79.魔王を武闘大会に参加させてみた
妖精が屋根に乗った牛馬車が街を通る。
道行く人の注目を集め、どよめきを生み出し、子供が走ってついてくる。
王都に着いても妖精族は珍しいようで大人気だった。
アリサがサービスで、群衆の上を旋回飛行したら拍手喝采。
ホントに目立つのが好きな娘だ。
ところで王城まで案内してくれているこの騎士、かなり上級の騎士ではないだろうか?
国王の言葉を聞いていると言うことは、単なる街の衛兵では有り得ない。
そう思っていたら、アイン領主が騎士に尋ねていた。
「貴君はもしや国王軍の騎士か?」
「はい、以前ランクシャーにいました。」
ああ、グリオン君と一緒に来てた騎士団の一人か。
と言うことは、この案内の命令は、グリオン君か、モーリス翁からの令達だろう。
騎士は騎乗して牛馬車と並走し、馬車の窓越しにアイン領主と会話をしていた。
「そうか、知らなかったとはいえ失礼した。」
「いえ、初対面ですのでお気になさらず。」
そんな風に会話をしていたら、
「私達はまだ宿をとっていないのだが、良いのだろうか?」
「問題ありません。王都来訪中は、王城にて宿泊下さい。」
「良いのか?」
「その様に仰せつかっております。」
どうやら特別待遇をしてくれるらしい。
凄いじゃないかアイン領主。
滅多な事では入れない王城に、まさかの宿泊までさせて貰える好待遇。
普通の人なら飛び跳ねて喜ぶプレミアムな体験なのだろうが・・
私 達 は 御 免 で あ る !
まず、アリサだけは絶対に泊まらせられない!
ランクシャー領が破滅する!
蜂蜜酒なんて出されたら、その時点で詰む!
王城に近付けることすらリスキーだ。
公爵家の惨劇を繰り返してなるものか!
アイン領主だけ泊まってくれたまえ。
と、我々は一致団結し、合意に至った。
そこで私とリティア君、アリサ、ゼムノア君は王城の手前で離脱!
王都の中に逃げ込んだ。
尚、王城に泊まれるのは光栄な事なのだろうが、アイン領主とて素直に喜ぶのは早計だ。
この待遇、絶対裏がある。
多分アレコレとランクシャー領について詮索してくるに違いない。
王城宿泊という名の軟禁と見て間違いないだろう。
答えるまで帰れませんとか、普通に有り得る。
私はアイン領主にホットラインの思念通話を繋げた。
『アイン領主、この会話は私とだけ会話できる。私達は王城には近付かないので、城では知らぬ存ぜぬを貫きたまえよ。』
『・・大丈夫だろうか?』
アイン領主は不安そうである。
私と同じで裏があると読んでいるようだ。
『宿泊という軟禁状態を作り出す罠だろう。答え難い事をアレコレと聞いてくるに違いないが、普段通りにかわしたまえ、その場にはモーリス翁もいる事だろう。彼はこちらの味方だ。』
『了解した。頼りにさせて頂く。それよりも王都では大人しくしていて欲しい。噂になると城内でのお茶会の誘いが増えるのだ。』
『・・・・善処する。』
『その間が心配なのだが・・。』
アイン領主の胃袋が捩じ切れる前に王都を脱出したいものだ。
◆
私達はゼムノア君の肩に乗って、王都の町並みを歩いていた。
その間も思念通話でアイン領主とコソコソ打合せをしていた。
『・・という作戦で行こうと思う。』
『了解した。』
アイン領主ともしもの場合の作戦を練り上げた。
これで一度だけ緊急脱出が可能だ。
そんな非常事態に陥る事はないと思うが、念の為の保険だ。
保険を掛けるに至ったのは、実は王都に入って、少々キナ臭い情報を傍受したからである。
さすがは人口密集地。様々な思惑が飛び交っている。
クルティナ君からの報告では、
1)武闘大会での国王暗殺計画
2)ランクシャーの妖精捕獲計画
3)王女拉致計画
これらの悪事が同時並行的に進められているらしい。
中でも私達に直接関わる妖精捕獲計画は、ここ最近の熱い話題なのだそうだ。
「ランクシャー領主が妖精連れで王都に向かっている」
という噂が、既に王都に届き、話題を席巻していた。
すると王都の反社会的組織が動き始めたのだ。
妖精は恐ろしく高額で売れるらしい。
捕まえて売り飛ばす目論見なのだろう。
どうやって空を飛ぶ妖精族を捕まえるか、計画を練っている模様だ。
うーん、笑いを堪えるのが大変だ。
まず、アリサなら蜂蜜で即釣れるから、作戦もクソも要らないのだが?
