表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/128

7.光合成は蜜の味

種から発芽したが、森の中は年中薄暗く、植物の生育には適さない。

そこで日当たりの良い場所を求めて移動を開始した社長。

安住の地「倒木日向」には、植物の種の身で、小川を渡る必要があった。

大冒険を経て、無事「倒木日向」に辿り着いた社長は・・

■■ 第二章 幼木期 ■■

 

 

あれから私は「倒木日向」に予定通り根を下ろした。

そして、新芽を広げ、全身で日光を受け、光合成を開始。

 

そして、すくすくと成長し、現在、私は全高5mの広葉樹の幼木となっていた。

 

 

「あ~~~~~」

 

私は堪らず心の中で声を上げる。

 

「 光 合 成 ! 気 持 ち い い ~ !」

 

今日も今日とて光合成。

 

植物になって実感した事。

 

光 合 成 は 気 持 ち 良 い !

 

これは病みつきになる。

言うなれば、常に腹ペコ状態で、極上の料理を味わっているかのような。

言うなれば、冷え切った身体で、温泉に浸かった瞬間の極楽気分が続くような。

言うなれば、神の手をもつマッサージ師に、疲れ切った身体を常に揉み解して貰っているような。

 

それらが同時に続いているような。

そんな快楽と快感と幸福感に、日中の間、ずっと浸っていられるのだ。

 

もう堪らない。


日中はたっぷりと、その快感に酔いしれ、夜間はぐっすりと眠り、夢を見て楽しむ。

木になって良かった!

植物最高!

 

 

私は幸せ絶頂だった。

 

 

 

 

そんな日々なので、時間はあっという間に過ぎた。

気が付けば、この場所に辿り着いて5年と半年。

 

私のステータスは、こんな事になっていた。

 

レベル15

種族:花咲く広葉樹 →

耐力:80

魔力:45

体力:15

腕力:3

脚力:5

知力:100

精力:1

財力:0

スキルポイント16

獲得スキル:機能閲覧、魔力感知Lv4、水魔法Lv3、土魔法Lv2、風魔法Lv2、吸収Lv3

      光魔法Lv2、威嚇、魔法障壁Lv5、毒耐性、風耐性

 

光合成が気持ち良過ぎて、自堕落に過ごす日々。

自己研鑽や強化等は、ほぼほぼ何もしていなかった。

根を張ってしまったので、移動する事もしなくなり、脚力にポイントを振る事も無く、パラメータに関しては放置状態。

 

変化があった事と言えば、種族を「新芽」から「広葉樹」へ、「広葉樹」から「花咲く広葉樹」にクラスチェンジした事。

やっぱり木と言えば、桜をイメージしてしまうのは、前世の記憶のせいなのかもしれない。

花が咲く木は魅力的だった。

 

 

その際、僅かながらパラメータに増加が見られた。

体力、腕力、脚力が、それぞれ+1だけ追加されたのだ。

種族によって、パラメータ補正が入るのかもしれない。

 

 

次に「精力」にパラメータが増えた。

幼木とはいえ、子孫を残す準備が整い始めているのかもしれない。

現在精力:1となっているが、いくつになれば良いのだろうか?

 

前世では、恋人も居なくて、結婚も出来ず、子供を作ることが出来なかった。

そんな金銭的な余裕も、時間的余裕も、外見偏差値的な余裕も、私は持ち合わせていなかったからだ。

だが、過労死するようなバカな私に、家族が居ないのは不幸中の幸いであった。

私が居なくなった事で、環境の変化に戸惑い、苦しむ者や悲しむ者が居なくて済む。

 

でも、時間的余裕が出来た今生には、子孫は残したいものである。

 

幸いにして木なら、人間のように外見で判断される事も無いだろう。

ステータスに「財力」という、私から最も縁遠いパラメータがあるのが気になるが、木なら財力も不必要なのではないか?

 

未だに、解らない事が多いが、ゆっくり時間をかけて解明して行けば良いだろう。

焦る必要は全くないのだ。

 

 

また、「耐力」「魔力」「体力」は、広葉樹となった時点で、レベルアップによって少しずつ増えるようになった。

ちゃんとした木になった事で、強くなったのだろう。

その3項目は、実際の姿と比例増加するのかもしれない。

 

 

とにかく、私は順調に生育し、見た目はちゃんと木になった。

幹は直径4cm程になり、ちょっとした強風じゃ倒れたりしない。

だが、まだまだ幼木だ。油断大敵である。

 

そう言えば、根を下ろして1年程経った時、困った事になったな。

 

他にもトラブルはあった。

その結果が、光魔法Lv2、威嚇、魔法障壁Lv5、毒耐性、風耐性

これらのスキルを獲得する事になった原因である。

 

 

 

 

あれは「倒木日向」に根を下ろした、1年後の春の事だ。

 

背丈は2m程に伸び、広く枝葉を広げ、効率的に太陽光を受ける事が出来るようになっていた。

幹も直径1cm程に太くなり、簡単には折れたり、裂けたりはしなくなったので、安心していたのだ。

本当に新芽で、細い時は怖かった。心細かった。

 

ちなみに、新芽の時は参った。

新芽とは、人間でいうところの、薄い皮膚しかない超敏感な肌が、外気に露出している状態なのだ。

 

その為、風が吹いただけでゾクゾクしていた。

雨粒が当たると、身体の芯がビクンビクンした。

痛覚や触覚がないので、何とも言えない妙な感覚を受けるのだが、それは植物になった者しか分からないだろう。

 

そんな敏感肌の時期を乗り越えて、樹皮が出来て、やっと落ち着いて光合成していた矢先だ。

 

光合成の気持ち良さのお蔭で、すっかり骨抜きになっていた私は、完全に油断していた。

 

「ん?・・んん?・・何だか身体がムズムズするな?」

 

私は久し振りに魔力感知を展開する。

 

「うわっ!気持ち悪い!」

 

最悪である。

 

私の身体に、沢山の虫がモゾモゾとまとわり付いていた。

 

これは何だ?

