第14話 願いの塔
「どうしたの? シン」
目の前に建つ、先程見たものと同じ塔を見て、シンは冷や汗を流している。その様子は異常でハルにも、その異常が伝わってくる。
「なにかおかしい。ここから離れ––」
そう言いかけた時、シンは視線を感じる。人の視線とは違う、獣のような視線。ゆっくりと後ろをふり向き、確認する。しかし、そこにはハルがいるだけで、他に何か不自然なところは無い。
「……聞き込みをしてまわろう」
「何を聞くの?」
「ここ2、3年で変わったことは? だ」
シンは察する。先の視線、それはこの村を変えた要因であると。人ならざる視線はシンに、背中を舐められるような悪寒を与えた。
「じゃあ、早速あそこの店の人に聞こう。ハルついてきて」
シンは、塔の近くで雑貨をやっていた店主に話しかける。
「こんにちは、少し聞きたいことがあるんです」
「おうよ、なんだい?」
親切だ、とシンは思いながらここ2、3年のことを聞く。すると
「帰ってくれ、話すことは無い」
と一蹴され、睨んでくる。この店だけでなく、他の店も、道行く観光客以外の人々は、漏れなく全員同じ反応をした。
(なんだ? やはり、何かあったな)
「貴方たちですか? ここ2、3年のことを聞いてまわっている方というのは」
そう言ってシンの背後から声をかけてくる人がいた。人、と言っても、狐の獣人であった。
「ああ、そうなんですよ。何か、教えてくれるんですか?」
シンは警戒し、ハルを背後に隠す。ローブを被っているが、ここは不戦街ではない。魔族と知られると厄介なことになる。
「はい、そうなんですよ。お二人に話したいと思いまして。探してました。私は、フォンです」
そう言って、フォンと名乗った獣人は握手を求めてきた。シンはそれに答え、握りかえす。獣人の握力はヒト族に比べて強く、握力から、獣人であることを認識する。
「では、少し歩きながら話しましょう。広場の『願いの塔』は見ましたか?」
「はい、立派ですね」
シンは、ハルを背後に隠しながらフォンについて行く。フォンは初めに見た塔に向かっており、とてもゆっくり歩いている。
「ここからも見えるね、シン」
「でしょう! 立派に作ったのですよ」
ハルの声を聞き、フォンが興奮気味に答える。どうやら塔の責任者はフォンらしく、どこか誇らしげだった。
「では話しをしましょう。貴方はなぜ、ここ2、3年前のことを聞くのですか?」
「気になるから、ではダメですか?」
「ははは、そうですねぇ、気になるですか」
そう言ってフォンは自分の長い耳を、爪のしっかり生えた右手で触る。さりさりと、触り心地の良さそうな音が聞こえてくる。
「あれは『願いの塔』と言います。あれを建てたのがその、ここ2、3年なんですよ」
「あれは、たった2、3年で建てるとは思えませんね」
「ただの人ならそうですね。あれを作ったのは獣人なんですよ。二年前、この村は過疎化が進んでおり、人口が急激に減っていたんですよ」
シンは辺りを見回す。カラムにいたからか、気にしていなかったが、確かに獣人が多い。
「そこで、獣人を引き入れることにしたのです。その友好の証に、我々の願いが叶うよう塔を建てたのです」
「フォンさん、風車もですか?」
ハルがヒョコッと顔を出し、フォンに質問する。風車が相当気になっていたのだろう。
「風車? 何ですか、それ?」
「え? でも––」
ハルが言いかけたことろをシンが塞ぐ。目をパチパチとさせて、ハルが口を閉じる。
「風車が落ちてるのを見たんですよ。それで、願いの塔なんですが、」
シンは上手く話題を戻し、村長の家があった場所のことを聞いた。そして今村長はどこにいるのかも。
「…村長と、お知り合いなんですか?」
「…ええ、何ですか? 村長はどこにいるんですか?」
シンはワザと殺気を出し、反応を見る。フォンは唾を飲み込むと、言う。
「こちらです。病気で、療養中なのです」
歩き出すフォンの体が、ひどく小さく見えた。




