『体育館の音』
こんなはずじゃなかった。
僕はこんなはずじゃなかったんだ。
ただ僕はあれを殺したかった。
僕の手であれの首を絞めて、包丁で切って、高いところから突き落として、硬い物で殴って、色々な方法であれを殺したかっただけなんだ。
今までの恨みを乗せて、罵倒して、罵って、僕の受けた痛みをあれに味合わせてから、あれを殺して……。僕はたったそれだけを望んでいたのだ。
それなのに、なんで。
「えーんえんらー、えんえんらー……」
声が聞こえる。
僕は何故か夜の校舎を走っている。
なんで僕は夜の校舎の中なんかを走っているんだ。
「かぁーごのなぁーかのえんえんらー……」
息が切れる。
僕はどこを走っている。
『知らずの教室』から逃げ出した僕は『塗り込まれた死体』を通り過ぎ、『首切り桜』の下を通って『正門の怪』まで来た。
けど『正門の怪』がそこにいて、僕は外に出るにも出られなかった。
「いーつーいーつー見ぃーやぁーるー……」
僕は背後を振り返らずに走る。
こうなったら『血溜まり池』の門から出るしかない。
学校の裏手まで来て、閉まっている門に僕は手をかけようとした。
けど。
「っ!!」
門の外には『人体模型』がいた。
ここで止まったら、僕は食われてしまうのだろう。
僕は門に手をかけるのを諦め、再度走り出した。
「よーあーけーのーばーんにー……」
どこだ。僕はどこに逃げればいい。
殺したかった。僕は両親を、家族を奪ったあれを殺したかったのだ。
だけどあれは、もう。
僕は後ろを見る。
そこには真っ黒い人型の何かがよたよたと僕の後を追うように歩いてきていた。
怖くなって僕は前に目を向ける。
あれはもう死んでしまっている。
死んでるやつを殺すのは無理だ。
あぁ、こんなことになるのなら人の形を保っている間にさっさと殺しておけばよかった。
後悔するも、それは前に立たぬものだったため、仕方なく僕はただ走った。
どこにいけばいい。
どこに逃げれば僕は逃げられる。
どうしたら僕はあれを殺すことができる。
憎い。憎いんだあれが。殺したい。焼けて悶えて苦しんだとしても、僕はそれでもまだ足りない。あれは、あれのせいで僕は苦しんだんだ。
死んだからって許すものか。死んでからも苦しめばいい。苦しんで苦しめばいいのに、なんであれはあんなに笑っているんだ!!
「えーんーえんらがのぉーぼったぁー……」
逃げて逃げて逃げて、僕は泣きたくなって、止まることができない僕は霞む思考の中目の前にあった扉に手をかけ、開いた。
その時、ひゅっと何かが空を切る音がして、僕は振り返った。
「後ろの正面、だぁーれ?」
真っ黒な笑顔が真っ黒な髪を振り乱して、僕に何かを叩き付けた。
頭蓋骨が割れる、その音を聞いて僕は、あぁ、壁に埋められる、と馬鹿なことを思った。
逃げようと前に走り出すも、言うことを聞かない身体は建物の中の床に倒れこんでしまった。それでも僕は諦めなかった。諦めきれなかった。
あれを殺してからでも僕は死ねる。けど、あれを殺す前に死んでしまっては、僕がこの七不思議を試した意味が無い。
僕は回る視界を泳ぐ。あがく。足に燃えるような痛みがあろうとも、腹を蹴られ痛みに悶えようとも、腕を潰され絶叫しようとも、僕は生きなくては。生きて、殺すんだ。
生きて。
ズダンッ、という音がして、肉が潰れる音がして、僕は悲鳴をあげて、僕は呪った。
目の前にいる黒い塊を呪った。
そうすると黒い塊も僕と一緒に潰された。
僕が最後に見たのは、体育館の天井に張り付く大きな顔を背中に背負った何かだった。
その顔は、僕があの日、自分の家が燃える時に見た煙々羅とそっくりだった。




