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80.快進撃を続ける魔王が不憫で仕方ない!

ゼムノア君の実力は本物だった。

その後もゼムノア君は危なげ無く、余裕で連戦連勝していた。

 

「衝撃のフラッシュブレス!」

相手吹っ飛ぶ「勝負あり!」

 

「閃光のスタンヴォルト」

相手行動不能「勝負あり!」

 

「烈破のエアロスプレッド」

相手気絶「勝負あり!」

 

「魔弾のロックバレット」

相手昏倒「勝負あり!」

 

魔法の発動の前に、何か付け加えてるの意味あるの?

 

クルッ、バッ!

「神月の夜に魔法の深淵を見よ。」キリッ

 

いや、何が言いたいのか意味分かんない。

 

 

華麗に、スタイリッシュに、中二チックに、

無駄にカッコつけながら、勝ちを積み上げて行った。

 

初期は戸惑いと恥じらいが残っていたのか、大人しくしていた彼女だが、注目を集め始めるとノリノリで中二病を発動。


その度にリティア君やクルティナ君に煽られるのだが、段々と煽られ慣れて来たのか、開き直ったのか、キメ台詞が中二度を増してきた。

 

冴 え 渡 る 中 二 ム ー ブ !

 

ゼムノア君、絶好調である。

 

 

次の相手も無駄にピンチを演出してから逆転するという、舐めプに走っていた。

 

「くっ!封印の魔眼が暴発を!こんな時に!」

 

絶対暴発なんてしてない。

魔眼も無い。

 

・・・無いよね?

 

あれでも一応邪神なので疑わしくもなる。

 

「隙あり!食らえ!」

「拒絶のバーストストリーム」

 

近寄ってきた相手を魔法で吹き飛ばした。

あの魔法カッコいい。

 

「閃光のスタンヴォルト」

「ぎゃっ!」

 

トドメの光魔法Lv2。

相手は行動不能。

 

「勝負あり、勝者ゼムノア!」

 

遂に審判に名前覚えられた。

 

腕を横薙ぎにバッ!っと無駄に振ってから振り向き、

無駄に顔に手を当てながら

「フン、その程度か。下らん。」とか言ってる。

 

何あの俺様系キャラみたいなキメ台詞!?

もう見てらんない!

 

 

「深淵の魔女!私と勝負だ!」

 

あ、何か勝手に二つ名が付いてる。

 

あ、ゼムノア君嬉しそう。

 

「ほぅ?これまでの戦いを見て我に挑むか?良かろう、己の未熟さをその身に刻むがいい!」

 

キャラが変わってる!?

 

誰 あ れ !?

 

気弱なボクっ娘魔女キャラは何処に行った!?

 

「ゼムノアがノリノリですね。」

『魔王時代にイキり散らしてた時の、チョーシこいてるゼムノアの復活ですね。』

「暫くすると自ら正体をバラして周囲を戦慄させる遊びを始めるんですよねー、困った子です。」

『宿に帰ったらワカらせて、我に返らせてやりましょう。』

 

外野の女神二人が地味に酷いことを言ってるが、聞かなかったことにしたい。

魔王よりも女神が怖過ぎる!

 

 

◆

 

 

翌日、予選最終日。

私達が会場に行くと、華奢な美人魔法使いが連勝してると話題になっていた。

 

各地から腕自慢が集まるこの大会は、予選でも注目度が高い。

 

会場にはある程度の規模の商会がスカウトを配置している。

お抱えハンターに引き抜く為、ツバを付けるのが目的だろう。

 

決勝の本戦に進んだ一流の猛者は、大御所の貴族や富豪が大枚を積んで、お抱えハンターや護衛に雇われる。

資金力や知名度で劣る中小規模の店や新興の店では、決勝進出者を獲得するのは難しい。

その為中小規模の商会は、予選落ちはしたが目立った活躍をしたような才能ある新人を狙う。

武闘大会の予選は、中小規模の商会の引き抜き合戦になるのだ。

 

その為、新人で快進撃を続けるゼムノア君の噂は昨日一日で瞬く間に広がった。

 

予選会は入場料が安いので、観客席には選手の応援やスカウトの他にも一般客が多くいる。

本戦は見れなくてもせめて予選は!という大会ファン、将来有望な男をゲットしたい女性や、推しの追っかけ、新聞記者、パーティへの勧誘目的のハンター等もいた。

 

ゼムノア君が会場入りすると、観客席が沸く。

 

「あれが深淵の魔女だ!」

「キャー!ゼムノア様ー!」

「本当に華奢で軽装だな。あれで強いのか?」

「妖精を引き連れた魔女か・・美しい。」

「深淵の魔女ゼムノア・・要チェックだ。」

 

