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「だって35年間も、ただ息をして、ミルクティーを飲んで、たまに刺繍をして、日光浴のついでにバラ園の手入れをしていただけでしょう。ああ、ダチョウを育てるという、変わった趣味もありましたっけ。どうです、レインさん、サラ夫人のでっちあげと考えた方がよくないですか」
「でっちあげにしては、よくできています」
「そこですよ。できすぎているんです。辻褄合わせをしているからなんです。と同時に記録簿の書き方に、曖昧なところも見られます。例えば、ここ」
トールが指をさした箇所に、レインが目を落とす。
「日付を見てください。『7月中旬ごろ』『8月下旬』となっています」
それにはサラが反論した。
「さすがに日付までは憶えていられないわ。でも金額は間違ってないと思いますわ」
「日付までは憶えてられないと言ったな。なのにここ、ここでは『9月5日』になっている。それはどうしてですか」
「それは……」
「そうだ、おかしいじゃないか」
公爵が身を乗りだして加勢した。今こそサラを攻める時だと考えたのだろう。
「まあ、困ったわね……」
サラはちらと公爵に視線を向けた。
(それは貴方の誕生日じゃないの)
(だから憶えていたの)
(──なんて口が裂けても言えないわ)
サラは目線をテーブルに落とした。勢いに乗ったトールがさらに攻め立てる。
「屋根の修繕費用を支払った9月12日も日付が明確ですね。おかしいですね、部分的に憶えているんですか。公爵のコートやシャツ代は記載がありますが、貴女のドレス代はどうして載ってないんでしょうかね」
「……」
サラはここ5年、ドレスを新調していない。だがそんなことを言っても信用してもらえないだろう。
9月12日のことは、サラはよく憶えている。甥っ子のポールが少し遅れた誕生日祝いにやってきて、グランドツアーの土産話をしてくれたからだ。
「そして10月3日の厨房のぼや。修理費のために銀食器を売ったと」
「それはピーちゃんの誕生日だから憶えてたんですよ!」
サラは今度は胸を張って答えた。公爵の誕生日のように躊躇はない。
「ああーわかりますよ」レインが目を細めて笑う。「大切な家族の誕生日ですもの。僕もそうです。ハービーがちょうど一歳になる日、僕は足を滑らせて入院……ああ、失礼しました。話の腰を折ってしまいまして。僕が言いたかったのは日付とともにしっかり記憶に残る出来事はあるということです」
「……だとしても、でっちあげかもしれない」
「僕の印象ではサラ夫人はけして記憶力が悪いとは思えないんですよね。料理人のロンを7年前に雇ったとか、執事のカーンは5年と3か月前だとか、泥棒に入られたのは3年7か月前とか。今までの発言を思い出すと、記憶力は良さそうなんですよねえ」




