表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/129

8.宿命のライバル、鹿番長!

「倒木日向」で成長し、幼木となった社長。

しかし、植物には植物の苦難災難が待ち受けていた。

虫の襲撃に耐えた社長の前に、植物の天敵、鹿が来襲する。

また、別の危機もやって来た。

 

植物の大敵、鹿である。

 

 

最悪だ。

しかし、いつかはやって来るだろうと、予期はしていた。

 

鹿が近寄って来て、私の葉を食べようとしたので、「腕力」を使ってバンザイしたように枝を上に持ち上げて抵抗する。

 

鹿は一瞬驚き、飛び退いた。

枝を動かす植物は初めて見た事だろう。

 

「こんな気持ち悪い植物の葉は嫌だろう?そら、あっちに行け。」

 

これで諦めてくれる事を期待した。

 

しかし、やはり鹿。

ご馳走を目の前にして、簡単には退かない。

動揺は食欲に掻き消され、再度近寄って来て、無防備な私の下葉を一枚食べた。

 

すると、ブルンと身を揺らす鹿。

何だ?毒でもあるのか私の葉は?

 

そして、再び食べようと口を近付けて来たので、私は更に抵抗する。

 

「これ以上食べられて堪るか!」

 

土魔法Lv2で土柱を発動。

どてっ腹に一発、突き上げ攻撃。

これには堪らず、驚いて逃げて行った。

 

下葉だけ少し食べられてしまったが、鹿の撃退に成功。

 

魔法は便利である。

 

 

――――その三日後

 

 

しかし、鹿はしつこい。

奴等の食欲は無尽蔵なのか、私の葉が美味しかったのか、警戒しながらも再び近寄ってきた。

 

まずはバンザイ。

ヤツの口が届かない位置に、葉を逃がす。

 

そしてヤツの目に向かって光魔法Lv2照射!

 

わははは、眩しかろう!

 

突然の目くらましに、鹿は慌てて逃げて行った。

本日も私の勝利だ。もう来るなよー。

 

 

――――その二日後

 

 

「・・・。」

 

 

鹿、嫌いだ。

 

 

奴はまたやって来た。

 

余程私を食べたいのだろうか。

これだけ嚇かされて、何故懲りない?

 

私が無抵抗に食べられる、そこらの普通の植物じゃない事くらい分かっただろう?

馬鹿じゃないのかアイツは。

流石は「馬鹿」という文字の中に、その種族名が含まれるだけある。

 

 

草食欲の塊、鹿。

 

・・よく見れば、ダラダラ涎を垂らしていた。

 

 

そ ん な に 美 味 い の か 、 私 の 葉 は !?

 

これは由々しき事態だ。

こんな子供騙しの対抗策では、慣れて効かなくなるかもしれないな。

 

しかし、今はスキルポイントに余裕が無い。

今出来る対策で可能な限り追い払い、次のレベルアップまで時間を稼いで凌がねば。

 

 

私は涎の止まらない鹿の腹に、土魔法をブチ込んで追い払った。

 

 

そしてこの日から、私と鹿の牽制合戦が始まったのだった。

 

 

 

 

翌春。レベル11になり、スキルポイント4が入った。

使用可能な合計スキルポイントは5となった。

 

これで鹿との冷戦に終結を見る事が出来る。

私は早速、獲得予定だったスキルにポイントを積んだ。

 

 

――――私はこの1年を振り返る。

 

 

鹿が攻め込んできた回数、実に165回。

幸い、私は落葉樹なので、冬には葉が無くなる。

冬の間は、鹿の襲来は殆ど無く、快適に眠る事が出来た。

 

だが、落葉している期間を除いて165回だ。

あの野郎、春夏秋とほぼ毎日来やがった!

 

ど ん だ け 食 べ た い の 、 私 の 葉 !

 

 

私の輝かしい戦歴を発表しよう。

 

撃退成功率:100%

食べられた葉の被害枚数:65枚

使用したスキルポイント:0

 

既存のスキルを駆使して、新たにスキルポイントを消費せず、被害を最小限に抑える事に成功したと評価できる数字である。

 

鹿撃退に最も有効なのが土魔法。

物理的に攻撃できて、嚇かす事が出来るので、効果的に追い払う事が出来る。

お蔭で土魔法の土柱は、かなりの射出速度と精度を発揮するようになった。

どうやら魔法も熟練すると威力や効果が向上するらしい。

 

しかし、土魔法は諸刃の剣だった。

土魔法で土柱を出すと、その跡が残ってしまう。

つまり、隆起した土の塊だ。

 

これが鹿の踏み台になるのだ。

 

ある日、魔力感知の隙を突かれ急襲を受けた。

その時、こんもり盛り上がった土魔法跡を踏み台にされ、より高い場所の葉を食べられてしまった。

 

バンザイしていたのに、この日、一気に15枚の葉を奪われるという、屈辱的大敗を喫したのだった。

 

