2 探検
それからレイナはウーサの為に動く草を駆逐する日々を過ごしていた。
動く草とウーサを見て、レイナはますますこの穴のことを隠すことに決めた。
友だちのウーサを守ることが大事だと思ったのだ。
成体になったウーサの角は隠すことのできないほど大きくなっていた。この子が世間に知られればレイナの手の届かない場所に行ってしまうのは確実だった。
成体になったウーサは動く草に巻き付かれても傷つくこともなくなり、鋭い牙や角で草たちを捕食していった。
気が付くと逃げる草たちを追いかけるウーサとレイナの光景が見られるようになっていた。
するとまたしても草原の一角に穴が出現している。
今度は迷わずウーサと先に進んだ。
次に開けた空間にいたのは、ニンジンやダイコンと言った動く根菜類の群だった。
手ぶらで降りたレイナはジャガイモの砲撃を、ウーサはニンジンやダイコンの鈍器攻撃を受けて、慌ててウーサを抱えて花畑へ逃げ帰っていた。
根菜類たちは穴に逃げて行ったレイナ達を追うことはなかった。
レイナはジャガイモの当たった青い痣が出来た腕を擦り、ウーサは悔しさで足を蹴り上げ、地面に八つ当たりしていた。
このままだとちょっと太刀打ちできなかった。
「ウーサ、ちょっと武器を探してくるから待っていて。勝手に下に降りちゃダメだからね」
レイナは穴を抜け出し、ゴミの散乱しているトタン小屋を漁り、錆びた鉄パイプを見つけた。
これを見つけるとふて寝していたウーサを引き連れて、再び根菜類たちと再戦に挑んだ。
一度では勝てず、青痣を作りながら逃げ帰る事数度、いつしか飛んでくるジャガイモの玉をレイナは鉄パイプで打ち返し、ニンジンやダイコンはウーサの角や牙で齧られ、砕かれてしまった。
そうしてレイナとウーサは根菜類たちに勝利した。
勝利したウーサは砕けた根菜類を美味しそうに食べて行った。
ニンジンは分かるけど、ダイコンやジャガイモってうさぎ、食べるかな? とレイナは疑問に思いながらも美味しそうに食べるウーサに満足していた。
* * *
根菜類を撃退してしばらくすると、やはりまた穴が出現して開けた空間には不思議な植物がいる。
ウーサは穴に飛び込み不思議植物を捕食して行くのをレイナは手助けしていると自分にも不思議なことが起こっているのに気づいた。
まず力が付いた。身体は華奢な少女のままだったが、鉄パイプを振り回して不思議植物追いかけても疲れない。
暗い所でも目が見えるようになり、早く走れるようになっている。
総合的に身体能力が高まっていた。
いままでのレイナは偏った食事、不健康な住処、運動できない家庭環境に寄って欠食児童と言える。
もちろん平均的な同級生より運動能力は劣っていた。
それが穴に潜りウーサと共に不思議植物と戦ううちに欠食児童の華奢な容姿はそのままだったが身体能力が上がっていく。
それは体育の授業で如実に表れていた。
今まで授業の成績はビリから数えた方が早いぐらいだったが、穴に潜ってからは単純なかけっこならスポーツを習っている男子にすら追い抜いた。
からかって突き飛ばしてくる男子を突き返して吹っ飛ばしたこともある。
レイナ的にはやり返しただけだったが、それから男子は近づいて来なくなり助かった。
そんなレイナにとって大きな変化をウーサはくれた。
穴は拡大し続けた。
根菜類の次には苗木のように小さな木がちょこちょこと歩いていた。
木になると容易にちぎることが出来ず、鉄パイプでぼこぼこに殴ることでなんとか倒した。
次の低木では殴っても効かず、ウーサが齧っても低木は気にもしなかった。
低木を倒すのは難しかったがレイナは諦めなかった。
この穴での探検が楽しくなって、倒せるところまで倒したかったのだ。
木の弱点と考えたレイナは火で対抗することを思いついた。
しかし、ライターの火では低木を燃やしつくことは出来ない。