まるで決勝戦のような盛り上がりを見せていた。

 

 

『深淵の魔女』という二つ名に、ゼムノア君は満足げだった。

たまにボソッと「深淵の魔女・・むふっ」などと呟いていた。

 

武闘大会は近接肉弾戦が主流だ。

魔力量が少ない亜人族の魔法使いにとっては、連戦を強いられる武闘大会は圧倒的に不利なのだ。

なので、魔法で戦うというゼムノア君のスタイルはとても珍しい。

しかも強いとあれば注目を集めるのは必然だった。

 

そして連戦しても、何故か魔力切れにならない事が、魔女という二つ名を獲得した理由。

 

ここまでの予選を見ていると、魔法を使ったのを見て、「そろそろ魔力切れだろう」と予想して試合を申し込む選手が多かった。

魔法を乱発しているにも関わらず、一向に魔力が切れる様子がないゼムノア君は、亜人族の感覚から見れば異常なのだ。

その謎の魔力量に様々な憶測が飛び交った。

 

相手から魔力を奪っている

回復力が異常に高い

隠れて妖精が魔力を補給している

インチキ

実は魔法ではない・・等々

 


そこに「深淵の」「深淵を」「深淵に」と深淵深淵うるさいので深淵の魔女と呼ばれるようになった。

 

深淵のインフレーション!

 

そして何よりゼムノア君が、他の選手を押し退けて人気を博している決定的要素がある。

 

見た目が良いのだ!

 

ルックスもスタイルも抜群で、無駄にミステリアスな言動と無駄にカッコつけた立ち回りが加わって、無駄にスタイリッシュに勝利する姿が見る者の心を射抜く。

中性的な顔の為、男女問わず人気があった。

 

妖精を伴っている事も話題性が高く。昨日一日にして熱烈なファンを獲得。

そして、この大会一番の注目株となっていた。

 

輝いてる!

輝いてるよゼムノア君!

 

 


だがしかし、昨夜、両女神に散々意地悪され、ワカらせられたゼムノア君

今朝は、見事に闇堕ちしていた。

頭を抱えて宿の部屋の隅に座り込み、怨嗟の言葉をブツブツ吐き出し続けていた。

 

昨日の溌剌さが見る影もない!

 

しかし予選会場に立つゼムノア君の姿は凛々しい。

会場に入った瞬間からシャキっとしてた。

ONとOFFの切替が早いな・・。

 

水を得た魚のようだ!

 

チヤホヤされるのが嬉しいようだ。

ゼムノア君は分かりやすくて可愛いなぁ。

 

◆

 

ゼムノア君は試合を申し込まれるのを待っていた。

だが、一向に挑戦者が現れない。

 

「おい・・誰か試合申し込めよ。」

警戒されて試合が始まらない。

 

「攻撃が当たらないカラクリが判らん。」

魔法障壁だよ。

 

「何発魔法打てば魔力切れるんだ?」

多分切れない。邪神だからね。

 

「突破口が見当たらん。」

地力が強いんだよね。だから対策がない。

 

ゼムノア君は自分からは仕掛けない。

というか、コミュ障なので他の選手に自分から話し掛けられないという致命的弱点があった。

早く試合をしてカッコつけたいゼムノア君と、警戒して試合を仕掛けられない他の選手達。

 

ジリジリした心理戦の様相を呈してきた。

 

 

ゼムノア君は相変わらず広場の壁に寄りかかり、沈黙を貫いていた。

 

そんな動かないゼムノア君に対して、彼女をよく知るリティア君とクルティナ君の解説が始まった。

 

「シャチョー様、見てて下さい。こうなったゼムノアは面白いですよ!」

「え?今は何もする事が無いよね?」

 

完全に待ちの状態だから、動きはない筈だが?

 

『フフン、その状況になったが故に始まる、ゼムノア劇場があることを知るがいい。』

 

私としては彼女の心の安寧の為に、そっとしておいてあげたいのだが・・。

昨夜の部屋で羞恥に身悶えた後、憔悴し切った顔で小さく蹲り、

「消えたい、消えろ、沈め、沈むんだ、嗚呼無理無理、忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ・・」

とブツブツ呟いていた姿を思い出すと、これ以上の精神攻撃は憐憫を禁じ得ない。

触れただけで砕け散りそうだったよ?

 

「まず、あの背中を壁に着けて腕を組んでるボクカッコいいって思ってます。」

 

思ってそう!

