表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千代五星異聞奇譚 白光の焔  作者: トヨタ理
第四章 さようなら、青葉ヶ山
44/50

40 決断の時

「答えを、聞かせてくれますか」


 そう問われて心臓がとくとくと高鳴り始める。


 ここに来る前に白狐にはすでに自分の決めた事を話している。その時の白狐は「貴方様の仰せのままに」と頷いてくれた。


 小さく息を吸って、意を決して重い口を切った。


「たつジィに決めろって言われてあれから考えたんだ。でも何すりゃみんなにとって一番良いかってのは、やっぱ分かんなかった。みんなにいろいろ聞いていっぱい考えても、<みんな>にとっての一番は思い付かなかった。だからオレは、<オレ>にとって一番良い方に決めた」


 ここに来る直前まで何度も考えた。


 白狐に告げてからここに来る間も自分にとっての一番を最後まで考え続けて、そして答えは変わらなかった。


「オレは、じーちゃんに元気で暮らしてほしい。青葉ヶ山のみんながずっとこのまま平和に過ごせるようにしたい。だからオレ、五星に行くよ。バケモンがオレを狙うってんなら、守られるんじゃなくてオレが強くなりたい。どうにかしたいんだ」


 答えを聞いてもなお、たつジィは険しい表情を崩さなかった。朝に二人を出迎えた時と同じように険しい雰囲気を纏ったまま「本当にいいのかい。入所すれば良い扱いだけを受けるとは限らないんだ」と、さらに語気を強めて問う。


「検非違使は目的の為なら手段を選ばない集団だよ。君の特殊な体質を利用して強い悪鬼退治や悪人の捕縛に何度も協力させられる可能性だってある。君も知っての通り魔が物討伐は常に危険がつきまとい、生死の保証は誰にもできない。それでも君は、こちら側に来るのかい」


「どうせ全部忘れたってオレが狙われるんだろ。そのせいで誰かが傷つく方がオレはイヤだ。どっちもおんなじなら自分の事ぐらい自分でちゃんとしたい。オレの力が役に立つんならそっちのがいい」


 熊野が言っていたように、夜に現れたあの学校の魔が物は確かにホムラを狙っていたように見えた。あの時自分がただ守られるだけじゃなかったら、力を少しでも使えていれば——。胸の内に引っかかっていた後悔から生まれた切実な思いだった。


「ホムラくんらしい、答えだね」


 真剣な思いが伝わったのだろう。たつジィが厳かな表情を緩ませた、その時だった。


「お願いです。どうか私もホムラ様と共に連れて行って頂けないでしょうか」


 予想だにしない白狐の突飛な発言に、ホムラが思わず「えっ?!」と驚嘆の声を漏らす。


 確かに自分が五星に行くとは伝えていたが、一緒について行って欲しいと言った覚えはない。


「貴女が不在の間、青葉ヶ山の守護はどうなさるおつもりですか」


 再び険しい顔付きに戻ったたつジィが厳しく問いかけるも、白狐は毅然とした態度を崩さなかった。


「青葉ヶ山の精霊に守護を一任できる者がございます。その者の守りに加え、私が定期的な結界の保守を行えば……数年の間ならこの地の守護は保たれる筈です」


「だとしても青葉ヶ山には千代の守護柱があるでしょう。精霊で対処のできない魔の襲撃があった時にどうするのですか。本当に、青葉ヶ山を守れますか」


 厳しいたつジィの問詰が白狐に突き刺さる。穏やかな口調のまま鋭さを含んだ問いにホムラでさえも一瞬たじろいでしまう。しかし白狐は、一度も怯む事なくその鋭利な視線を静かに受け止めていた。


「……確かに、そのような可能性も否めないでしょう。それでも私はホムラ様のお側に居たいのです。今この時に私達がこの和合を成した意味がきっとある筈です。私はそれをホムラ様と共に見つけたい。ですから、どうかお願いします」


 そう言って白狐は深々と頭を下げた。


「白狐……」


 ホムラの声にも微動だにせず、白狐はたつジィに向かって頭を下げ続けている。本気なのだ。揺るがない固い決意なのだとホムラにも伝わってくる。


「私がホムラ様の守護獣となり()()()()()で協力をするとなれば貴方方の懸念もないでしょう。ホムラ様もこの地も、守護柱も我が命を掛けて守り抜くと誓います。ですからどうか、どうか同行をお許し頂けないでしょうか」


 頭をなおも下げ続ける白狐に、たつジィは今度こそ険しい表情を解いて「どうか顔をお上げください、白狐様」と言った。その顔はホムラの良く知る穏やかなたつジィの姿だった。


「本来、僕は御神の使者に口を出せる身分ではありません。しかし立場上、最低限の確認をせねばなりません。数々のご無礼、どうかお許し下さい」


 深々と頭を下げるたつジィに「いえ、こちらが無理を押し付けているのです。貴方様の疑問は当然の事ですから、どうかその、顔をお上げ下さいませ」とたじろいだ。偉い神の使者らしい神獣のあまりの腰の低さに驚いたのか、たつジィは苦笑して、そして改めて二人に向き直った。


「どのみちホムラくんがこの道を選ぶ以上、我々は貴女様の存在を無視はできない。しかし、守護柱のある青葉ヶ山の護りも決して緩めてはいけないと僕は考えます。この件は一度、千代の地を管轄するSHM会……会長の陽満くんを交えて話し合いましょう。場合によっては他の神々に()()を仰ぐ。それで、よろしいですか」


「はい、構いません」


 躊躇いなく白狐が頷くと、たつジィはゆったり頷き返して、白狐とホムラを順に見つめた。その眼差しにはもう何かを見定める鋭さはなく、二人を見守る優しさだけがあった。


「さて、お二人の気持ちはよく分かりました。ただ残念ながらすぐの入所はできないようなんです」


「そうなの?」


「ホムラくんが入る所は、表向きは国が運営する職人の養成施設という扱いです。だから今の時期は募集もかけてないようで、早くても四月からの入所になるんです。そことは別に保護施設もあありますが、よっぽど緊急じゃない限りは受け入れができないと拒否されてしまいました」


「オレたちもその<緊急>ってヤツじゃないの?」


「検非違使の定める<緊急>は、何らかの理由で現世に大きな悪影響を及ぼす可能性がある子を保護した時なんだ。前にも言ったけれどホムラくんも白狐様も現世にとって何か悪影響を与えている訳では無いから緊急の保護には当てはまらないんだよ。そもそもホムラくんのケースが特殊で保護施設では扱いが難しいというのもあるかもしれないね」


「へぇ……」


 あまり事情をよく理解はできていないが、てっきりすぐさま青葉ヶ山を離れるものと思っていたのだ。拍子抜けしそうになるホムラに、たつジィはすかさず「ただし」と言葉を続けた。


「このまま保護もなくこのまま入所まで何もしないのは危ないというのが僕たち(検非違使)の考えです。そこでホムラくんには来年の三月まで別の場所で裏世界のお勉強と心身の鍛錬を一からしてもらいます」


「お、オレ……?」


「んふふ。みっちり、鍛えようね」


 にっこりと微笑むたつジィの笑顔に何故かホムラの背筋がぞくりとなる。


 この時のホムラはまだ思いもしなかった。

 これが地獄の鍛錬の始まりになるなどとは――。


大変おまたせしました!

本日より第四章の更新を再開します。

(ただし、しばらくは不定期更新が続きます)


次回、【白光の焔 第41話】の更新日は【3月下旬】の予定です。

(詳しい投稿日については、作者のSNSにてお知らせします)


どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