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9.威嚇スキルと呪いの木 ~スキルと魔法を鍛えた~

宿敵、鹿を撃退した。

だが、木の命を脅かす敵は動物だけは無かった。

自然との闘いの中で、社長は生きる為に必要な力を付けるべく、能力を強化していく。

だが、自分の能力にも裏切られる事に・・。

鹿番長を撃退して以降、鹿の襲来も減り、虫も随時撃退。

私の葉は順調に数を増やした。

猛威や脅威に曝される事もなく、益々健勝に隆盛に、青々と茂っていた。

光合成し放題の幸せで、平和な日々が過ぎて行った。

 

光合成と睡眠の繰り返し。

たまにやって来る、私の実力を知らない草食動物を楽勝で追い払う日々。

 

ところで、彼等は何故、皆一様に、涎を垂らしているのだろうか・・。

 

私は自分の美味しさが恐くなった。

 

 

 

 

翌年、スキル「威嚇」を取得した。

常時発動しておけば、大抵の虫や動物が近寄って来なくなった。

いやぁ、便利なスキルを見付けてしまった。

 

 

等と思っていた時代が私にもありました。

 

このスキル、重大な弊害があった。

 

 

「威嚇」を使うと独りぼっちになってしまう問題。

 

 

虫や動物避けになると言う事。

それが害虫や害獣だけに適用される等の、都合の良い機能は「威嚇」Lv1には無かった。

 

漏れなく全ての動物を威嚇する事になる。

 

 

すると気が付けば、蝶や小鳥等の、個人的に仲良くしたい動物も、一切寄り付かない、嫌われ樹木になってしまっていた。

 

私は凹んだ。

 

私の枝葉や周囲には、優雅な蝶の舞も、心地よい小鳥のさえずりも、そんな癒し要素は一切ない。

私の周りだけ、近寄り難いオーラが漂い、静まり返って、虫一匹すらいない。

そんな不吉で、不気味な空間が出来上がっていた。

 

この様な豊かな森では、そんな空間の方が異様で、盛大に浮く。

 

 

まるで呪われた木のようだ・・。

 

 

私はこの森の調和を乱す反社会勢力。

やさぐれ、荒んだ、行き場の無い森のつま弾き者。

世間に煙たがられ、孤立した社会不適合者。

そんな評価を下されているかのような錯覚に捉われる。

 

森から否定され、ハブられ、拒まれているようで非常に悲しい。

 

 

こんなはずじゃなかった。

こんなの私の求めた木のイメージじゃない!

 

私的には、枝の上をリスが走り回り、小鳥が巣を作り、雛が巣立つまでを見守るような、森の動物達に好かれる憩いの場。

そんな位置に収まりたかったのだ。

 

豊かな森の守り神みたいな心優しい大きな木に、私はなりたかったのだ。

 

 

それが正反対。

生命の息吹、私の周囲にはゼロ!

吸収も使っているので、私が根を張った周辺は、魔力を吸われて苔すら生育していなかった。

この森の自然豊かな環境が、余計に私を異質さを際立たせる。

そこだけ生命の息吹を感じないのだから。

 

 

こ れ で は 妖 木 だ !

猛毒の実をつけ、呪いの花を咲かせる悪魔の木みたいではないか!

訪れる者を迷わせ、生きて返さない魔の森の妖木の方がお似合いだ。

 

どうしてくれる威嚇スキル!

 

 

それに気付き「威嚇」を解除したが、警戒心の強い小動物は、一度怖れを覚えると、二度と寄って来なかった。

 

この森では、もう取り戻せない、私の夢。

 

 

 

 

また、動物の他に脅威が無かった訳ではない。

虫や動物の次に脅威なのが、天候である。

 

夏の嵐には胆が冷えた。

幸いにして、ここは森の木々に囲まれた場所なので、周囲の木々が大部分の風を防いでくれて助かった。

それでも私の幼い身体は、大ダメージを受けたのだが、何とか生き残る事が出来た。

お蔭で、風耐性というスキルを取得してしまった。

 

その嵐の経験から、嵐の前兆を感じたら、土魔法で自分の周囲に壁を作り、更に魔法障壁で身を守るようにした。

 

ちなみに、これまでスキルレベルを上げると、その最大レベルのスキルしか使えないと思い込んでいたのだが、下位レベルのスキルもちゃんと使える事に気付いた。

 

 

そして、次に恐ろしかったのが、病気である。

 

 

ある日、自分の身体の魔力分布がおかしい事に気付く。

良く見ると、一部枯れている葉があった。

 

その日は初夏。

葉が枯れ始めるには早過ぎる。

 