 

『脳内仮想敵に背後を取られないところがポイント高いのだ。常に誰かに狙われているという設定がカッコいいと思い込んでいるゼムノアの基本姿勢だ。』

 

この解説、本人が聞いたら立ってられないだろうな・・。

その時点で試合終了である。

予選通過の為にも、聞こえない様にしなければ。

 

「でもそろそろ飽きてきます。今心の中では『何故誰も来ない!?』と焦り始めている頃合いです。」

 

手に取るようにゼムノア君の心を読むのを止めてあげて。

 

『ゼムノアは中途半端なコミュ障だからな。知らない人に自分からは話し掛けられない。』

 

つまり、ゼムノア君は試合を申し込まれない限り、木札を獲得できない。

決勝に進む為には木札を多く稼がないといけないのに、この弱点は致命的だ。

このまま放置が続くと予選落ちしてしまう。

どうするのだゼムノア君。

 

「だから絡まれ易いように変な動きを始めるのです。」

 

は?

変な動き?

 

『だが、挙動不審過ぎて余計に避けられる。』

 

意味ないではないか!

 

「そんな負のスパイラルから抜け出せない、ゼムノアの空回りが大変見応えありますよ。』

 

そんな見所いらない!

 

「もうすぐです。もうすぐ左目を抑えて苦しみ出しますよ。あ、ほら!」

 

ホントだ・・。

 

『ありもしない封印の魔眼という設定を忠実に守っての定期ムーブだな。今日もキレキレだ。』

「封印が解けかかっていると言って、もう350年経ちます。封印っていつ解けるの?ねぇ?それいつ解けるの?ってイヂるとすぐに逃げ出しますので、逃げない様に絶妙な按配でイヂるのが難しいです。」

 

もうやめてあげて!痛々しくて見てられない!

 

「極めて残念ですが、あれをする事でチャンスと思った相手が絡んでくると本気で思ってるのです。他人から見たら気持ち悪いだけと気付いていないのですよ、コミュ障なので。」

 

あ、苦しそうにしながら、チラチラ見てる。

確かにあれは気持ち悪い!

挙動不審で近寄り難いし、出来れば避けて通りたい。

 

ゼムノア君!逆効果だ!やめたまえ!

 

『リティア様!そろそろ出ますよ!』

「遂に来ましたね!誰もいないのに、追われてるフリ!」

 

ゼムノア君!もうやめるんだ!

私まで恥ずかしくなってきたよ!

 

『今日の脳内敵は・・あー、あの動きは脳内暗殺者か。』

「甘いですねクルティナ、あれは組織が雇った東方の暗殺集団、忍者です。ほら、時折驚いたフリをするでしょ?」

『そうか!さすがですリティア様。』

 

よく判るな!?

 

妙なところで大盛り上がりしている女神コンビ。

聞けば、彼女達はゼムノア君の観察を続けて長いそうだ。

 

暇 な の !?

 

そしてそれを知らないゼムノア君が不憫過ぎる!

 

◆

 

ひとしきりゼムノア君の中二病ムーブを眺めていたら、会場に動きがあった。

 

所持した木札が少ない者は足切りとなる予告である。

木札が4枚以下の選手は、時間切れで失格となる。

 

追い詰められた者が、アチコチで試合を始める。

しかしこの時点では、まだゼムノア君に挑む者はいなかった。

 

あの変な動きをしなければ、まだ良かったのに!

 

 

すると、木札を6枚提げた軽装の豹人族が、遂にゼムノア君に話し掛ける。

あ、嬉しそう。

素直に喜んだ顔が可愛らしい。

あれで邪神で魔王で魔神なのか・・リティア君とクルティナ君の方が、よほどその肩書が似合いそうだよ。

 

「我に何の用だ?」

「勿論試合を申し込みに来た。周りは腰抜けばかりで面白くないからな。」

「ふ、奇遇だな、我もそう思っていたところだ。」

 

壁から離れ豹人族に対峙する。

そして無駄にカッコつけた立ちポーズをキメた。

 

「今日は盾じゃないのか?」

「この大会程度のレベルなら、これで十分だ。」

 

ゼムノア君が選んだのは、長さ1m、直径2cm程の単なる鉄の棒だった。

試合を申し込まれ易くするための、舐めプ用武具である。

だが、あんな鉄の棒で殴られたら普通に骨は砕ける。

剣のように斬る事は出来ないが、剣より頑強で、強烈な打撃を与えられるので十分に脅威だと思う。

 

「舐めやがって・・俺をそこらのザコと一緒にしない方がいいぜ?」

「ふ、では実力で証明して見せよ。行くぞ!」

 

ゼムノア君が構える。

 

「待て、審判が居ない。」

  

「・・・・我とした事が、戦える悦びが勝ってしまったようだな。フッ。」

 

相手をしてくれたのが嬉しくて、やる気満々だったのに冷静に返された!

 

恥 ず か し い !

 

そしてその失態をリティア君とクルティナ君が見逃すはずもなく、後で散々煽られる事となる。

 

不 憫 !

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