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05

彼女が何を言っているのかわからないが、私も何を言われているのかわからない。


どうやら彼女は本当にこの世界を乙女ゲームだと思っているらしい、ということだけは何となく理解できたのだが。


「貴方、何を(血迷った事を)言ってらっしゃるの?」


()(かっこ)の中身を口に出さなかっただけでも褒めてほしい。

思わず声をかけると、現代聖女――ミワさんは私をギロリと睨みながら叫んだ。


「このβテストで逆ハーエンドクリアしないと、約束していた社長(・・)とのデートなくなっちゃうのよっ!」


本日、二度目の……は? である。


先ほどキラメンズに囲まれていた愛らしい様子とは裏腹に、頭を掻きむしって地団駄を踏むあたり、彼女に置いていかれたキラメンズ達も後ろで驚きのあまりドン引きしている。


「こんなバグ聞いてないし! たかがVRMMOの乙女ゲームだと思って侮ってたっ!」


ムキーっと一人で叫びまくるミワさんに対し、私は極めて冷静に尋ねてみることにした。


「……この世界がVRMMOというゲームの世界だと?」

「そうよ! βテスターとしてここにいるのよ! 渾身作だからバグというバグを潰し、かつ発売前から情報漏洩しないように社内でもβテスターの当選確率がエグイ事になってんのに!」

「当選者はあなただけなの?」

「毎年一名ずつ選ばれていたのよ! ……って私、何でNPCに説明してんのかしら」


あ、しまった。


急に現実に引き戻ったみたいだけれど、まだ聞きたいことはある。


あと、聞き捨てならないけれど勝手に人をNPCにしないでほしい。

我に返ったミワさんは、私をジロジロ見ながらいきなり頬を指先でつついてくる。


「まぁ確かに凄いわ。グラフィックにしては感覚まで再現度忠実すぎ。でも初代聖女の容姿が端麗すぎるのはちょっといただけないわね」

「褒めて頂いているところ申し訳ないけれど、不躾な事やめてくださる?」

「不快になるところまで! すごっ!」


この人はどうしてもこの世界をゲームの世界にしたいらしい。


どうにもこうにもこれ以上の会話は噛み合いそうにないし、急にリセットとかゲームやめるとか放棄しだしそうなので、認識の合致から始めることにする。


「ミワさん。落ち着いていただいていいかしら。貴方はこの世界をゲームだと思っているようだけれど、ここは本当に異世界なのよ?」

「まぁそういう設定よね」

「……今は設定でいいわ。話を続けても?」


うんうん、と私の説明を理解しているようで全く理解していない彼女に対し、大きく軌道修正をするのは難しいだろうと判断し、会話を成立させることを優先する。

自分たち以外の連中――つまり異世界の連中は、私達の会話を理解しえないのか不思議そうな顔をするばかりではあるが、神官は見守ってくれているし、中にはすでに動き出し、キラメンズ達に見守るよう告げている者もいる。


仕事が早くできる人は大好きである。


「ミワさん、単刀直入かつ一番重要なことを伺うわ。貴方、この世界にどうやって来たの?」

「VRMMOなんだからヘッドギアをつけて――」

「そうではないわ。聞き方が悪かったわね。……この世界に来るとき、あちら(・・・)の世界で誰か手助けしてくれた方はいらっしゃる?」


ずっと不思議だったのだ。


平和ボケもあるくらい平和なはずなのに、私にあやかって百年に一度呼び出されるというのは腑に落ちないし、なぜ百年に一度なのかもよくわからないままだ。

私が呼び出された理由が魔王討伐という明確な理由があったにしろ、このシステム自体がおかしという事に誰も違和感がないということもまた不思議である。


また、ミワさんが言っている内容がこちらの認識とあまりにも違いすぎるし、彼女はゲームの世界に転生(・・)したのではなく、あくまでゲームをしている途中であるという認識が一番の違和感だ。


私の質問に対し、今度はNPCだのグラフィックだのと揶揄することなく、すんなりと答えてくれた。


「このゲームを開発している会社の社長よ。ノア・シリウスさん」

「ちょっとまて! ノア・シリウスだと!?」


っあいつかぁあーーっ!


そう発したのは私ではなく王子。

あいつかー! の叫びは十中八九私の心の声であることだけ明記しておく。


まさか王子に詰め寄られると思っていなかったのか先ほどまでのプレイヤーとしての勢いをなくし、ミワさんはコクコクと高速で首を縦に振る。

そりゃあ、現段階で動いているバグが私だけだと思っていたミワさんにとって、彼の叫びもまた予想していないバグであっただろう。


「何? キャラに社長のデータまでインプットしてあるの? すごくない? え? なんで?」


まだこの子は王子やらここにいる人物全員がゲームのキャラクターだと思っている。

しかし王子の解釈は私と一緒で、ノア・シリウスと言えば同一人物しか思い浮かばない。

全員が混乱をしているものの、その人物が未だに実在していたことに誰もが驚いているというのに告げたミワさん本人が気づいていないのだからおかしな話である。

ミワさんにたいし、王子はその人物の正体を告げた。


「ノア・シリウスは、ここにおわす初代聖女様と共に、六百年前に魔王を倒した勇者の名だ!!」

「は? え? そんな設定あったの?」


混乱するミワさんの事も心配だが、私は所詮自分の事しか考えていない女です。


まさかこんなところで名前を聞くとは思ってもおらず、むしろ現代の地球に行ってミワさんに何してんだお前と問い詰めたい所存なので。


「何はともあれ……本人に聞いてみましょう」

「アズサ様? で、できるのですか?」


動揺する王子様に返事をする余裕は私にはない。


はい、大きく息をすってー。すってー。すってーー……


「ノア・シリウス! 出て来いやぁあぁっ!」


品は丸めて投げ捨てた。


私が彼の名を呼んだ途端、部屋の奥にあった暖炉の空気にピシりと縦に亀裂が入る。


誰もが驚きのあまりそちらに視線を向け、その縦線が中央から徐々に膨らみ始めるが、その奥に見えるのは漆黒。


徐々に広がっていく異様な空間に周囲は戦き警戒する。


人が一人通り抜けられるほどの大きさになったところで、その深い異質の空間から長い脚が一歩踏み出されて。


誰かがゴクリと喉を鳴らした。


部屋に敷かれた絨毯にこの世界ではなかなか見慣れない黒光りの革靴がやってくる。

その先に延びるのは黒いスラックス、白いワイシャツ、そしてシルバーブルーのショートの髪をふわりとさせた美青年が姿を現す。

紫色の瞳は魔王を倒した代償に受けた呪いの色。

キリリとした切れ目は美しく、薄い唇は淡い桃色。


私という存在を抜いて美しさを語るならば、彼がピッタリだろう。


魔王を倒した時から彼だけは年を重ねたらしく、美少年だった幼さは失われ、艶やかで色気のある美青年がそこにいた。

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