不可解ではあったが、それも普段の怠惰で自堕落な生活が招いた、生活習慣病の一種かもな。

などと一笑して放置、様子見をした。

 

数日後、また葉が枯れた。

 

そして、魔力分布が以前よりも変だ。

 

植物である私には目が無い。痛みも無い。

身体に起きている異変を察知すには、魔力感知しか方法が無いのである。

 

私は自分の身に起きているこの異常を、病気だと判断した。

 

 

植物の病気。

褐斑病、うどん粉病、黒星病、縮葉病、枝枯病、炭疽病、斑点病・・。

前世では園芸経験もあったので、植物の病気はそこそこ知っている。

 

そう言えば最近雨が降らず、苔むしたこの開けた場所は、湿気が高めだった。

森に囲まれているので、風通りも良いとは言えない。

考えれば、病気が流行り易い環境だった。

 

魔力感知で見る限り、葉の形が変わっていないので、縮葉病、サビ病等ではなさそうだ。

 

白さび病かもしれないな。

 

 

病気に目星は付いたが、今の私には処置できる方法が無い。

薬が無いのだ。

 

全身に病原菌が回ったらゲームオーバーだ。

病原菌は、枝や幹の中を通って、全身を蝕む。

 

だから私に出来る唯一の処置をするしかなかった。

 

 

光魔法にて焼き切った。

 

 

既に病気になっている症状の悪い場所を切り落とすしかないのである。

他に方法は無かった。

 

良く晴れた日に、光魔法で光を収束させ、虫眼鏡で紙を焼く要領で、病気になっている葉の根元や小枝を焼いて行く。

神経が無いので、熱かったり、痛かったりはしないのだが、自分で自分の身体を焼くのは、実に悔しさがこみ上げた。

 

魔力感知によって、健全な魔力の流れと、そうではない場所が明確に区別できるのは良かった。

無事に病原菌に侵された部位を切除する事に成功した。

 

 

この経験は肝が冷えた。

大事には至らなかったが、気付くのが少し遅かったら、私は立ち枯れていたかもしれない。

 

虫、獣、天候に加え、病気にも気を付けよう。

 

ここには医者はいないのだから。

 

この後、私はスキル:毒耐性を得た。

 

 

 

 

こうして命の危機を経験し、私は自然の中に、一人で放り出されている事を再認識した。

自分の身は、自分で守らなければならない。

身の安全を確保することが、最優先であることを、痛感したのだった。

 

 

考えを改め、しっかりと防備を固めた私は、危なげなく育って行った。

 

そして、いつものように光合成を楽しんでいた、レベル20となったある日。

 

 

事件がやってきた。

 

 

 

 

この日、私は真面目にステータスと、スキルをどうするか思案していた。

 

レベル20

種族:動ける花咲く広葉樹 →

耐力:110

魔力:69

体力:28

腕力:12

脚力:16

知力:100

精力:2

財力:0

スキルポイント6

獲得スキル:

機能閲覧、魔力感知Lv5、視覚情報補正Lv4、水魔法Lv3、土魔法Lv2、風魔法Lv2、吸収Lv5、光魔法Lv7、威嚇、魔法障壁Lv5、毒耐性、風耐性

 

 

私はここ数年で身体が大きくなり、根張りも良くなった事で、魔力総量は倍増し、魔力の吸収も良くなった。

それで、ガンガン魔法を使えるようになっていた。

 

 

「吸収」をLv5に押し上げたのも大きい。

この世界での魔力の枯渇は、そのまま生命の危機に直結する。

特に、ゆったりと気ままだが、不自由な植物生活では、その影響は計り知れない。

 

その為、常に魔力は補充しておくように心掛けた。

 

吸収Lv5になると、これまでは根からのみ吸収していたのが、枝や葉からも吸収する能力が追加された。

これにより私は、二酸化炭素だけではなく、空気中に漂う魔力さえも取り入れる植物になった。

 

また、これでアブラムシや毛虫が付いても、吸収で撃退する事が可能になった。

虫はもう恐くない。来るなら来い、いや、もっと来い!

