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エバーガーデンの解放者  作者: 亜幸 鈴
七つの塔編

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2.束縛からの解放

 

「あぁ、貴方様が初めての殿方なのですわ」


 女は伸びた爪同士を交差させキリキリ音を立てながら、しかし上品に近づいてくる。


「わたくしが作り上げたこの“ユートピアゲート”を生きたまま通ってきた生物は、貴方様が初めてなのでございます!」


 やばい、絶対やばい──


「死んだものをいくらバラバラにしたところで、得られるものはほとんどございませんの」


 女は眼前で終始興奮しながら話し続ける。


「わたくしは貴方様の全てが知りたいのでございます!ですので、切り刻ませていただきますわ!」


 言っていることの意味がわからない。

 でも、冗談で言っているようには見えない。

 何とかしないと、本当に切り刻まれる──


「ちょっ、ちょっと待ってよ!聞きたいことがあるなら答えるから!」


 冷や汗が止まらない。少しでも時間を稼がなければ。

 僕はモゾモゾと身体を動かす。

 さっき気づいたが、手足は固定されてるが足首の先は少し動かせる。

 が、女はいよいよその長い爪を振りあげてきた。


「そのような必要はございませんの。バラバラになって下さるだけで、全てが分かるのですから──」


 鋭い爪が真横から顔に向かって振りかざされる。

 やばい!無理なのか──


「っ!?」


 その時、僕の上半身がフッと下にズレた。

 爪は空を切り、魔法陣が色を失ったことに女は驚いている。

 僕はすかさず立ち上がり奥の通路へ走る。

 周りのローブの男たちもガヤガヤと焦りだす。


「やばかった!」


 僕は出口を探して暗い廊下を走り続ける。




 広間では女の元へ、白髪の男が冷静に近寄っていく。


「拘束陣の魔力切れ……ですか。やはり闇市で出回るものは粗悪品ということでしょうか」


「いいえ。よくご覧なさい」


 女は陣の端を指さす。

 陣の紋様が微かに削れている。


「っ!……あの者が足先で削っていたと?」


「わけも分からず飛ばされたこの地で、すかさずこれができる判断力!ますますあの殿方の全てを知りたくなってしまいましたわ!」


 女は悦びに震えていた。

 白髪の男はすぐに冷静さを取り戻し、周りの者たちに命令を下した。


「すぐに彼を連れ戻してください」


 ローブの者たちは各々返事をすると同時に通路に向かって走り出した。

 皆、武器を手に持って走った。槍を持つ者、斧を持つ者……そして剣を持つ者。


 女は少し退屈そうに言った。


「あの方々でちゃんと連れ戻すことができるのかしら?」


「時間の問題です、お嬢様。この塔は下層にしか出入り口はありません。そして、ここ中層から下層への階段は念の為閉じておきましたので」


「あの殿方がわたくしの元へ戻ってくるのなら何でもよろしいですわ」


「はい。必ずや」


 男は今一度、命令を遂行する決意を固めた。




 ──僕は懸命に走っていた。


「くそっ、出口はどこなんだ!」


 あるはずのない出口を探して。


 途中、ごつい甲冑を着た置物から西洋風の剣、ロングソードをかっぱらっては来たものの、捨てようか迷っていた。


「本物の剣ってこんなに重いのか!」


 とてもゲームのように自由に振り回せそうにはない。

 それにこれはゲームじゃない。

 もし人を斬れば本当に死んでしまうということ。

 逃げ道があるならさっさと捨てて逃げるべきだが……


「ここにいたか!」


「ッ!?」


 ガキン!

 不意に横道から男。

 振り下ろしてきた槍を間一髪、剣で防ぐ。

 やばかった。

 手足が震える。

 一挙手一投足が死に繋がることを実感し、緊張は最高潮になる。


「このっ!」


 男は槍を振り上げ、再度叩き込む。


(ッ!)


 僕は長年の癖で不意に見えてしまった。

 ガキン!

 だが同じようにもう一度剣で防ぐ。


(いいのか!?本当に!)


 奥の方から複数人の足音が近づいてくるのが分かる。

 まずい。このまま囲まれたら本当に終わる。

 ──やるしかない。覚悟を決めろ!


「コノヤロウッ!」


 男が三度槍を持ち上げた。

 僕は即座に前に出る体制を整えた──


「そこッ!!」


 防御に使っていた剣を横に構え素早く振り抜く。

 男は戦いのプロではないのだろう。

 振り上げの予備動作が大きすぎる。


「ガッ!?」


 だから僕は男の身体を斬り抜いた。

 男は大きく血を吹き出して後ろに倒れ込み、そして……


「……死んだ」


 想定通りになった……。

 想定してなかったのは斬った感覚の生々しさと耐え難い精神負荷。

 僕はしばらく足が動かせず立ち尽くした。


「いたぞ!」


「なっ?テゴリーが殺されたのか!?」


 当然、男たちに追いつかれた。

 3人。各々武器を構えてジリジリと近づいてくる。

 僕はまだ身体を動かせない。脳が思考停止しているようだ。

 血のしたたる剣を力なく持つのがやっと。


 さらに、3人の後ろからもう1人、剣を持ったローブの男も来た。

 終わりだ。


「もうどうにでも……」


 3人の男たちが同時に武器を振り上げてくる。

 その後ろの1人も剣を抜く。


「えっ!?」


 だが最後尾の男の剣だけは目にも止まらぬ速さで振り抜かれる。

 しかもその剣は手前の3人を横一閃で斬り抜いた。

 仲間じゃないのか?

 3人は血を流し、そのまま床に倒れた。


 ローブの男はこちらをしっかりと見据えて静かに、だけど力強く言った。


「まだ剣を捨てるな」


 ──この男が僕にとってどれほど大きな存在になるのか……この時は想像すらできていなかった。


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