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親睦会と海王様と、少しだけほどけた心

キャワが加わり、少しずつ賑やかさを増していく日常。


最初はどこか距離のあった彼女も、ミニエルやエル、そしてなおきと過ごす時間の中で、ほんの少しずつ表情を緩めるようになってきました。


そんな中で開かれることになった――「親睦会」。


行き先は、水族館。


ただのレジャーのはずだったその一日には、笑いと騒がしさと、そしてほんの少しだけ、変化の兆しが混ざっていました。


これは、四人で過ごしたにぎやかで、あたたかくて、少しだけ特別な一日の物語です。


「というわけで」


最寄駅の改札前で、なおきはくるりと振り返った。


「みなさん整列!!」


天使と堕天使の合わせて三人、きょとんと首を傾げる。



一拍置いて、にっと笑う!


「今日は――親睦会です」


「親睦会?」とエル。


「うん!キャワとも仲良くなってきたから、みんなで遊ぶ日」


「いえい!!」


ぱちぱち、とミニエルが真似して拍手した。


「行き先は――」


なおきが掲げたパンフレットには、大きく一言。


『水族館』


「わぁぁぁ!!」とミニエル。

「ほぉ……海の施設!?」とエル。

「…私もいいの?」とキャワ。


「主役!!」


「なんで!?」


「慰安対象だから」


「ん?意味わかんない!」




水族館、


入館ゲートをくぐった瞬間


「ねえねえ見て!あの魚めっちゃキラキラしてる!宝石みたい!!」


ミニエルが入口横の小さな水槽に張りつく。



「順路的には奥からの方が効率がいい気がするけど…」

エルは案内図をじっと見ている。


「いや普通に楽しめばいいんじゃない…?」

真面目なエルになおきが苦笑する。


「効率大事だよ?全部見るんでしょ?」


「見るに決まってるじゃん!全部食べ――じゃなくて、見る!」


「今、食べるって言いかけたよね?」


やっぱり天使の三人が揃うと騒がしいな…



「……ここ、海の生き物ばっかりなんだ」

キャワが少し不思議そうに天井を見上げる。


「そりゃ水族館だからね」


「動物園とは違うの?」


「でもさでもさ!大きいの絶対いるよね!?サメとか!」

ミニエルがぴょんと跳ねる。


「……サメ、強い?」

キャワがぽつりと聞く。


「強いよ。めちゃくちゃ」


「……そっか」

キャワは少しだけ目を細めた。



「はいはい、まずは順路通り行くよ」

なおきが軽く手を振る。


「はーい!!」

「了解」

「うん」



ーー



巨大水槽の前で、空気がすぅ……っと静まった。


「……」


「……」


「……」


なおきだけが違和感に気づく。


イワシの群れが、わずかに進路を変え。

エイが壁側に寄り。

クラゲが、ゆっくりと後退する。


「ねぇ」


小声でなおき。


「魚、ちょっと緊張してない?」


「気のせいじゃない?」とミニエル。


その瞬間、目の前の魚たちが一斉に方向転換した。


「気のせいじゃないな!?」


エルが静かに頷く。


「天界と下界、海中と地底は管轄が分かれているからね」


「外交状態ってこと!?」と、なおき。


「初対面の上位存在が来れば、警戒するのは自然よ」


「観光客だから!」


キャワは水槽を見上げながら、ぽつりと呟いた。


「……食べちゃうぞ」


魚たちがさらに距離を取った。


