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部屋の中は荒れていた。書き物机の引出しは全開になっており、紙片がちらばり、インクがこぼれてカーペットを汚している。宝石箱が空になっているのはアシュリーがイミテーションと了解したうえで持って行ったからだろうか。だらしなく開いたクローゼットからは衣類がはみ出ている。ベッドのシーツもまくれあがっていた。
「まあまあ、まるで泥棒が入ったみたいね」
怪盗黒うさぎのほうがずっと手際がよかったけれど。
サラは宝石箱を手に取り、底板のふちに爪をかけてはずした。
「そんなところに宝石を隠していたの!?」
アシュリーの非難に、サラは取り出した紙片をかざしてみせた。
「写真よ。亡くなった両親の写真。もうこれしか残っていないの。これは回収させていただくわね」
セピア色の写真に映っているのは、いかつい髭が特徴的な父親と垂れ目の母親。裕福ではなかったがサラにたいして教育熱心だった子爵夫婦である。サラがポータリー公爵家に嫁入りした翌年、相次いで病気で亡くなった。すっかり丸くなっている写真の四隅をそっと指でなぞる。
「両親はずいぶん前にお亡くなりになっているのですね」
レインの言葉をうけて、あらためて気付く。両親は今のサラよりもずっと若いうちに死んでいるのだ。
「そんなことより、どこにあるんですか、サラ夫人」トールの声には苛立ちが滲んだ。「さっさと教えてください」
サラは壁に手をあてて、一撫でした。
「壁に小さな隙間がありますの。ほら、アリが1匹迷い込んでいますわ。漆喰が剥がれているので修復しないといけませんわね」
その一匹のアリをめがけて、ダチョウが猛烈に壁を突きだした。漆喰の壁に亀裂が走る。
「おやめなさいな、ピーちゃん」
「壁の隙間に隠しているということですか? レンガを取り外すと秘密の隠し場所があるんですか?」
トールが四方の壁に目をやった。
「もしや、あのタペストリーの裏に隠し金庫が……?」
北側の壁には大きなタペストリーがかかっている。牧歌的な田園風景の柄である。トールはそれを横にずらした。
「う……」
隠し金庫はなかった。代わりに紙がびっしりと貼られている。
「……馬車を売ったときの領収書、樹木の伐採の見積書、灌漑工事の領収書……こんなところに隠していたんですか?」
目を近づけてトールがひとつひとつ読み上げた。レインは日記帳を手に持ち、中身を照合して、頷いた。
「書かれているとおりですね。でもどうしてこんな保管方法を?」
「保管ではなく……」サラは口ごもった。「たまたま結果的には保管していたみたいに見えますけど……」
ガイがあっさりと指摘した。
「壁の修復代金をケチったか。タペストリーで見えないからって、修復をしないですませたのでしょう。でも漆喰が剥がれ落ちるのが心配で、紙を貼ったんですね」




