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百年一夜物語

「悔いの多い生涯を送って来ました」

 その言葉とともに、エヌ氏は異世界に転生した。


 新しき人生を、エヌ氏は駆け抜けた。

 数多(あまた)の日々をこぼさず生きた。

 多くを得て、多くを失った。


 エヌ氏の百歳の誕生日。

 去りし日を振り返れば、すべては一瞬の光。

 最近では、起きている時間が短くなった。

 そのわずかな時間も、どこか微睡(まどろみ)のなかのようだ。


 その朝は珍しく、意識がはっきりとしていた。

 目覚めると大勢の顔。

 あの団子鼻は息子のエフだ。

 あの赤毛は孫娘のエムだ。

 どうしてみんな、泣いているのだろう。


 いつからだろう、前の世界を夢見ることがなくなった。

 記憶すらおぼろげになった。

 だが、不思議と満たされた気分だ。

 エヌ氏は抗えぬ眠気を覚えた。

 目蓋(まぶた)が鉛のように重い。

「カーテンを降ろしてくれないか」

 そう言うと、エヌ氏はゆっくり目を閉じた。


 目を覚ますと、石の天井。

 エヌ氏は起き上がり、周囲を見回す。

 水に濡れた石の壁。

 閉ざされた鉄格子。

 藁ぶきの粗末なベッド。

 枕元には、昨晩読んだ物語。

 夢の粒子は急速に拡散し、

 エヌ氏には、もう思い出せなくなってしまった。


 ここは夜ごとに人生が入れ替わる世界。

 目覚めれば、すべては幻。

 一日の終わりに、子らは目を閉じる。

 さあ夢を見よう。

 今宵はどんな物語が待っているのだろうか。

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