 

「奴等は、私の栄養素だ!わはははは!」

 

などと、食虫植物の様なことを思ったのは、秘密の話である。

 

 

「体力」が20を超えると、スキルの持続時間が飛躍的に向上した。

「魔力感知」は1回で1~2時間も継続するようになった。

「威嚇」や「吸収」に至っては、1回使えば半日持続した。

 

「魔法障壁」はレベルによって持続時間が違う。

だが、Lv5でも20分くらい持続させることが出来ると判っている。

Lv1なら、一度発動してしまえば丸一日、常時展開している事が判り、病気の感染防止の為、Lv1は常に発動するようにしていた。

 

 

毒耐性、風耐性等の耐性スキルは、スキルポイント不要で手に入るスキルのようだ。

ポイントが減っていない事で気が付いた。

 

これはつまり、スキルポイントが全てのスキルを得る条件ではないと判明した。

経験によって得られるスキルがある事を示唆しており、ちょっとこの世界の奥深さを感じ取れた。

 

奇妙奇天烈な何かをやり続ければ、思いもしないスキルが手に入るかもしれない。

 

・・面倒なのでやらないけれどね。

 

私は怠惰で自堕落な生活を送りたくて、木になったのだ。

努力は逼迫(ひっぱく)した事情が無い限りしたくはないのである。

 

 

ところで、耐性スキルの取得条件は、耐性項目に耐える経験を積むことで入手できる模様。

取得すれば、その耐性項目に対して強くなれる。

しかも、一度手に入れば、以降、特に発動する必要が無く、常時適用されるスキルなので心強い。

 

だが、入手条件が嫌過ぎる。

何か良くない事が、我が身に降りかからねば、何かに耐えるなんて事は無いのだ。

トラブルや災害なんて歓迎しない。真っ平御免である。

 

耐性スキルは魅力的だが、積極的に取得しに行くほど、私は勇者でも、マゾでもない。

だから、いつか訪れる不慮で不可避なトラブルを乗り越えたとき、手に入ればラッキーとしておく。

消極的取得こそ、最良であると考えた。

 

 

そして「腕力」「脚力」にスキルポイントを振った。

いざという時に、”動ける”というのは安心感が違うからだ。

 

「脚力」が10を超えると、種族名に”動ける”と入った。

その瞬間に、ステータスパラメータに補正が入り、脚力に+5された。

 

脚力15ともなれば、一般人の匍匐前進程度の速度が出る。

ノロいが、植物においては、これはもう、立派な「動く木」だった。

 

 

「腕力」も10を超えると、結構自由に枝葉が動かせるようになった。

スローモーションを見てるようなスピードだが、それでも自在に枝葉の位置を変えられるのは、非常に有用だった。

 

一生懸命、枝葉を動かす練習を続けていたところ、熟練度が上がったようだ。

一部だけなら、枝を(しな)らせて、鞭のようにビュンビュン動かす事が出来るようになった。

全身に分散していた力を、一点集中させる要領だった。

 

これで寄って来た鹿をバチコンと引っ叩いてやろう。

 

 

また、警戒を怠ると良い事が無かったので、常に周囲を見張って置く癖を付けた。

その為にも、魔力感知はLv5に上げておいた。

Lv5になると、半径100m程まで感知範囲が広がり、精度も高くなり、かなり明瞭に殆ど視覚に近い輪郭が見えるようになった。

これにより、以前よりも問題の早期発見が期待できる。

 

そして嬉しい誤算があった。

Lv5にすると、スキルツリーに「視覚情報補正」というスキルが現れたのだ。

 

その名を見て、私は心躍った。

すぐにスキルを取得した。

 

すると思った通り、魔力感知の映像に、目で見たような色彩が追加されたのだ。

魔力感知の映像は、暗闇に赤い光の濃淡で表現された物体の輪郭だけが見える状態だった。

魔力が濃いと、そこだけ強く光るので、赤い光で塗り潰されて、輪郭が分らなくなることもあった。

 

そこに色だ。

色が付いた!

 

それだけで、私の心は喜びに打ち震えた。

 

Lv1では色の種類が少なく、また、滲んだ水彩画のようなボヤけた状態だったので、全体にモザイクがかかったような状態だった。

もっと綺麗に見たいという気持ちが逸り、私は無意識に追加取得をしていた。

 

Lv2で、昔懐かしいファミコン時代のような、粗いドット絵のような状態。

Lv3で、スーパーファミコン。

Lv4にすると、色彩が豊かになり、まだ少しボヤけてはいるが、これまでとは比べ物にならない程、明瞭に、美しく、外の景色が判る様になった。

プレイステーション時代の到来である。

 

「・・・。」

 

私は言葉を失った。

 

ああ、なんて綺麗なんだ。

 

まだまだリアルな映像ではなく、昔のゲームの様な「リアリティがあるなぁ」って感じる程度の画像の世界だが、久し振りに見る鮮やかで豊かな色彩のある風景は、私の心を握り締めて離さなくなった。

 

森の緑、空の青、そして私自身の姿。

ああ、私の葉は、こんな色だったのだな。

 

 

私は植物生活20年目にして、遂に”目”を手に入れたのだった。

 

