぁ」


 今日はジョニトリ―のシフトも入っておらず普段であれば自室でゲーム三昧なのだが、約束をとある人物としていたために駅前へと馳せ参じていた。


 駅前は平日の昼間だが人通りが多い。俺のように駅前でただただつっ立ってる人がいくらでもいる。


 その中に待ち合わせ相手がいないかを都度確認しながら、無意識にTシャツの襟首を摘まんでパタパタと空気を送る。と同時にハッと手を止める。が、すぐに再開。あまりに女装慣れし過ぎて、こんな当然の素振りですらよろしくないことと一瞬でも思ってしまった自分が恨めしい。


「元はと言えばジョニトリ―の面接があった日、女装初日にこうやってたら色んな男が生唾飲み込む勢いで見てきたのが原因だったな」


 あの時は俺も女装させられてるだなんて知らなかったから当然とはいえ胸元パタパタして無防備だったなぁ。今の俺ならそんな真似しないけどな。目立つしキモい目線が向けられるから。


 とはいっても今は男装、もとい普段通りだ。俺にそんな目線を向ける奴なんていな――。


「……」

「ん?」


 ジーっと俺を見ている男が一人いた。顎に手を当てて目を細めながら男は凝視してきてる。大学生ぐらいだろうか。パーマがかった少し長めの茶髪に、服装は薄いピンクのYシャツにゆったりとした黒のスラックスと、お洒落感が漂っていてウザい。顔だちも整っていて、さぞやリア充な生活を送っていらっしゃることだろう。あーウザい。


 距離はおよそ二メートルしか離れてない。そんな中でそいつはずっとお目を凝視してきてる。


 俺は胸元をパタパタしたまま一度視線を交わしたが、サッと逸らした。当たり前である。見知らぬ相手が見つめてきて目を合わせ続ける程、俺に胆力は無い。


 居心地の悪さからパタパタ速度が当社比百二十パーセントになる。が、その最中にふと思い出す。


 大学生? パーマがかった少し長めの茶髪? 服装は薄いピンクのYシャツにゆったりとした黒のスラックス? お洒落感が漂っていてウザい? あーウザい?


 あの頃と同じ見た目、あの頃と同じ俺の感想。それらの情報から、あの頃と同じく俺の脳内ストコンは瞬く間に答えを弾き出した。


 ――こいつ、女装初日の俺を初めてナンパしてきた奴じゃん!?


 思わぬ再会に気付き、再び胸元を扇ぐ手が止まる。しかも今度は再開できない。すぐに再開して素知らぬ素振りをすればいいのに、できない。まるでヘビに睨まれたカエルみたいに固まってしまう。


 するとソイツは一歩二歩とこちらへと近づいてきた。


 ど、どどどどうしよう! あの時の女装してた俺ってバレたか!? バレちまったか!? バレたらどうなるんだ!? 連れ去られるか!? 連れ去られたらどうなる!? どうなっちまうんだ!?


 パニックである。この世のパニックを凝縮しすぎて走馬灯めいた時間の速度感にすら至ってしまう。


 だから彼の、


「あんた、もしかして……」


 という発言の、口の動きをスローモーションのように全て見届け――。


「あ、太田君! ごめんね、待った?」


 という声が俺と彼の張りつめた空気を破壊した。


 俺は小さく手を振りながら駆け寄る『彼女』の名を呼ぶ。


「獅々田さん!」

「暑かったでしょう? 私から誘ったのに、待たせてごめんなさい」

「いや、俺もさっき来たばっかだから大丈夫だよ。それより獅々田さんも暑かったでしょ?」


 獅々田さんはグレーのブラウスに黒のスカート。涼し気な服装であるが額には汗がにじんでいて、俺の指摘を受けるとハンカチを取り出して汗を拭った。


「確かに暑いね……えーと。お知り合い?」


 獅々田さんが横目を向けたのは、例の彼。


 つつつーっと俺も彼へと視線を向ける。と。


「……」


 無言で首を捻りながらどこかへと去っていった。


 ホッとと言うより、はぁぁぁぁっと胸をなでおろして彼の背を見送る。


 獅々田さんはきょとんとしていたが、それも一瞬。すぐに晴れやかな顔を見せて告げた。


「それじゃあ行こう、フライアーズに!」

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