そして、慌てて「脚力」を使い、土魔法跡や踏み台となるような段差がない場所へ移動した。

 

 

宿敵、鹿との戦い。

序盤戦はこちらの牽制が効いていたので、有利に撃退が出来ていた。

しかし、中盤戦・・夏頃から戦況が悪化。

光魔法の牽制が効かなくなった。

夜襲もあり、あの夜の迎撃戦は地獄を味わった。

 

終盤戦は過酷だった。

唯一有効な「土魔法」での牽制、「脚力移動」による撤退戦の連続。

精神が疲弊した。

 

しかし私は耐えきった。

65枚の葉を奪われながらも、新芽を伸ばし、新しい葉を育て、守りきった。

 

無事に秋の紅葉を経て、冬を乗り越え、そして春を迎えることに成功したのだ。

 

 

――――そして現在

 

 

奴は私の前に再びやって来た。

 

 

「来たか・・。」

 

既に何度も矛を交えて来た奴とは、ある意味ライバル関係。

互いを知り尽くし、段々と愛着さえ湧いてきたくらいだ。

 

『今年もその葉、いただかせて貰うぜ。』

 

奴が不敵に、そう笑った気がした。

 

相変わらず、だらーんと涎を垂らしながら。

 

 

「残念だったな。今日の私は、もう今までの私ではないぞ。」

 

聴こえる筈の無い言葉を投げ掛ける私。

そう、こちらには迎撃の用意がある。

 

『ふふふ・・そうか。だが、それはこちらも同じだ!』

「何だと?」

 

『来い!お前達!』

「!?」

  

 

・・やられた。

 

 

私は青褪める。

 

 

私は10体以上の鹿に取り囲まれていた。

 

 

何という失態。私はヤツが1体だと、いつから錯覚していたのだ。

鹿は群れを成す。

奴は、はぐれ個体だったようだが、遂に群れと合流したようだ。

 

1体であれば、土魔法の土柱でボディブロウを放てば、奴は堪らず後退する。

しかし、この数は対処できない。

いくら「腕力」でバンザイしても、押し倒されたらチェックメイトだ。

 

蹂躙される。

この数で食べられたら、一瞬で私の葉は全滅だ。

 

全ての鹿が、私の枝に芽吹いた、やわらかな新芽達を見て・・

 

全 員 涎 を 垂 れ て い た 。

 

もう嫌だ、ここの鹿!

 

 

くそ、ここでやられる訳にはいかない。

 

 

昨年これをされていたら死んでいた。

そう思うとゾッと背筋が凍った。

 

だが幸いにして、今の私には新しいスキルがある。

果たして、私の奥の手は、この数の暴力に有効なのか?

不安を押し殺して、私は鹿と対峙する。

 

 

『こうなっては、流石のお前も手も足も出まい。手足は元より無いがな。ハッハッハ!』

「どうかな?私を舐めていると痛い目を見るぞ?」

 

『この圧倒的戦力差を見て、何を強がっている?そんなブラフが通じる俺ではないと、お前も知っているだろう?』

「ではやってみれば良い。」

 

そんな会話が繰り広げられたのかは定かではないが、私は対峙した鹿のリーダーに向けて不敵に嗤って見せた。

 

 

『そうか、ではお望み通り、その若葉、根こそぎ食わせて貰おう!行くぞ!』

 

合図したかのように、鹿が全軍で突撃して来た。

 

『ヒャッハー!旨そうな若葉だぜぇ!』

『見なよ、瑞々しくて最高の色艶じゃないか。うへへへ。』

『キャプテンの言う通り、この木は別格だね。』

『オイラ、もう我慢出来ないんだな。』

 

全員目が血走っているように感じた。

涎を振り撒きながら走って来る。

 

「土魔法Lv2発動!」

 

私は一番前を疾走する鹿の腹に、土柱をめり込ませ空中に放り上げた。

無防備な腹にカウンター気味に入った、強烈なアッパーカットのようなものだ。

鹿相手には十分な威力がある。

 

『ギャン!うがぁ!うぐぐぐ・・』

 

鹿1体は地面に叩き付けられ、ダメージでのたうち回り、呻き声を上げ、戦闘不能となった。

 

『何だこの木、攻撃してくるじゃないか!』

『だから言っただろ馬鹿が。怯むな!数で押し込めば奴は対処できない!』

 

私は2発目の土柱で、見事2体目の鹿を仕留める。

しかし、健闘虚しく、その後ろから迫る鹿に飛び掛かれてしまった。

 

『イタダキまーーす!』

 

万事休す?

 

 

いや、私の勝ちだ。

 

ガン!

 

『ギャン!何だこれ!?』

 

ガガン、ガン!

 

『ウガッ!進めない!』

『見えない壁があるよ!』

 

そう、奴等は私を目前にして、何かの壁に激突した。

鹿の侵攻が止まる!