私はこの感動を決して忘れない。

今後、スキルポイントに余裕が出来たら、優先的に振りたいスキルである。

 

 

尚、視覚情報はON-OFFの切り替えが可能だったので、上手く切り換えられる練習も始めておいた。

 

 

それから、魔法を鍛えることにした。

私は”動ける”と言えど、やはり緩慢である。

魔法はウスノロな私を補助する強力な武器で生命線だ。

 

鹿との戦いや、この地への移動、魔法には何度も助けられたので、その重要性は嫌というほど身に染みている。

魔法を使いこなせれば、生き残る確率が高められるのは間違いない。

使える魔法は、積極的にレベルを上げ、そしてそのポテンシャルを確認しておく事が肝要だ。

 

 

私は高レベルになった魔法スキルが、どんなものなのかを知らない。

知って、今後の指標とする事が重要と判断した。

 

そこで、最も使い易く、有用な魔法「光魔法」を集中的に強化することにした。

 

光魔法は、日光が無くても光合成が出来るし、曇りや雨でも光合成が捗るので便利なのだ。

光合成すると、身体の活力が生まれ、弱った部位等が元気に蘇る。

薬や滋養強壮剤の様な扱いも出来るので、植物たる私には、光魔法は生命線足り得た。

他にも、レーザーメスは、何かを切りたい時に便利。

 

 

器用貧乏より、一点豪華主義の方がメリハリがある。

そう信じて、一気に光魔法だけLv7にしてみたのだが・・

 

メリハリは確かに出た。


出たのだが・・

 

これは出過ぎだろう?

 

【光魔法】

Lv3 光を収束して高温の熱線を自在に照射することが出来る

Lv4 高い光量で相手の視力を奪う、幻覚を見せる、

    熱線を複数照射する事が出来る

Lv5 金属をも溶かす極めて高温のレーザー光線を照射できる

    熱線は連続的に複数連射する事が出来る

    暗闇でも魔力を変換して光を発する事が出来る

    電気を身体に纏うことが出来る

Lv6 レーザー光線を数本照射、広範囲に電撃を放てる、

    電気を自在に操り、触れた対象を電気分解する事が出来る

Lv7 任意に落雷を落とせる、電磁エネルギーを自在に操れる

 

 

私は電気ウナギならぬ、電気樹木となった。

 

「 強 力 過 ぎ て 使 い 辛 い ! 」

 

Lv7ともなると、殺傷能力が非常に高い魔法になるのだな・・。

 

検証に使用してみた所、すぐ近くの木に、轟音を轟かせ、突拍子もなく落雷した。

自分で使って、自分で腰を抜かした。腰が無いけれど。

心臓が止まるかと思った。止まる心臓が無いけれど。

 

自然現象と勘違いして、自分にも落ちるんじゃないかと、ビクビクしていた。

しばらくして、「あれは私の魔法か!」と、天候が原因では無い事に気付いた。

魔力で発電するのだろうか?雷雲など無くても、凄い威力だった。

 

これで補助となる雷雲があったら・・恐ろしくて想像もしたくない。

 

こんな魔法を使わなければならない場面には、出くわしたくないものである。

 

 

ところで、Lv7でこの威力なら、Lv10なんて、どんな事になるのだ?

魔力消費量たったの10で、余裕で天変地異が起こせそうだ。

恐ろしくて、取得する気にならなかった。

 

 

尚、Lv5を取得すると、派生スキル「透明化」が出現した。

光を屈折させて、透過して見せる能力だろう。

 

前世に欲しいスキルだった。

 

 

とにかく、一つの魔法をLv7まで上げてみて感じた事。

 

「こんなオーバースペック、要らない。」

 

切り札には良いが、強力過ぎて、使いどころが無い。

一歩間違えると、自分にも被害が及ぶ危険な魔法になる。

その為、スキルLvは、何らかの派生スキルが生まれ易い、Lv5まで上げれば十分ではないかと実感したのだった。

 

 

 

そんな事を思っていた矢先。

私の魔力感知に不穏な反応が察知された。

 

高速で飛来する、高魔力保持の何か。

 

鳥ではない。

鳥は、威嚇スキルのせいで、もう私に近寄って来ないのだから・・。

 

って、自分で言って凹んでいる場合ではない。

 

 

鳥にはこんな高い魔力は無い。

 

 

つまり、嫌な予感しかしなかった。

 

 

そして、その来訪者は、今後の私の樹木生活を長きに渡って慌ただしくする、歓迎できない存在との邂逅となったのである。

スキルと魔法を強化して、強くなった社長。

果たして、未確認飛行物体の正体とは?

 

私、気になります。

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