そしてリティア君を捕獲とか、なんのギャグなのか?
妖精の皮を被った女神だよ?捕まえられるものなら捕まえてみたまえ。
国王暗殺よりも遥かに困難な所業だ。
無知とは本当に滑稽だね。
そして王族の暗殺とか拉致とか、全部筒抜けなんだよねー
私達の現地諜報能力の前には、どんな裏工作も意味を成さない。
そこで王都滞在中に、全部潰してやろうと考えている。
犯人が判っているので楽勝だ。
計画が潰えた時、悪党共はこう思う事だろう。
何で知ってるの?とね。
ただ、唯一の心配事で、最も怖いのは、アリサとリティア君から漏れる私の個人情報である。
余計なこと言わない様に、やらかさない様に、しっかり釘を刺しておかないといけない。
味方が一番信用ならない!
特にリティア君!
あのキレ易い自称秘書が一番心配!
そして、それに全面的に乗っかるクルティナ君も要注意!
本来、響きだけは最も信頼出来そうな秘書と鑑定スキルが、最も危険という事実に嘆く他ない。
自由人だからなぁ・・(遠い目)
仲間の中で、唯一ゼムノア君だけは一定の信頼度がある。
女神が信用出来なくて、邪神で魔王なゼムノア君だけ信用出来るって状況も終わってるなぁ・・。
こうして王都訪問は、何やら面倒臭そうな雰囲気を漂わせながら始まったのだった。
◆
アイン領主と別れた私とリティア君に、アリサとゼムノア君。
このメンバーで行動を開始した。
まずはウザい尾行を排除。恐らく妖精捕獲計画の一派の差し金だろう。
光魔法フォトンレーザーで、尾行者のアキレス腱を焼いて行動不能にする。
昼間に照射されるレーザーは視認されにくい。
突然襲う激痛に、尾行者は訳が判らずのたうち回っていた。
本来は泳がせて、アジトを突き止める等の回りくどい作戦が必要なのだろうか?
主犯もアジトも既に割れてるので、気にする必要はない。
いつでも壊滅に追い込む事が出来る。
なので、今は武闘大会の国王暗殺作戦の阻止を優先する。
秘密裏とは言え、私の存在とランクシャー領滞在を認めてくれている国王だ。
義理がある。
暗殺などで死なれては困るので、この計画は潰す事に決定した。
◆
王都にある闘技場に到着。
実は4日後、この国で一番強い者を決める武闘大会がここで開催される。
ロマン溢れるアツい大会だ。
国や世界の一番を決める戦いは、幾つになっても心躍る。
そして、この大会。
決勝戦には、国王が見物に列席する。
そこを襲撃し、クーデターを起こそうと、反王政派の過激派グループが暗躍していた。
計画の存在は掴んでいるが、当日の仕掛けるタイミングや人員構成、配置は判らない。
その為しばらくの間は泳がせる必要がある。
あくまでもクルティナ君の諜報能力は、会話情報を傍受するもの。
つまり、会話されていないと傍受出来ない。
以前から入念に練られていた作戦みたいなので、直前の今になってはあまり会話がなされず、詳細な情報が不足していた。
だが、当日になれば必ず会話がなされるはず。
その時全て炙り出される事だろう。
一網打尽にしてやる。
しかしながら問題が1つあった。
計画が実行に移された時に会場に居なければ、防衛が間に合わない可能性があった。
その為、決勝戦は闘技場内で待機したい。
しかし、決勝戦会場への入場券は既に完売となっており、手に入れるのが困難だ。
入場券はプレミア化しており、裏組織や貴族間で高額取引がされており、それを横取りするのは面倒臭い。
当日忍び込むにも警備は厳重だろうから難しい。
上空から急行して防ぐ案もあったが、それでは間に合わなくなる可能性がある。
魔法やスキルのある世界である。
どんな手で暗殺を企てているのか判らない内は、万全の体制を整える必要があった。
仕方ないので、こうした。
