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28.「……バカを言うな」

 ☆★☆


 それからしばらくして、ルーシャンは王城に戻ってきていた。淡々と王城を歩くルーシャンの後ろには、いつも通りダニエルが控えている。そんなダニエルを一瞥し、ルーシャンは考えていた。……先ほどのドロシーの言葉の、真意について。


(なんて、考えても無駄か。当初は確かにそういう約束……というか、契約だった)


 ドロシーとルーシャンは離縁を前提とした関係を築いた。だから、離縁の話をされても特に問題などなかったはずだ。しかし、最近いろいろと考えてしまうのだ。……ドロシー以上に面白い令嬢は、この世にいないのではないかと。


(ドロシー嬢は面白い。……エイリーン嬢なんて、比べ物にならないくらいだ)


 ルーシャンは面白いことが好きだ。そして、ドロシーのあの薬学への没頭ぶりは面白いものにも見えていた。初めは、見た目だけの令嬢だと思っていた。薬学をかじっただけの、小娘だと。なのに、実際の彼女はとても真剣に薬学を極めていた。その所為なのだろうか。こんな、微妙な気持ちになるのは。


「……はぁ」


 王家の私室スペースに戻り、露骨にため息をつく。そうすれば、後ろに控えていたダニエルが「殿下」と声をかけてくる。そのため、ルーシャンは振り返った。ダニエルのその目は、何処となく戸惑っていた。


「殿下は、ドロシー様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」


 挙句に、この質問である。全く、察しがよすぎるのも考えものだ。心の中でそう考えながら、ルーシャンは「別に、一応の妻」と素っ気なく返す。そう、実際そうだ。自分たちは離縁前提の結婚生活を送っている。惹かれあう必要など、これっぽっちもない。それに、何よりも。……自分だけが惹かれているかもしれないなんて、悔しくて仕方がない。


「女除けって言えば、一番ぴったりか。ドロシー嬢も、俺のことを同じように思っているだろうしさ」


 兄の部屋の前を通り過ぎながら、ルーシャンはそう言葉を返す。兄の部屋からは何やら物音がしており、どうやら兄は在室中らしい。王太子である兄は日々忙しなく働いている。そういえば、最近顔を合わせていないな、なんてどうでもいいことも思い出した。


「……殿下は」

「どうした?」

「殿下は、本当はドロシー様に興味があるのではないのですか?」


 ゆっくりと、ダニエルにそう問いかけられた。確かに、興味はある。薬学に没頭する令嬢など滅多にいないし、あそこまで極上の容姿を持つ女性もあまりいないだろう。だからこそ、興味を持っているというのは間違いない。


「……興味があるから、今だってあんな風に過ごしている」

「違います」


 ルーシャンの言葉を切り捨て、ダニエルはルーシャンのことをまっすぐに見つめてきた。……ダニエルは何処となく迫力がある。それは、ルーシャンにもよく分かっていることだ。


「殿下は、ドロシー様のことを好き始めているのではないのですか?」


 静かな声だった。その言葉を聞いて、ルーシャンは視線をそっと逸らす。好き始めている。もしも、そうだとして。


(俺はこんなにもひねくれている。だから、素直になれるわけがないし、認められるわけもない)


 易々と素直になったり認めることは、プライドが許さなかった。それは、王子としてのプライド? それとも、男としてのプライド? 今までの、女性嫌いが原因? 自分の心に何度問いかけても、それは分からない。


「……バカを言うな」


 だったら、ダニエルの言葉を蹴り飛ばした方が楽だ。そう思い、ルーシャンは素っ気なくそう言葉を告げ、颯爽と歩きだす。ルーシャンの部屋はもう少し先だ。早く戻って、一人になりたい。……そう、自分は引きこもり。こうやって外に出ること自体が、稀有なのだ。


(俺がドロシー嬢を好いているとして、今更どんな風に接すればいいんだ)


 そもそも、そうなのだ。興味から好意に変わり、恋慕に変わる。それは、ありえることなのだろう。が、自分としてはありえないと思っていた。ましてや、ルーシャンとドロシーはまだ対面して一ヶ月と少ししか過ぎていないのだ。もしも、この短期間で彼女に惹かれたのだとすれば……それは、ちょろすぎないだろうか?


「俺は、ドロシー嬢のことを好いていない。……友人としては、まだいいかもしれない。だが、妻としては無理だ」

「……さようでございますか」

「……妻として、見ることなんて」


 今まで関係を断ち切っていたことに関しては、双方に責任がある。このままで構わないと、二人とも会おうともしなかった。ただ、婚姻してからは違う。ドロシーは自分自身のためとはいえ行動した。それに対して、自分はどうだ? 行動を起こすことなどなかった。ドロシーが会いに来てくれなければ、会おうともしなかっただろう。


(……その場合、どうなっていた?)


 多分、婚姻の時と同じく離縁の紙を送りつけるだけだっただろう。彼女の顔も知らないで、性格も知らないで。


「……まぁ、俺は殿下の部下のような存在ですから。あれこれ口うるさく注意をするつもりは一切ありません。ただ」

「どうした」

「後悔のないように、生きてください。俺から言えることは、それだけです」


 噛みしめるように言われた言葉は、きっとダニエルの実体験に基づいたことなのだろう。それが分かるからこそ、ルーシャンは何も言えなかった。

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