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第21話 魔樹




 血を全身に浴びた男が、魔獣の首を持ってこちらに向かってくる。ハルは矢を準備し、警戒する。


「ん? ハル!? お前なんでこんな前線にいるんだよ!!」


「え?」


 エルフの兵士たちが騒然とする。ハル自身も名前を呼ばれたことに驚いたが、すぐに彼が誰か分かった。


「シン!? その首何!?」


 それを聞いたシンは、無表情のまま首を持ち上げ、「オーガ」とだけ言った。


「オーガだと? なぜそんな危険な魔獣がいるんだ?」


「そもそも、この魔獣の群れが異常だ」


「いやあの男の方が異常だろ」


 エルフ達が武器を下ろし、口論になりかける。すると、


「やめなさい、貴方たち」


 良く通る女性の声が聞こえた。その方向を見ると、高台に護衛を三人つけた、見るからに、このエルフ達の長だろう女性が立っていた。


「ひとまず危機が去ったのです。見張りを少数だけつけ、後のものは里に戻り休むのです」


 その女性や声だけでエルフ達は、それぞれ動き出した。見張りに残る者は弓を抱え、位置につき、他の者は肩を貸しあいながら歩いて行く。


「えっと、どうすれば良いんだろう」


 ハルがエルフ達の往来で、めがまわっていると、腕を掴まれる。


「見つけた。というか、なんで前線まで来てるんだ、危ないだろ。なんの為に弓術を教えたんだ」


「ごめんなさい。私、シンが心配で…」


「ふぅ、無事なら良いんだ。どうだった? 初めての実戦は、」


 ハルは自分の活躍を話す。矢を一本も無駄せず戦えた事は誇れる事だろう。


「シン、これからどうするの? あの()に聞いてみる?」


「そうだな、あの()()()に聞くか」


 シンがハルを見て、少し頬をあげる。ハルは、「性格悪いなぁ」と言いながら、進むシンの後について行く。

 あの女性に近づけば近づくほど、着ているドレスが、細かな装飾で彩られている、というのが分かる。


「あの、すいません。エルフ達の長でしょうか」


 シンが血で濡れた髪をかき揚げ、聞く。血が地面に吸われ、滲む。


「貴方たちが、助太刀をして下さったのですか? それならば是非、お礼を申したいのですが、」


「ああ、いや。その前に、さっきあっちの方で魔獣を大量に退治したんですよ。大丈夫ですかね?雑食の魔獣やら病気やらが心配なんですよ」


「それなら大丈夫です」


 すると女性は食い気味に答える。いつの間にか、立派な杖を持っており、それで木を指す。


「あの木は、魔樹と呼ばれる、自分で魔力を生成できる、変わった植物なのです。その魔樹の養分となるので、片付けはいりません」


 そう言われると確かに、先程地面に吸われた血のシミが、もう無いような気がする。


「申し遅れました。私はこの里の長、エンデル・ポームです」


「俺はシン。彼女が––」


「ハルです」


「二人で旅をしているんですよ。それで、エンデルさんに伝えたいことがあるんです」


 シンは真剣な眼差しで、エンデルを見つめる。唾を飲み込み、声を出す。


「その前に、水浴びをしてもいいですか?」


 ハルは吹き出した。








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