「ゼムノア君が出場して、本戦まで勝ち上がって貰う事にする!」
「ちょっ、聞いてないんだけど!?」
そうだろうね、今決めたから。
丁度今、予選が行われているそうだよ。
「ノアちゃん、エントリーしてきたよー!」
「早っ!」
「あら、ゼムノアの大好きなシチュエーションではないですか。」
「違うー!」
『もうキメ台詞は決めたか?』
「絶対言わない!」
ゼムノア君は逃げ場を無くされ強制的に参加させられる事となった。
魔王からは逃げられない、改め、この世界では魔王も逃げられないみたいだ。
◆
予選会場に入ると、熱気が凄い。
コロシアムのような擂り鉢型の闘技場で、外周を観覧席が囲い、中央にある広場が競技場のようだ。
アチコチで戦いが繰り広げられていた。
やはり屈強そうな戦士っぽい大男が多い。
武器や防具の使用OK
魔法もスキルもOK
毒でも飛び道具でも何でもいいから、強ければ良いという大雑把なレギュレーションだ。
全身鎧の騎士やら、軽装の剣士、怪しげな黒装束など、様々な選手がいた。
予選は審判捕まえて、任意の相手と一対一で戦って勝てば、相手が持ってる赤い木札を半数枚奪える。
つまり木札を多く持っている相手を倒せば戦果が高い。
最終的に明日の定時までに、木札を多く沢山持ってる者上位10名が決勝戦進出というバトル・ロワイアル方式だ。
尚、木札がゼロになると退場。
木札が残っていれば、負けても再戦出来る。
ルールは相手を殺したら失格。
決定的な寸止めで勝ち。
降参や戦闘継続不能で負け。
勝負が長引くようなら、審判の判定で引き分け。
そんなルールなので、日程を遅れて参加しても問題がない。
予選自体は5日間あり、既に3日を消化して本日を含めて2日間しか残っていないが、木札所持上位者を倒せば十分に逆転可能だった。
上位10位の者を、タイムオーバーギリギリで倒しても決勝の本戦進出である。
実際、飛び入り参加歓迎で、そんな姑息な作戦でワンチャン狙いのヤツもいるようだ。
ゼムノア君には是非とも暴れ回って欲しい。
さあ元魔王の力、存分に示してくれたまえ!
「ゼムノア君、頼んだよ。」
「はぁ~、視線が痛い・・」
予選会場入りした瞬間から、私達は目立ちまくっていた。
話題の妖精を引き連れた、予選参加選手は女。
選手を見渡すとチラチラ女性もいるが、やはり力自慢の屈強そうな女性戦士ばかり。
この世界でも体質的に筋肉量は男性が多く、力仕事は男性が優位だ。
その為、こうした大会は男性が多くなる。
加えて亜人族の魔力は総じて低いので、勝負は鍛え抜いた膂力がモノをいう。
筋肉こそ正義と言わんばかりの、大柄でマッチョな脳筋スタイルが殆どなのだが、その中に混じる細身で軽装なゼムノア君は浮いていた。
しかも美女だ。
見た目から完全に舐められている。
「オイシイカモが物見遊山で参加してきた。ちょっとイヂめてやろうか?」
と、ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべている、不快なヤツも多かった。
「よぉお嬢ちゃん、予選に参加するのか?イジメられないように気を付けな。ひひひ。」
「ちっ。」
いかにも卑怯な手を使いそうなチビの鼠人族のオッサンが付いて来る。
ゼムノア君は睨みつけながら、無視して歩く。
ゼムノア君は参加証明である木札を受け取ると、貸し出し武器の棚へと向かった。
途中で武器が壊れたりして、予選継続が難しくなった選手への救済で、粗末だが一応使える武器や防具を無料で借りる事が出来るのだ。
「これでいいか。」
ゼムノア君が手に取ったのは、小さめの鉄の丸盾だった。
少し厚めの鉄板に持ち手が付いただけの簡素な盾。
但し頑丈で、殴られたら痛い打撃武器にもなる。
あれで戦うのか?
