表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/89

50

「あ……」


 アシュリーは心臓に手をやってふらりとゆらぐ。衝撃を受けているようだ。


「どうしたんじゃ」


「あ、気分が……悪くて。失礼するわね。一人で大丈夫よ、ノース」


 アシュリーが姿を消すと、雨音が居間を支配した。ただよう奇妙な空気に、誰も触れたくないという雰囲気だった。


「で、では今夜はもう休もうか」


 公爵の声でみながうっそりと立ち上がった。

 アシュリーのようすが変だったのはなぜだろうとサラは考えた。彼女はガイの顔を見て驚いているように見えたのだが。


(ハンサムすぎてびっくりしたのかしら)


「僕、大衆娯楽小説が大好きなんです」レインがふいに楽しげな声をあげた。


「こういうシチュエーション最高ですよね。悪天候による疑似密室。さまざまな思惑がある登場人物が一同に集まって一夜を過ごす。深夜に何か起こりかもしれませんね。利害がないのは僕ぐらい。探偵役かなあ。なんちゃって」



 レインが期待したような深夜の悲劇は起こらなかったが、翌日、二つの事件があった。

 鳥のさえずりと煌めく陽光がのぞく雨上がりの美しい朝。体になじんだ癖で早起きしてしまったサラは、数日放置されていたバラ園の手入れに向かった。

 たんに手持無沙汰だっただけである。雑草を抜き、枯れた枝を切り、毛虫をピンセットでつまんで取った。

 時が戻ったような感覚だった。公爵が階段から足を滑らせたと知るまでは。


 結果からいえば、レインが期待したような事件性はない。誰かに突き落とされたわけでもなく、階段に油がまかれていたわけでもない。公爵の不注意である。足が痛いと嘆く公爵を、レインとサラがつきそって病院に連れて行くことになった。


「おい、馭者はどこに行ったんだ」


 馴染みの馭者がいなかったので公爵は憤った。


「もともと馭者なんていませんわよ」


「いない。どういうことだ」


「雇ってるのは、料理人のロンと執事のカーンだけと言ったでしょ。馭者をしてくれていたのは近くに住む気のいい農奴だったのよ。でも昨日の暴言でそっぽをむかれちゃったみたいね」


「なんと……」


「公爵、安心してください。僕が馭者をやりますから」


 レインは馭者台に座った。公爵家の馬車馬はよく馴れていて、素人の馭者を馬鹿になどしない。

 なぜサラが付添ったのかというと、「体調が悪いから」とアシュリーが同行を拒否したせいだ。

 不幸中の幸いか、王立中央病院で、公爵は尊敬する大医師の手当を受けることができた。軽い捻挫だとわかり、三人は安堵した。


「もう歳ですし、念のために……」


 サラの口添えに加え、医師の勧めもあって、いくつかの検査を加えることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