ずんぐりした体型の虫で、1匹はドングリくらいの大きさがある。

前世の記憶に照らし合わせると、見た目はアブラムシのように見えるが、こんなに大きくは無かった。

 

そんな虫がいつの間にか私に寄生して、大群を成して私の身体を食べていたのだ。

 

植物というのは、鈍感過ぎていけない。

こんな危険な状態にあっても、全然気付けていなかったのだ。

 

 

困ったのが、私は植物である。

人間であれば、手でパパッと払い落とせば良いのだが、そんな俊敏な動きは、木である私には出来ない。

将来的に「腕力」が100にでもなれば、自由に枝葉を動かすことも出来るようになるのだろうか?

 

とにかく、私は奴等を払い落とす事が出来ないのだ。

そんな事を考えている間にも、虫達は私の葉を齧ったり、新芽を食べたりしていた。

 

何てことだ。

何も出来ずに、ただ食べられるのを待つしかないのか?

耐えるしかないのか?

この気持ち悪いのをずっと?

 

冗談じゃない!何の拷問だ!

 

 

考えろ。虫を身体から引き剥がすにはどうすれば良い?

とにかく色々とやってみる事にした。

 

私はまず、風魔法を放ってみた。

 

枝葉が揺れるだけで、全然落ちてくれない。

失敗だ。

 

 

次に水魔法で湿気を与えてみた。

 

多少嫌がったが、葉の裏側に隠れられて、引き剥がすには失敗だった。

 

 

まずい。打つ手が無くなってきた。

この場所に辿り着く為に、スキルポイントは使い果たし、現在は3しかない。

 

虫除けスキルなど、ピンポイントで便利なスキルは無かった。

このままでは、私は虫害で死んでしまうかもしれない。

 

たかが虫、だが植物にとっては、恐るべき敵なのだ。

 

 

私は魔力感知をサボっていた事を悔やんだ。

しかし、今はそんな後悔をしている暇があれば、対策を考えた方が建設的だ。

 

見た目はアブラムシ。

アブラムシ駆除には、水を勢いよくかけて洗い流すのが良いと聞いた事がある。

しかし、水魔法では近くに水場がなければ、大量に水を発生させる事は出来ない。

せいぜい先程のように、少量の雨を降らせる程度。

効果は無いに等しい。

 

他にはアブラムシの天敵、テントウムシをけしかける。

 

いや、テントウムシをどうやって呼び寄せるんだ?

 

 

現状詰んでいた。

 

 

だが諦めてはいけない。

そこで、私は我慢して、この虫を観察することにした。

 

魔力感知で奴等を観察する。

何日も耐えて、耐えて、耐えながら観察していたら、ある日、その特性に気が付いた。

 

「コイツ等、日陰にばかり居るな・・。」

 

そう。奴等が群がっている場所は、私の枝葉で影になっている場所だけだった。

陽が当たる場所には居ない。

 

私は試しに「腕力」を使って枝を動かし、奴等が集まっている日陰を無くしてみた。

 

「おお、逃げる逃げる。」

 

効果ありだ。

だが、別の日陰に入られて、そこで再び齧られる。

 

どうやらコイツ等は、直射日光に長時間曝されると、体内の水分が熱されて、死んでしまうようだ。

熱に弱い身体なのかもしれない。

 

そうか、ならばコレだ!

 

私はスキルツリーから、奴等の撃退に適するであろうスキルを取得した。

 

スキル「光魔法」

 

例によってLv1は貧弱なので、Lv2にする。

そして早速光魔法発動!

 

この魔法は、光を屈折させたり、収束したりと、光を操る事が出来るようだ。

私は日光を曲げて、収束させ、奴等が逃げ込んでいる日陰に照射してやった。

 

突然の光照射に、慌てふためくアブラムシ共。

光から逃れようと、元日陰から出てくるが、元日陰でない場所は日向である。

 

前門の光魔法、後門の日光の挟み撃ち。

 

奴等は堪らず私の身体から手足を離し、ボトボトと地面に落ちて難を逃れていた。

やった!これはイケるぞ!

 

 

翌日からも、魔力感知→光魔法のコンボで、アブラムシを撃退していった。

数日をかけて全てのアブラムシを駆逐する事が出来て、私は危機を回避する事に成功したのだった。

 

尚、この光攻撃はアブラムシだけではなく、小さな虫には結構効く事が判明。

蜘蛛が巣作りを始めたので追い払い、芋虫が登って来たので肌を焼いてやった。

 

アブラムシの一件以来、私は虫の襲来を警戒し、常に魔力感知を発動させておくようにしたのだった。

 

 

 

 

また、別の危機もやって来た。

 

植物の大敵、鹿である。

問題は次々やって来るよ。

次回はVS鹿。ライバル鹿番長登場!

 

2章は、しばらく2日に1回のアップペースを保ちます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ついでに評価とブックマーク登録をさせていただきました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