 

 

スキル:魔法障壁Lv4

 

我が身を守る魔力の壁を生み出す不思議な能力だ。

Lv1では、身体の表面に薄い膜を張る程度で、ゴム手袋を着けたような感じ。

Lv2になれば、身体の周囲10cm程に薄い膜の壁を展開出来る程度。

Lv3なら、身体の周囲30cmに、薄板の様な壁を展開できる。

 

正直、心許ない。

私は土魔法で強度を検証しながら、そう評価を下した。

その為、一気にLv4にした。

 

Lv4になれば、まな板程度の厚みと強度がある壁を周囲に展開できた。

これなら鹿の突進にも耐えられるハズだ。

 

『何だと?おのれ、小癪な!』

 

鹿のキャプテンが前に出る。悔しげな表情で私を睨みつけた。

 

「どうした?もう終わりか?先程の威勢はどうしたのかね?」

 

ここで良い気分になり、調子に乗って挑発を入れたのが、失敗だった。

 

『舐めるなぁ!』

 

キャプテンが怒りに任せて突進してきた。

その立派な角を前に突き出し、私の魔法障壁に体当たりした。

 

ガァン!

 

『ムグゥ!堅い。』

「うわわわ。スゴイ衝撃だ。」

 

まずい。まだ大丈夫だが、こんな突進を何度も喰らったら、いずれ崩壊してしまう!

 

これまでの奴等は、食欲が過ぎて、口から障壁に激突していたので衝撃が弱かった。

しかしキャプテンは障壁の破壊を最優先にして、角で突進したのだ。

その威力や、ヤツの大きな体格もあり、他の鹿の衝撃と比べ物にならなかった。

 

『もう一度!』

 

ガァン!

 

まずい、亀裂が!

 

ここでこの障壁を破られる訳にはいかない。

初戦で破られれば、次からも奴等は、「 障壁 = 破壊できる 」と学習する事だろう。

そうなれば、何度も何度も奴等は侵攻してくる。

 

それは絶対に防がねばならない!

 

「 障壁 = 破壊不能 」と学習させる必要があるのだ。

 

この春から私が安寧に暮らす為には、ここで圧倒的な差を見せ付け、奴等の心を折る必要がある。

 

絶対に破られる訳にはいかない!

 

 

『トドメだぁ!』

「魔法障壁Lv5!」

 

更に投資!

魔法障壁Lv5

Lv5になれば、一気にその強度は、木材から金属の領域に入ってくる事だろう。

厚みがあるアルミ金属板の壁を周囲に展開しているようなもので、生身の動物が破れる強度ではなくなった。

 

『ンギャ!くそっ、硬い。』

 

全力で魔法障壁に突進し続けたキャプテンは、既にフラフラだった。

脳震盪を起こしているのだろう。

 

「無駄だ。もう貴様等の攻撃は怖くないぞ!」

 

私は勝利を確信した。

 

「そして油断したな?」

 

私は彼の無防備な腹に狙いを定めた。

土魔法Lv2、発動。

 

『しまった!』

「 グ ラ ン ド ア ッ パ ー ! 」

 

キャプテンの腹に、土柱がめり込んだ。

 

この土柱の魔法。

何度も何度も使ってきたので、愛着が湧き、調子に乗って名前を付けてしまったのだが、興奮してその技名を叫んでいた。

これではマンガの主人公のようではないか・・お恥ずかしい。

 

『ぐふっ・・魔法の同時展開だと・・バカな。』

 

え?同時展開って出来ないものなのか?

 

ま、いいや、敵の大将を討ち取った。勝鬨だ!

 

鹿キャプテンが大地に沈んだのを見て、周囲の鹿達に動揺が走る。

私はそれを見逃さなかった。

 

「いいか!お前達のリーダーでさえ私の魔法の前には無力だ!これに懲りたら、二度と私の葉を食べに来るな!わかったな!」

 

『ひぃぃ!何なんだこの木、化物だ!』

『くそぉ、覚えてろ!』

 

 

鹿達は撤退して行った。

3体ほど行動不能で置き去りにされているが、暫くして回復したら、尻尾を巻いて去って行った。

 

 

こうして私は、植物の天敵、鹿に完全勝利を収めたのである。

ちなみに、この森に棲む鹿は食料である植物が豊富なのでデカいです。

見た目はカモシカっぽいですが、ちゃんと角が大きい鹿です。(カモシカは種族的には鹿じゃなく牛)

奈良公園とかで見る通常の鹿の1.5倍程の体格。

鹿番長の大きさは、2倍程と番長らしくてデカいです。

 

それとまた評価ポイント頂きましたん。うれしか~。

社長も転生した甲斐がありましたね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 『ふははは!木よ!我らは帰ってきた!!』 奴らは数千万の鹿を従えてこちらにやってきた。 「ふっ…必殺!リンチ・ザ・アース」 『ぐへぇぁー!!』
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