「余計緊張させてる!!」


「あはは」


ーーー


色々な魚達を一通り見たあと。


水の匂いがまだほんのり残るまま、フードコートに足を踏み入れる。


揚げ物の香ばしい匂いと、だしの優しい香りがふわっと広がって――


ミニエルの目が、一瞬で輝いた。


「ラーメン……!」


湯気の向こうに見える、透き通ったスープ。

表面にはきらきらと油が浮かび、細い麺がゆらゆらと揺れている。


「カツカレーもあるよ?」と、なおき。


サクサクに揚がったカツに、とろりとかかった濃いカレー。

スパイスの香りが、食欲をぐっと引き寄せる。


「食べる!!」


「即答!?」


四人でテーブルに座る。


トレーの上には、

湯気を立てるラーメンと、山のように盛られたカツカレー。


キャワは少しだけ戸惑ってから――


「……いただきます」


カレーをすくう。


スプーンの上で、とろりと揺れるルー。

その下には、つやつやと光る白いご飯。


一口。


もぐもぐ。


衣のサクッとした食感のあとに、

じゅわっと広がる肉の旨み。


遅れて、スパイスのコクとほんのりした甘さが、口いっぱいに広がった。


「……何これ。カツカレーって、やばい美味しい」


小さな声。


でも、その目は確かにほどけていた。


「ご飯の時間、好きなんだよね」


なおきが何気なく言う。


ラーメンの湯気が、ふわりと揺れる。


キャワのスプーンが、ほんの一瞬だけ止まる。


それから、ふっと笑った。


「……うん。好き」


周りでは、

子どもがはしゃぐ声、トレーの触れ合う音、店員の呼び出し。


明るくて、少しざわざわした空気。


キャワはその全部を見回して――


にっこりと、静かに笑った。



「ズルズルッ……ブッ!!」


その空気をぶち壊す音。


ミニエル、盛大にむせた。


勢いよく飛んだナルトが、

ぺたりとエルの頬に貼りつく。


「幸せのお裾分け!」


「……いらないわよそんなお裾分け!まず謝りなさい!」


ミニエルはこうだし、エルはお淑やかぶってるけど、どうもうまくハマらない体質のようだ…



ーー


次に辿り着いたのは、チンアナゴの水槽。


砂から、にょき。

にょき。

にょきにょき。


無数のチンアナゴが、同時にこちらを見ていた。


「……」


「……」


「……」


ミニエルが、無言で見返す。


チンアナゴも、無言で見返す。


完全なる睨み合い。


「この魚…隙がないよ!」



「地上と海底の争い起きそうだからやめてね」


1匹のチンアナゴが、ぴくっと揺れた。

ミニエルも、ぴくっと首を傾げる。


「通じ合ってる!?」


キャワが、思わず吹き出した。


「なにこれ……あはは……」


キャワの楽しそうな笑顔に三人が顔を合わせて微笑んだ


ーーー


イルカショー会場。


軽快な音楽と共に、ショーが始まる。


「わぁ……!」とミニエル。

「優雅ね」とエル。

「すご……」とキャワ。


その瞬間。


イルカが空高く大ジャンプ。

さらに回転。

さらにもう一回転。

そして高速遊泳。


観客席がざわめいた。


「今日なんかすごくない!?」


「キレッキレ!」


なおきは、そっと三人を見る。


イルカたちが、ちらちらとこちらを牽制している…


そして――


バッシャァァァン!!


過去最高レベルのジャンプに後方3回転ムーンサルトの大技が決まった!


