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エバーガーデンの解放者  作者: 亜幸 鈴
七つの塔編

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1/2

1.この世界からの解放


 電脳空間のスタジアムが、観衆の歓声で震えていた。


 僕は剣を構え、目の前の対戦相手と向かい合う。

 視界左上のHPバーは残りわずか。

 このままでは押し切られる。

 だからこそ、ここで賭けに出る。


「――絶対に決める!」


 顔を目掛けた鋭い突きをかわされる。

 僕は僅かにバランスを崩して、攻撃を誘った。

 相手が踏み込み、中段──胴への水平斬り。


(――来た!)


 地面を蹴り、横に一回転しながら跳ぶ。

 密かに練習していた回避術。

 刃が僕のいた場所をかすめて空を切る。

 着地と同時に、逆方向から斬り返した。

 相手のHPバーがゼロになり、悔しがりながらも身体は霧散していく。


 ――観衆の歓声が爆発した。


『クロウニィ選手、プラネット杯・剣士部門──準決勝進出です!』


 アナウンスが響き、僕は静かに息を吐いた。

 その時、耳元でアラームが鳴った。


「あ、バイトの時間……」


 競技場を後にしてログアウト、視界が暗転する ……




 自室でヘルメット型デバイスを外せば、現実に引き戻されたことを実感する。

 気だるさを抱えながら立ち上がり、 いつもの上下黒のインナーとスポーツ用のシャツ、ズボンに着替える。

 いくら顔を洗ったところで目の下のクマは取れないか……。


 この古びたアパートからバイト先までは二駅分程離れているけど、電車代がもったいないので、今日も走ってバイトに行く。


 日曜は好きだ。

 学校がないから、バイトとゲームに時間を使える。

 それに──

 クラスメイトから「苦労人の九郎くん」と、くだらないいじりを受けることもない。


 朝の空気は静かで、走る足音だけが響く。

 踏切が降り、電車が通り過ぎるのを待っていると──


「ごめんなさい――」


 すぐ後ろから、人とは思えない程の澄んだ声。


「え……?」


 振り向くが、誰もいない。


「……幻聴? さすがに徹夜はまずかったか」


 そう思って前を向き直った瞬間、僕は固まった。


 奥の踏切のバーの上に、白いローブの女が立っていた。

 風に揺れる白布。

 星のように輝く瞳。


「本当に……ごめんなさい――」


 女は手をこちらに向ける。


「え、ちょっ!?」


 空気に胸ぐらを掴まれたように、体が引き寄せられた。

 真横には、猛スピードの電車。


「死ぬっ!」


 目を閉じかけたその時、電車の正面に黒いモヤの“ゲート”が開いた。

 次の瞬間、僕はそこへ放り込まれていた。




 途方もない白い異空間。

 無数の光の線が駆け巡り、幻想的なほど美しい。

 だが──


「っ……苦しい……!」


 息はできるのに、胸が締めつけられる。

 魂が押しつぶされるような痛み。

 視界の端で、ゲートが遠ざかっていく。

 向こう側は、まるで時が止まったように動かない。

 白いローブの女が、こちらを見ていた。


「あなたも、お行きなさい」


 女の影から大きな黒いモヤが飛び出し、ゲートを通ってこちらへ向かってくる。


「……もう……無理……」


 意識が遠のく。


 その時、低い声が響いた。


「人間の魂とは、こうも脆弱か」


 こちらに近づいてくる黒いモヤは竜の影のようにも見えた……




 ……頭が痛い。

 目を開けると、薄暗い広い空間。

 周囲には黒いローブの人間が十人以上。

 何やらヒソヒソ話している。

 真後ろには、あの黒いゲート。


「ここ……どこ……?」


 見下ろすと、いつものスポーツウェア。

 夢でもゲームでもない。

 手足が動かない。

 足元の魔法陣が光っている。


「……異世界……?」


 そんな言葉が頭をよぎる。

 どうにか動けないかと体をもぞもぞさせてみる。

 ここで都合の良いチートスキル――


「……なんてないか」


 その時、正面の光るゲートから二人が現れた。

 白髪の細身の青年。

 そして、赤いドレスの金髪の女がこっちに向かってくる。


「あぁ……あなた様のすべてが知りたいのです」


 美しい──けれど。


「カラダも、手足も、アタマも。だから……」


 女の爪が大きく伸び――狂気の笑みを浮かべた。


「バラバラになって下さいまし――」


 僕の背筋は凍りついた。


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