↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マザコン息子「母さんの味じゃないからマズイ」私「それ私が作ったんじゃないけど?  作者: 品川太朗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/5

最終話:感謝の言葉とそれぞれの帰る場所


 静かになった食卓で、私たちは食事を終えた。


 翔太はすっかり意気消沈してしまい、あれから一言も発さずに黙々と箸を動かしていた。

 不貞腐れているのか、ショックを受けているのか、あるいは自分の行いを反省しているのか。


 まあ、少しは頭を冷やす時間が彼には必要だろう。


「ごちそうさまでした。片付け、手伝うわね」


「いいえお義母さん! 私がやりますので、座っていてください」


 私が食器を下げようとすると、美咲さんが慌てて制止した。

 その表情は、私が来た時のような怯えたものではなく、どこか吹っ切れたような明るさがあった。


 じゃあ、お言葉に甘えてそろそろ失礼しようかしら。


「それじゃあ、私は帰るわね」


「はい、玄関まで送ります」


 美咲さんが先導してくれる。

 翔太はといえば、リビングのソファに背を向けたまま、缶ビールを開けていた。


 まだ拗ねているらしい。

 やれやれ、本当に子供なんだから。


 ◇


 玄関で靴を履いていると、美咲さんが深々と頭を下げた。


「お義母さん、今日は本当に……本当にありがとうございました。またいつでも遊びに来てくださいね」


「ええ、また来るわ。今度は指導役じゃなくて、ただのお客さんとしてね」


 私が笑うと、美咲さんも嬉しそうに微笑んだ。


 さて、最後にもう一つだけ、あのバカ息子に言っておかなくては。


 私は靴を履き終えると、わざとリビングにまで聞こえるような大声で話し出した。


「美咲さん。たとえマザコン男でも、あなたは生活を共にしているんですから、翔太への感謝を忘れちゃダメよ?」


 美咲さんがキョトンとした顔になる。

 私は構わず、リビングの背中に向かって言葉を投げかけた。


「翔太! 聞こえてるわね?」


 ビールの缶を置く音が聞こえた。


「美咲さんはあなたの母親じゃないし、家政婦でもない。あなたの世話をしてくれる美咲さんに感謝しなさい。夫婦なんだから、『養ってやっている』『世話してやっている』じゃなくて、『支え合っている』のよ」


「 ――お互いに『ありがとう』を言いなさい」


 リビングからは何の返事もないが、沈黙は肯定と受け取っておこう。

 私の言いたいことが伝わったのか、美咲さんは私の手をギュッと握りしめ、無言で、けれど力強く何度も頷いてくれた。


 その手は温かかった。


「じゃあね、二人とも仲良くね」


 私はひらひらと手を振り、息子の家を後にした。


 ◇


 外に出ると、夜風が心地よかった。

 自転車を漕ぎながら、私はふと今日の自分の言葉を反芻した。


『お互いに感謝しなさい』


 偉そうなことを言っちゃったわね。

 そういえば、そんなことを言っている私自身、最近お父さんに「ありがとう」って言ったかしら?


 空気のような存在になっていて、やってもらって当たり前になっていなかっただろうか。

 人のことをマザコンだの何だのと説教できるほど、私はできた妻だっただろうか。


「……ふふっ、ブーメランってやつね」


 私は苦笑いをこぼすと、ペダルを漕ぐ足に少しだけ力を込めた。

 早く家に帰りたいと思った。


 ◇


 ガチャリ、と自宅のドアを開ける。


「ただいまー」


「お、帰ったか。どうだった、翔太のやつは」


 リビングに入ると、夫がテレビを見ながらのんびりとくつろいでいた。

 いつもの変わらない光景。

 でも、今日はそれが無性に愛おしく感じられた。


「ええ、ちょっとお灸を据えてきたわ。美咲さんの料理、とっても美味しかったのよ」


「そうかそうか、やっぱり翔太の大げさだったか。安心したよ」


 夫は優しく微笑んでくれた。

 私は荷物を置くと、夫の隣に座った。


「ねえ、お父さん」


「ん?」


「私を行かせてくれてありがとう。おかげで、あの子たちの役に立てたわ」


「……なんだ急に、改まって」


 夫は少し照れ臭そうに頭を掻いた。


「それとね、いつもありがとう。私、お父さんと暮らせて幸せよ」


「よ、よしなさいって。熱でもあるのか?」


 夫は顔を赤くして慌てているが、その口元は緩んでいる。

 やっぱり、言葉にするって大事なことね。


「ふふ、熱なんてないわよ。ねえ、久しぶりに二人で晩酌でもしましょうか。美咲さんに負けないくらい、美味しいおつまみ作るから」


「おお、それはいいな。とっておきの焼酎を開けるか」


 私たちは顔を見合わせて笑い合った。


 息子の家のことは心配だけれど、まあ、あの二人ならきっと大丈夫だろう。

 雨降って地固まる、というしね。


 私はキッチンへと向かった。

 今夜のビールは、きっと最高に美味しいはずだ。


(完)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


息子夫婦の問題を通して、自分たち夫婦の絆も再確認する……そんな由美子さんの温かい強さを描きたくて執筆いたしました。


読者の皆様に、少しでも「スカッと」した、あるいは「温かい」気持ちになっていただけたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。


もし「面白かった!」「由美子さんかっこいい!」と思っていただけましたら、

下にある【☆☆☆☆☆】(ポイント評価)や、ブックマークで応援していただけると、執筆の励みになります!


また別の物語でお会いできることを楽しみにしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。