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相手が悪いので一旦逃避することにした

 バングルへは、先日のイベントで、背中を打ったので、数日間安静にすると連絡して、自室でベッドに横になる。異世界でのケガや病気は、下手に医者に行けないので応える。携帯用の医薬品などで自力で治さなくてはならない。


 タブレットで見ると、貢献ポイントが大分高くなっていた。この分だと、割と長期間、ウルサスのいた世界での活動ができそうだ。神谷ことカヤミ・ウロキに負けたのは少々腹が立つが、これ以上何かされてダメージを追うのも、割に合わない。敗北の味は腹に苦く、心がささくれるが、向こうの方が数枚上手だったのだから仕方がない。といっても腑に落ちることもなく、この気分の悪さはしばらく続くだろう。わたしの人生上で、男に軽くあしらわれて負けた汚点として記憶に刻まれるような気がする。


 濃いブルーの寝具をまとい、思索は交錯する。カヤミはなぜわたしを排除しようとやっきになっていたのか。本当に、就労支援が邪魔だったのだろうか。原世界で、カヤミと接点がなかったのか。記憶の渦に身を沈めて過去の記憶を探っていった。


 トーキー・ラチャという東国系の女性から、ストーカー気質の男性に言い寄られていると相談を受けた時、相手からの逃げ方を教えたことがあった。そうだ。相手の名前は、カヤミ・ウロキだったはず。顔までは確認していないが、完全に記憶から消え去っていたので、町中であの女性に声をかけられても覚えていないはずだ。


 わたしのことが、カヤミに知れたのは、ラチャから漏れたのか、それとも彼自身が自力で情報源にたどりついたのかはわからない。邪恋が原因ということは、今後も出合えば彼は何らかのアクションを仕掛けてくるかもしれない。気を付けなくてはいけない。




 医療カプセルが効果が出て、かなり元気が戻ってきていたので、バングルの施設長さんに連絡して、辞職をすることを伝えた。岡田施設長は残念がっていたが、辞表を受理してもらい既定の期間内働いた後、辞職することになった。


 送別会では、沢野から「宮浦さんの実績をもとに就労支援を頑張ります」と伝えられた。

「わたしのやり方は型破りだったけど、利用者さんの長所を見極めて支援につなげてください」と話した。

岡田施設長からは「君みたいなやり手の支援者を失うのは残念だが、新しい職場でもここでの経験を生かして、次へつないでもらいたい」と語られた。短い期間だったけど、わたしのいたガルクツリーフでのやり方を通してもらって感謝をしている。


 自室へ戻ると、転移管理センターに連絡を入れて、元の世界に戻してもらうように依頼する。アパートの荷物は、転移管理センターの方で手を回して処分をしてもらえる。わたしは安心して、耳の奥に流れるメロディに精神をゆだねる。小鳥のさえずりと小川のせせらぎのような自然に包まれる音声が、私をもといた世界へ連れて行ってくれる。



◇◆◇◆



──キエミ・リヤ転送が完了いたしました。

わたしは奥歯の横のスイッチを舌先で押して、通信を切った。

転送管理センターで、いつものように報酬を受け取り、貢献ポイントを確認する。

こちらでは、心置きなく飛べるので、チューブから外に出て、自宅へと舞い降りた。

やはり、タワーで受けた身体への痛手は、多少影響があり、すこし不格好な飛び方になっていた。

自室で、タンクの水を、美容液から回復液に変えて、一晩を過ごす。


翌日、伸縮ビューアを開き、トーキー・ラチャと通信する。

「あら、キエミ・リヤお久しぶり、報酬払い忘れていなかったっけ」

「大丈夫、トーキー・ラチャ、ちゃんと払い込まれているわよ」

「それで、何の用事?」

「あなたに付きまとっていた男、あれからどうなったの」

「ああ、言い忘れていたけど、キエミにターゲットを変えたみたい。伝えるの忘れていたわ」

「いや、いいのよ。だいたいわかったから」

「くれぐれも気を付けて、彼は執念深いわ。怨恨だけじゃないかもしれない」


 怨恨だけじゃないというのが気にかかる。しかし、わたしに見せた態度からは、恋愛の可能性はなかったが。トーキー・ラチャはどちらかというと、か弱い女性タイプでわたしとは正反対だ。


 わたしはカヤミ・ウロキが、ハンティングしていた世界に来ることを確信した。

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