第37話 夕焼け
「ハル、どう? 帰れそう?」
シンは路地裏と表通りの境目で、ハルに問いかける。ハルは首を横に振り、シンの目を見つめる。
「シン、ここで話し合おうよ」
「そう、だな。ハルから、良いよ」
シンは、そばにあった古い木製の箱を持ってきて、ハルに促す。ハルは座ると、横にスペースを作り、ポンポンと叩く。シンが隣に座ると、ハルは口を開いた。
「シンは、もう他人じゃない!!」
「おお、急だな」
「ここまで旅をしてきて、私は何度も助けられた。もう、シンを憎むなんて、出来ない。父のように、ううん。ちょっと違う。何だろう、一緒にいると、ポワポワしてきて、安心するの。だからね、遠慮するのやめよう?」
ハルは今まで感じてきた、違和感と呼べるものを、言葉にして伝える。その感情は、憎むだとか、許すだとか、そんなモノでは無かった。ただ、愛する人に向けて、一緒にいて欲しいという、純粋な気持ちだった。
「そうなんだけどな、難しいよ、俺には」
(ハル、君は強いよ。父を殺した俺に、その責任が、“戦争”にあった。そう考えられる心が。普通なら、誰かの所為したくなるはずなんだ)
「シン、本当のことを話して。父のこと、全部」
「……え?」
シンは正面から、隣にいる小柄な少女に目を向ける。いや、小柄だと、か弱いと、何処か心の中で思い込んでいた。しっかりと、目の中心で捉えた彼女は、肉体的では無く、精神的に大きく見えた。
「……気付いて、たのか?」
「うん。っていうか、最初から、死んでないのは知ってたんだ」
「そう、だったのか。それでも殺したも同然だ」
読者様には、訳が分からない。と感じている方がいるでしょう。
それは数ヶ月前に遡る。シンが、魔王との決戦を終える直前だった。
******
「俺も、守りたい人達がいるんだ。…終ろう、魔王」
勇者は剣を振り、自分の足を斬りつける。その血飛沫が、勇者にかかり、頭髪を赤く染める。
「【封印剣 フィルム】」
シンがそう言うと、吹き出した血が、黒く淀んでいく。完全に黒くなり、ドロドロとした液体になると、魔王を包み込む。完全に包み込まれると、今度はまた血色に変わる。
【封印剣 フィルム】とは、シンがこの日の為に用意していた、神話の時代の“神器”だった。その能力は、自身の血を使うことで、対象を封印し、任意の場所へ転移させると言うものだ。
(転移場所は、指定できないな。魔力が足りない)
「【封印】」
剣を地面に突き立て、唱える。バシャッ、と血が地面に落ちると、魔王の姿は何処にも無かった。
「…魔王。ほとぼりが冷めたのなら、封印は必ず解ける。頼む、その時まで、我慢してくれ」
******
シンは魔王としての彼を殺し、魔族としての彼を生かしたのだ。
「父は、どうすれば復活するの?」
「【封印剣 フィルム】が崩れ去ったのを見たろ? 【フィルム】がある限り無限に封印されるが、消滅した今、魔王の魔力が完全に戻れば復活する。魔王の魔力量だから、何年かかるか分からないけど、」
シンは、ハルと真正面で向き合いながら語る。
この時代。魔王という存在が魔族の生命線と言っても過言では無かった。魔王が死んでしまえば魔族が死ぬ。それ程の影響を、魔王は持っていたのだ。
その魔王を殺す。それは魔族を社会的に殺したも同然だった。
「ごめんな、言えなかった。“魔王”という肩書きを持つことが、この時代では、生き辛すぎる」
「ううん。ちゃんと教えてくれてありがとう。これで、ようやく、何で父《魔王》が、魔族が死ななければならなかったのか、しっかりと見れるよ」
二人の手が、自然と重なる。指と指が絡まり、握る力が強くなる。その姿を、夕焼けが隠すように、暖かく染めていた。
後書き
すいません!! 作者です!!
今回の話で頭がこんがらがっちゃった方、いらっしゃると思います。すいません、これが今の自分の精一杯です。まとめると、
・魔王という存在は死んだが、ハルのお父さんは死んでいない
・魔王という存在は、魔族全体に影響している。
・ハルは何で魔族がこんなにも、不遇な状況下に晒されるのかが知りたくて、シンと旅をしている。
です。作品の説明ほど、ダサいものはありませんが、これからも皆さんに楽しんで頂きたいので、後書きという形で説明しました。
皆さん、これからも宜しくお願いします。




