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(もしかしたら、わたくしに原因があるのかしら)
ガイのむっつりした態度が、サラは気になって仕方ない。思い当たる節と言えば、リカルドに魚代を支払おうとしたことくらいだが。
(善意のつもりだったけど、思い上がっているように見えたのかしら)
そうかもしれない、とサラは反省した。手元にあるサラの全財産は、他人から借りたお金なのだ。それも、友人のアンが、おそらくはその身を売って。
そのことをガイは知らないけれど、無職で貧乏な中年女が、いまだに現実を見ずに貴族の施しのような言動をしていることに呆れているのかもしれない。頬がかっと赤くなった。
サラは不思議な気持ちで公爵邸に足を踏み入れた。35年も過ごした、体と心に馴染んだ公爵邸は、もはや他人の家も同然だ。
料理人のロンと執事のカーンはサラの顔を見て微笑んだが、すぐに笑顔をひっこめた。公爵は魚の入ったバケツをロンに渡し、調理を頼んだ。
「結果はどうあれ、みなでディナーを囲むのはどうかな」
公爵はにこにこ顔である。勝利を確信しているのだろう。
「長居は無用です。さっそく夫人の部屋へ向かいましょう」
トールは勝手知ったるなんとやら、屋敷内を先導して歩いていく。その後ろを、足を引きづって歩く公爵とむっつりしたアシュリーが続き、物珍し気にきょろきょろと周囲を見回しながらレインが続く。
「さすが大きなお屋敷だな」ガイが感心したように呟く。「だが金食い虫だ。俺には家がないがまったく羨ましくはないよ」
サラは思わず笑った。
「夫はきっと意識したこともないでしょう。住むところ、食べるもの、着るもの。それらがなくなるなんて考えたことはない。わたくしもそうだった」
「借金をしていたのに、考えもしなかったとしたら、貴女は鈍感だ」
「そのとおりですわ。でもこれからは違います」
廊下の先から呼ぶ声がきこえた。
「トールはせっかちですね。では参りましょう。ガイ弁護士。それとピーちゃんも」
「サラ夫人、まさか帳簿がないなんてことは……」
ガイがひそかに訊ねる。
「わたくしの弁護士は、わたくしを信じてくださいませんの?」
「……いや、そういうことでは」
サラは憤慨しそうになったがなんとか堪えた。憤慨しそうになることが珍しいので、サラは少々困惑した。自分が思っているよりも緊張しているのかもしれない。
かつての自室に向かいながら、壁や天井に視線を走らせる。とりとめもないことが浮かんでは消えた。サラの胸にはいくつもの小さな後悔が湧き上がった。
(感傷的になるなんて……)
「さて、サラ夫人。こちらが貴女の部屋で間違いありませんね」
全員が部屋に入ると、トールがサラに訊ねた。




