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04

「面を上げよ」


一度言ってみたかった。


正直「控えおろう」と「良きに計らえ」とどれにしようか迷ったけど、多分意味合い的にこれが一番適切だったので。

私が言った通りに連中が顔を恐る恐る上げて私の姿を改めて確認しているものだから、大変気分がよろしゅうございます。

ふんぞり返るわけでもなく、ただそこに立っているだけで気品と清楚さを兼ねそろえ、逆らう事を想像することすらおこがましく思えてしまう私の姿を見つけた連中は本物であると理解し、感極まって。


「恐れながらっ! 発言をお許しいただきたく!」


思い切って声をかけてきたのは、現代聖女がマルクスと呼んだ王子様らしき青年だ。


「許します」

「先に、お目覚めのほど大変おめでたく。初代聖女様におかれましては、世界をお救い頂き誠にありがとうございました。申し遅れました、私、ルメニクス王国皇太子、マルクス・ルメニクスと申します。わざわざご足労頂き大変申し訳ございません。なにかご用でしたでしょうか?」


早口言葉みたいな名前だなと思った事は口に出さず、笑みで返す私は営業向き。


「ご丁寧にありがとうございます。きっと私の事はご存じかと思いますが、初代聖女を務めております(・・・・)相楽梓(さがらあずさ)と申しますわ。さて、単刀直入に要件を述べます。お話を伺ったところ、こちらに集まる殿方は皆様、未来の国を担う中枢メンバーとなる方達と伺っておりますが、貴方達は一体こちらで何を?」


挨拶ついでにさっさと用事を終わらせようとサックリ質問をしたところ、先ほどまでのめでたい雰囲気が一変し、急激に部屋の温度が低下したように思える。

あれほど饒舌だった王子も言葉を詰まらせるも、さすが皇太子といったところかすぐに持ち直して質問に答える。


「現代聖女であるミワ・マツヤマと懇親会を行っておりました」

「まぁ、懇親会? それはとても有意義な事ね」


中身のないイチャイチャを言い換えると懇親会というのはなかなかの言い回しである。

納得したように告げると、王子はホッとした様子だが、残念ながら私は美人で性格がとても悪い。


「どんな内容をお話しされていたのかしら? 世界情勢? 物価変動? それとも濁への研究論争? 私も目覚めたばかりで知らないことばかりなの。よかったらその懇親会に混ぜてくださらない?」


実際の内容はすでに影から聞いている。


それぞれが流行のお菓子やドレス、宝石のネタで現代聖女の気を引こうと必死で、国庫からその購入資金が賄われているという信じられない内容である。

更にどれだけ自分が現代聖女を愛しているかを恥ずかしいポエムと共に伝えているというのだから中身がない。


影が記した書類が首筋が痒くなるようなポエムだらけで、本当に読むのが苦行だったので、多少はチクチクやらせていただく。

無論、私が並べたどれもを会話にあげたことなど一度もないだろう連中は口元に笑みを絶やさないながらも、口の端がひくひくし始めている。


「しょ、初代聖女様におかれましては、また後日、懇親会の日を改めて設けさせて頂ければと――」

「あら、そんな手間は必要ありませんわ。だって、現時点で皆様がお集まりになっているのに、わざわざ(・・・・)私の為に再度スケジュールを調整していただくなど、とてもとても」


だから、今すぐ仲間に入れてくれるよね? と、暗に圧のある笑みをにっこりと浮かべると、王子だけでなくキラメンズ達が明らかに動揺し始める。

ひそりひそりと何か仲間内で会話しているのが何となく聞こえるが、私はそこまで地獄耳ではないため聞き取ることはできない。


意外って言わないで。


人間できる事はできるけれど、できないことはできないのよ。


どうにかして私と、私に付随する連中を追い払おうか、それとも今回は渋々受け入れるべきかを検討しているようだが、その状況に一人だけ置いてけぼりを食らっている人がいて。


「なん……で、初代聖女が……?」

「……?」


ポツリと漏らしたのは現代聖女のミワさん。


愛らしい顔から表情が抜け落ち、顔面蒼白で虚ろな瞳をしている。


その様子にあら? と思ったのは私だけではないはず。


後ろに控えていた神官達も皆、現代聖女の様子がおかしいことに気が付いているが、彼女にあれほど愛を捧げていた連中は気が付いていないらしい。

私の後ろにいた位の高い神官が一人、前へ歩み出て現代聖女に思わず声をかけた。


「ミワ様? 大丈夫ですか? ご様子がおかしいように見受けられますが、どこか体調が?」


神官の言葉にようやくキラメンズ達はハッとして、なぜか私達から守るようにミワさんを囲む。


「ミワ! 大丈夫か?」

「どこか痛むの?」

「大丈夫だ! 現代の聖女はミワだ! その地位は揺らぐことなどない! 俺が保証する!」


貴方の保証がどれほど信頼しうるものか知らないが、勝手な事ばかり言わないでほしいと思うのは私だけではないはずだ。

後ろに並ぶ神官の顔をチラリと横目で見ても、何言ってんだアイツって顔している人が大半だから、そう思ったのは間違っていないらしい。

いくらキラメンズとは言え、彼らはあくまで『国政中枢幹部候補』であり、『跡取りになりうる人物』という曖昧な立場だ。

自分達の未来を絶対と言い切るのは危険があるし、その自信から生み出された怠慢は何の足しにもならない。


ミワさんは自分をちやほやと甘やかしてくるキラメンズに囲まれても顔色は悪いままだ。


何をそれほど危惧しているのか、わからないが絶望していることだけは確かだ。


わざわざ私を眠りから起こしてまでやらなきゃいけないことが、このキラメンズ現代聖女愛好会の解体である。

別に彼女の代わりに取って代わりたいわけではなく、解体できたら後は個人個人の処罰については国や教会の仕事であるし、私はできることならまた眠りたい。

口を開けばロクな人間ではないとバレてしまった以上、この騒動がひと段落したら、多分、今の国や教会にとって私はお荷物である。


色んな思考を張り巡らせながら、現代聖女のミワさんがキラメンズ達に慰め(?)られながら、次に起こすであろう行動を待ち受けていると、ようやく彼女の思考が動き出したのか、キラメンズを押しのけて私の前にずんずんとした足取りでやってきて。


「あなたっ! 初代聖女って本当!?」


唐突ながらも、改めて確認されることに少しだけ不快な気持ちになる。

現代に限らず歴代聖女は初代聖女に祈りを捧げる事が義務付けられていたのに、それを怠っていたのは彼女である。

本来であれば確認しなくとも、初代聖女である私の顔は知っておくべき内容だからだ。


それでも私はその気持ちを表には出さず、にっこりと微笑んで。


「ええ、そう呼ばれております。初めまして現代聖女様」


先ほど自己紹介したのだから、名前は名乗らなくてもいいだろうと思ったのだが、彼女の反応はその斜め上を行くもので。


「――っなんで!? 逆ハーエンドで終わってから、私が(・・)初代聖女を目覚めさせなきゃダメなのに!?」

「…………は?」


流石の私も笑顔を作れず思わず呆けた表情を浮かべてしまった。

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