湯気の中の本音と、天使のヤキモチ 1
いつものお風呂時間。
だけど今日は、少しだけ空気が違う夜。
無邪気さと、安心と、言葉にしない気持ちの回です。
今回は少し大人な回です!
そして今夜は次のお話を10分後に続けて投稿します!!
そんなある日ーー
「お風呂入って寝るよー!」
リビングからなおきの声が響く。
「ねえねえ、お風呂、一緒に入ろ?」
ひょこっと顔を出したのはミニエル。
「え? ていうかミニエル、ちゃんと洗えないから、いつも一緒に入ってるでしょ?」
「ふふ、仕方ないな!」
なぜか胸を張る。
精霊体で元天使のミニエルには本当はお風呂は必要ない。
けれど――大好きな場所だ。
「お湯もたまったし、明日は学校だから早く入って寝るよー」
学校…
なおきにとっては当たり前の言葉。
でも、エルにはない明日。
同じ家にいても、同じ時間を生きているわけじゃない。
ほんの少しだけ胸が痛くなる。
自分にはない、人間の当たり前の日常。
羨ましさと、少しの寂しさ。
「……うん。わかってる」
けれどすぐ顔を上げる。
「じゃあ先に温度チェックしてくる!」
ぱたぱたと浴室へ走っていく。
なおきはアヒルのおもちゃと、ビー玉入りの手作りおもちゃを持って後を追った。
――ミニエルは子供である。
脱衣所に入ると湯気がふわりと流れ出る。
「なおき! ぴったりの温度!」
湯船にはアヒルがぷかぷか浮かんでいた。
おもちゃを見ると、ミニエルの目が一気に輝く。
「わ……ビー玉! アヒルさんも増えた……最高……!」
大事そうに受け取り、そっと浮かべる。
その姿を見ているだけで、不思議と肩の力が抜けていく。
湯船に浸かると体がほどける。
「アヒル一号、出撃!」
「戦隊なの?」
「もちろん!」
ぱしゃっ、と水しぶき。
濡れた金色の髪が頬に張りつき、少しだけ大人びて見えた。
ふと、ミニエルがじっと見る。
「なおき、なんでそんなに笑ってるの?」
「ミニエル見てると、幸せになるから」
ぴたり、と動きが止まる。
「わ、わたしも……なおきといると、楽しいし……幸せ、だよ」
言い終わると同時に、
「えいっ!」
ざぶん、と飛び込んでくる。
なおきは苦笑しながら受け止めた。
「……あったかい」
安心した声。
しばらくして、小さく振り返る。
「髪、洗ってくれる?」
「もちろん。今日は優しくだよ」
「ゴシゴシはだめだからね?」
「了解」
背筋を伸ばして座るミニエル。
「よろしくお願いします!」
金色の髪に泡をのせる。
するり、と指が通る。
「ほんと、綺麗な髪」
「……知ってる」
得意げな声。
優しく頭をなぞると、
「気持ちいいー」
なおきの指が髪を梳くたび、胸の奥が熱くなる。
幸せ。
安心。
このまま、もっと隣にいたい。
そう願った瞬間ーー
ふわり、と湯気が揺れた。
小さな背中がすっと伸びる。
髪が長く流れ落ちる。
「……え?」
そこにいたのは、大人の姿のエル。
「……わ、わたし?」
無自覚。
なおき、完全停止。
湯気の向こうで、少し照れたように微笑む。
子供の姿でも、大人の姿でも。
変わらないのは――なおきの隣で安心した顔だった。
「あはは、出てきちゃった」
「困ってる?」
「……びっくりしただけ」
声が少し低くなる。
「……なおき」
「今日は……小さい方じゃなくて」
少しだけ目を伏せる。
「私として、隣にいたい。」
小さく息を吸う。
「……戻らなくても、いい?」
なおきは一瞬目を閉じる。
「どっちのエルでもエルだから」
その言葉に、エルは安心したように目を細める。
そしてーー
抱き寄せた。
湯船の水面が静かに揺れる。
湯気の向こうで、二人の影だけが静かに重なる。
子供でも。
大人でも。
天使でも。
精霊でも。
なおきが抱きしめたのは、ずっと同じ一人だった。
そして今日の事は、
誰にも知られない、
二人だけの秘密……
子供の姿でも、大人の姿でも。
なおきの隣にいるときの表情は、ずっと同じでした。
静かな湯気の中で、距離が少しだけ近づく夜のお話です。
いつも読んでいただいてありがとうございます!
20時20分に次のお話を投稿するのでそれも合わせてお楽しみください!!