新聞紙や枯れ木を持って来て、燃え移させてみたりしたが、低木は枝を振り回して火を消してしまう。
ライターの火を見つめながら、この火が低木を燃やし尽くせばいいのにとレイナが思ってしまうと、ライターの火がみるみると大きくなり低木に燃え移って、纏わりつき燃やし尽くしてしまった。
レイナは力が抜けて地面にへたり込んでしまった。
レイナは魔法が使えるようになっていた。
へたり込むレイナにウーサは近づき、身体をレイナに擦り付ける。
正気に戻ったレイナはウーサの毛皮に癒されながら魔法が使える事を受け入れていた。
夢のようなことが現実になったのだ。嬉しいことはあれど、遠ざけたり嫌悪することはない。
レイナが望んでウーサの力になれるように低木を倒せる力を望んだのだ。
でも魔法を使うのは穴の中だけにしようと思った。
レイナは火の魔法を手に入れると扱い方に苦労した。
最初はライターからの火を吹き上がらせるだけだったのが、火をボール状にして投げ飛ばせるようになった。その過程で服やウーサの毛皮を焦がしてしまったが。
とうとうライターなしで火を起こすことが出来るようになっていた。
しかし、魔法を使うと力が抜けてへたり込んでしまうことが多く、どこか身体のエネルギーを使っているようだった。
レイナがへたり込んでいると、ウーサが不思議と燃え残った低木に付いていた小さな果実を咥えてレイナに持ってきた。
それは普段ウーサが好んで食べる物だ。
ウーサから譲られたようなので、レイナは恐る恐る食べるとコリコリとした食感と酸っぱさが口に広がり抜けた力が戻ってきた。
どうやらウーサが好んで食べる物は魔法で消費したエネルギーを補充してくれるようだ。
ただ、レイナは草や根菜類を生のまま食べれないので、専ら低木の小さな果実を食べるようになった。
そこからはレイナの快進撃だった。
蔓、二メートルほどの草、果樹としたに進むごとに不思議植物は大きく頑丈になっていったが、レイナの火魔法には皆等しく燃やした。
下に降りて不思議植物を倒すほどにレイナの火魔法は強く大きくなり、焼け跡に残る果実をウーサと分け合って食べた。
レイナがウーサとの探検楽しんでいる内に世間は年が明けていた。
冬休みや夏休みもあったはずだが、レイナは休みの日は食料を買い込むと、一日中穴に潜ってウーサとの探検を楽しんでいたのでいつだったか覚えていない。
むしろ学校の事を気にしないようになり、学校は穴に行くためのカモフラージュだとさえ思うようになっていた。
ウーサとの探検も現在は見上げるような大樹を相手にしている。
ウーサも不思議植物を倒すほどに大きくなって、レイナの膝ほどの高さで大きさはすでにレイナを超えていた。レイナの最近のお気に入りはウーサのお腹に埋もれながら昼寝することだ。
ウーサの額に伸びた角はより凶暴に太く長くなっている。
強靭な足で大樹へと飛び込むと、角が大樹を抉り削っていく。
枝が折れて激怒した大樹がウーサに追撃しようとしたが、レイナは火をぶつけて牽制していく。
レイナも火を大樹にぶつけているが、大樹も燃え移らないように枝を振り回して火を消している。その隙にウーサが突進ドリルで枝を抉り削っていた。
とうとう大樹の枝が足りなくなり、火が枝に燃え移るようになると、大樹は泣き叫ぶような音をたてながら燃え尽きて行った。
長時間による攻防に疲れたレイナだが、この喜びと達成感は今まで味わったことのないものだった。
満足げなレイナをしり目にウーサは焼け残った大樹に近づくと、残った残骸の中から茶色い玉を見つけて食べてしまった。
すると、穴全体からゴゴゴッと揺れると、レイナとウーサは浮遊感を感じた後、気が付くとトタン小屋にいた。
今まで存在していた穴は見つからず夢のようであったが、大きなウーサの存在と手をかざすと燃える火魔法に寄って、これが夢ではなく現実の出来事であったことをレイナに教えていた。