「……」


「……」


「……」


「絶対、意識してるよね、あれ…」

となおき。


「お行儀が子達ね」

とエル。


「礼儀の方向性がおかしい!!」


キャワは腹を抱えて笑っていた。

「あははは」


ミニエルも技が決まるたびに一生懸命に拍手をしている



ーーー


そして、イルカのショーが終わって深海コーナーへやって来た


薄暗い展示室。

静かに鎮座する、一体の生物。


ダイオウグソクムシ…


その瞬間。


エルが止まり。

ミニエルが固まり。

キャワの表情が引き締まる。


三人が同時に――


すっ、と跪いた。


「え???」


なおきだけが完全に置いていかれる。


「なになに?」


エルが静かに頭を下げる。

「海の王に、敬意を!!」


ミニエルも真剣な顔で頷く。

「海王様…」


キャワも神妙に口を開いた。

「まさかこんな所で拝謁するとは……」



「海王なの!? ダイオウグソクムシが?」


「なおき、やめなさい!!」



水槽の中のダイオウグソクムシは、微動だにしない。


「圧倒的威厳ね」

キャワが言う…


「これ、威厳なの?」


「これ!?って、なおき、口を慎みなさい!」とエル


「王ってシャチでもサメでもないの!?」



「あんなのただの小魚よ」とキャワ


「やはり海王様、格が違うわ」とエル。


「白くて丸いだけだよ!格の基準どうなってるの!?」



「なおきらほんと叱られるよ!」とミニエル。


「えー?」


「生きてるかも分からないぐらい動いてないのに??」


「ちょっと、人間界が滅ぼされるよ!!」



「失礼致しました」と、そそくさと緊張の面持ちで、その場を離れた四人。


そして――


キャワが、ぷっと吹き出した。


「……なにこれ」


「水族館で王に謁見って」


「ふふ……っ」


肩を震わせて笑う。

ミニエルもつられて笑い、

エルまで小さく笑った。

「あー緊張したわ!!」


なおきは、その様子を少しだけ驚いた顔で見ていた。


ダイオウグソクムシのことなんて、もうどうでもいいけど、

ただ、みんながこんなにも笑っているのが嬉しかった!


「……楽しい?」と、なおき。


キャワは少しだけ目を丸くして


「うん」


「すっごく楽しい」



その時、水槽の魚がふっとキャワの方を見て――静かに泳ぎ去った。


「……?」

(下界の軽い空間のせいでキャワの瞳の封印がゆるんでる?!)


エルだけが、ほんの一瞬だけ視線を細める。

しかしすぐに、何事もなかったように微笑んだ。


「次はお土産コーナーに行きましょうか」


「ぬいぐるみ!!」とミニエル。

「海王グッズあるかな?」とキャワ。

「王推しやめて!?」


館内に、四人の笑い声が響く。


ーーー


帰り道。


夕暮れの空の下。


「あ! 僕ね、夕陽に手をかざすと――見て!!」


なおきが手をかざすと、

その周りに光の粉ような精霊たちが、ふわりと集まってきた。


「なおき凄い!!」とミニエル。

「二人にお父さんとお母さんの話を聞いてからなんだよ」


少し照れくさそうに笑う。


「なんか嬉しくてさ。ありがとう!」


「《精霊の祝福》って言うんだよ!!よかったねっー!」

エルも、ミニエルも優しく微笑んで腕を絡めてきた



「ねえ」


キャワが、小さく声をかける。


「今日さ」


「うん?」


「カツカレーも美味しかったし、イルカもすごかったし」


「海王にも会えたし」


「出し惜しみなかったねー!」


小さく息を吐いて、空を見上げる。


編み込みをくるくると指でいじりながら、

キャワは柔らかく笑った。


「……みんなのおかげで、すごく楽しめたよ!!」


なおきは何も言わず、ただ笑う。

エルとミニエルも、静かに頷いた。


「じゃあまた親睦会しよ!」とミニエル。

「次は地底かしら」とエル。

「スケール広がってない!?」


キャワは夕焼けの空を見上げる。


少しだけ柔らかくなった、緋色の瞳で。


「……うん」


「地底がいいわ、私!」


「おいキャワ!!」


「あははっ」


みんなの笑い声にキラキラと精霊が祝福した



…そして、


キャワがこの日、ある事を実行する決意をした…


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


今回は完全に「日常回」でしたが、キャワがしっかり笑っている姿を描けたのが個人的にすごく好きなポイントです。


あと、海王様の所は三人がガチで敬ってるの、ちょっと気に入ってます(笑)


イルカの無駄な本気や、魚たちの謎の警戒も含めて、人間+天使+堕天使という異物感を楽しんでもらえていたら嬉しいです。


そして最後に少しだけ入れた「キャワの決意」。ここからまた少し、物語が動いていきます。


もし面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価などで応援してもらえるととても励みになります!


それでは、次回もよろしくお願いします!

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