ゼムノア君が広場に下り立つと、他の選手が寄ってきた。
女性の選手は珍しい上に、ゼムノア君は美人だからな。
「ヘイヘイお嬢ちゃん、準備は出来たのかよ?」
「ああ、次は誰と戦うか決めるんだったね?」
「そうだぜ。今日は様子見のヤツも多いな。」
お?いきなり戦いを吹っ掛けられるのかと思ったら、まずはコミニュケーションから入った。
見た目は下品だが、案外用心深いな。
「今一番勝ってるヤツは誰だ?」
「あー、アイツだな。木札14枚のリューザ。」
男が指差したのは、大きな湾刀を武器に、毛皮を身に付けた蜥蜴の亜人族。
その腰には、確かに木札がジャラジャラ提がっていた。
「そうか、ありがとう。それとコレは返しておく。」
「・・お、おお。」
ゼムノア君は、下品な男に何かを手渡した。
魔力感知と視角補正で拡大してみると、針のような物だった。
毒針か?
油断も隙もねぇ!
毒が効いてきた時を狙って勝負を挑み、勝ちをさらう作戦か。
卑怯なようだが有効だ。
何でもありの勝負世界。
あの程度に文句言うヤツは三流以下なのだろう。
「おう!そこの女!俺と戦え!」
あ、早速バトルの申し込みが来た。
斧を持った熊のような亜人族の男がゼムノア君を指差す。
彼の腰には木札が三枚。
明らかに体格が違うゼムノア君を迷いなく指名してきたのは、勝てると踏んだ勝負ばかりを選んでるようだ。
ゼムノア君は少しだけ逡巡して、うんと頷く。
「いいよ、審判は?」
「私が引き受けよう。」
対戦相手と審判が揃った。
この時点で対戦成立・・って、もう先制攻撃してきた!
熊男は一気に間合いを詰め、振りかぶった斧でゼムノア君の胴を横薙ぎにする。
あんな攻撃をまともに受けたら、吹っ飛ぶぞ!
しかしゼムノア君は何故か動かない。
不意を突かれて動けないのか?
ガイン!
ゼムノア君は冷静に盾で攻撃を防ぎ、上方に跳ね上げ受け流した。
「!?」
この時点で違和感に気付かないといけない。
倍近い体格差がある熊男の、振りかぶった重い斧の斬撃を、華奢なゼムノア君が微動だにせず片腕で受け止めたのである。
普通は吹っ飛ぶはずだ。
だが、平然と立って不敵に嗤っていた。
魔力感知で見ている私には判る。
あれは相手の攻撃を盾で防いでるように見せて、実は魔力障壁で防いだのである。
かなり高レベルの魔力障壁だ。
それだけでゼムノア君の実力が推し量れた。
困惑する熊男の隙を見逃さなかったゼムノア君は、スッと彼の懐に入り、小声で魔法を発動。
「エアロスプレッド」
パパパァーーン!
「うごっ・・」
熊男の頭が突然破裂したように見えた。
これも凄い。
風魔法Lv2のエアロスプレッドを瞬時に3連続で発動させて炸裂。
見えないパンチを三発食らったようなものである。
激しく頭部を揺さぶられ、脳震盪を起こした熊男。
そこにトドメの盾での裏拳が入る。
その後、白目を剥いて気絶。
バタリと倒れた。
「勝負あり!」
審判の掛け声で勝敗が決定。
ゼムノア君の圧勝だった。
強っ!
さすがは魔法の王、魔王!
魔法の練度が私やアリサとは全然違う。
「凄ーい!ノアちゃん、カッコいいー!」
「おいおいマジかよ!あの姉ちゃんが勝ったぞ!?」
「嘘だろ?」
「何が起きたんだ!?」
予選会場が沸いた。
「彼我の実力差を見誤ったお前の敗けだ・・・あっ!」
あ、ちゃんとキメ台詞吐いた。
抜 け 切 ら な い 中 二 の 呪 縛 !
『彼我の実力差を見誤ったお前の敗けだ・・実にゼムノアらしい中二台詞!ねぇ?スッキリした?ねぇ?』
『やめろーー!』
すかさず煽るクルティナ君。
性格悪っ!




