6.安住の地「倒木日向」は遠かった
決死の覚悟で臨んだ「川渡り」
しかし無情にも、社長の計算した場所に辿り着けなかった。
安住の地「倒木日向」まであと数mと迫って、ここに来て命の危機。
やはり植物の種は、川を渡る事は出来ないのだろうか?
ここはどこなのだろうか?
幸いにして私はまだ生きていた。
鳥にも、魚にも食べられてはいない。
だが、水の中に沈んでしまった事は間違いない。
枯葉帆船は沈没してしまった。
水の中に投げ出された私は、当然緩慢な動きの根っこだけで泳ぐ事など出来ず、ゆっくりと水底まで沈んでいくだけだった。
尚、植物の種に呼吸の必要はないので、水の中であろうと窒息死してしまう事は無い。
栄養素は、種の中の胚乳に蓄えられているので、水分さえあれば生命維持が可能である。
しかし、今の私は水中に長居が出来ない。
種の状態であれば、このままずっと水中生活も出来るのであるが、現在は発芽状態だ。
ちょこんと外殻の割れ目から、新芽が頭を出している。
新芽は呼吸が必要なのだ。
二酸化炭素を取り込んで、酸素を吐き出す、植物本来の呼吸をする為に出て来ている。
このまま水中に居れば、新芽が腐ってしまうだろう。
その前に脱出しなければならなかった。
その為には可及的速やかに、魔力を回復させる必要があった。
魔力が無ければ、私は極めて無力だ。
ここまで来れたのも、全てこの世界に魔法があったお蔭。
魔法こそ私の生命線。
魔力は生命維持に不可欠のエネルギーだ。
もうスキルポイントの温存なんて考えている余裕はない。
命の危機である。
残るスキルポイントは6。
私は緊急事態パターン3「沈没時」の対策として、新たなスキルを獲得した。
スキル:吸収
私は何年もスキルツリーを眺め、その効果を予測していた。
その中で、現状に最も相応しいスキルは「吸収」しかなかった。
一体何を吸収するのか、確実に判ってはいなかったが、私の植物としての経験上、根が吸収してくれるのは大きく2つ。
水分と魔力だ。
通常、植物の根が吸収するのは、水分と養分のはずなのだが、この世界の植物の特性なのか、魔力が生命活動に不可欠な要素らしい。
何故か魔力を吸い上げて来るのだ。
となればつまり、スキル「吸収」は、恐らく魔力を吸収してくれるはずなのだ。
これで養分だったら泣くけどね。
さて、川底にあるのは石や砂利ばかりではない。
流れ着いて堆積した、腐った枯葉や枝、木の実も多い。
それに水自体にも魔力は含まれている。
そこから少しでも早く魔力を吸い上げ、魔力を回復させる事が、私に出来る唯一にして絶対の最善策。
私は早速「吸収」のスキルを発動させた。
「お、おお、よし。いいぞ。」
案の定、水分が一番に吸収された。
まぁ水中に居るのだから当然だろう。
だが、同時に魔力も流入している感覚がある。
よし、推測通り。
しかし吸収率が少ない。
これでは全回復まで、いつまでかかるのか判らない。
「追加取得、追加取得!」
一気に吸収Lv3に引き上げた。
残りスキルポイント3。
すると先程とは段違いの勢いで魔力が吸収されてくる。
水の吸収は、すぐに飽和状態になり、それきり吸収されなくなった。
良かった、打ち止めがあるんだな。
水の吸い過ぎで、水膨れになるんじゃないかと心配してたんだ。
代わりに魔力の吸い上げ率が跳ね上がった。
これは嬉しい誤算だ!
なんと、数分で魔力が2に戻る。
10分もすれば、4に回復した。よし!
「魔力感知Lv4発動!」
私はまず、自分がどこにいるのか、どんな状況にあるのか把握する。
魔力感知で視界を確保した。
現在地は、予定していた船の到着地点から下流に10mほど流された淀みの底だった。
やはり枝に引っ掛からず、そのまま流されてしまったらしい。
成功率80%で、残り20%の失敗を引き当てるとは・・。
前世で貧乏くじを引き続けていた、私らしい運の無さである。
だが幸いにして、対岸側にいる。
水深15cmの川底、陸までの距離は50cm。
現在、周囲には鳥や鹿などの天敵は居ない。
「これなら、水没脱出作戦パターンBが使える!」
私は有り余る時間の中で、様々な危機を想定し、その対策を事前にシミュレーションしていた。
この状況に最適な脱出方法も、既に構築されている。
私は早速スキルツリーを見た。
「よし、水魔法追加取得・・・いや、更に追加取得!」
ここで水魔法にポイントを上乗せ。
水魔法を一気にLv3に押し上げた。
私の作戦はこうだ。
水魔法で強制的に水流を生み、川底に沈んだ私の身体ごと押し流し、陸の上に打ち上げるイメージ。
名付けて「ヤシの実漂着作戦」
水魔法Lv1は、水が無い場所で使用すると、空気中の水分を集めて、霧を発生させる程度のショボショボ魔法だ。
しかし、十分な水がある場所では、その水を操作する事が出来ると判っている。
水際で実験したので旧知の事実。
Lv1では、少し波立たせる程度の効果。やはりショボい。
恐らくLv2で、ちょっとした水流を起こせるくらいだろう。
「Lv2で陸の上に勢いよく打ち上げるような水流を起こせるか?」
そう自問自答すれば不安が残った。
そこで、Lv3が必要だと即座に判断した。
ケチって失敗したら死んでしまう。迷うべき事じゃない。
私は新芽を守らなければならないのだ!
「狙いはあの方向・・失敗は許されない。絶対に生き残る!」
私は気合いを入れて、水流を生む方向を見定める。
更に「体力」に最後のスキルポイント1を振り当てる。
「吸収」の持続時間を延ばすのが目的だ。
魔力を切らす訳にはいかない。
狙い通り「吸収」の効果は持続した。
数分で魔力が3に戻った。
待ち侘びた水魔法Lv3が使用可能となった。
「水魔法Lv3発動、頼む!」
私は取得したばかりの水魔法を使用した。
「行け!ぶっ飛べぇーー!」
私は全力で魔法を操った。
魔法はイメージがそのまま形になる。
不思議な感覚だが、慣れれば素直に受け入れられた。
私が思い描いたのは、水柱。
土魔法の土柱の、水バージョンである。
土柱は何度も使って、イメージし易かったので、それに沿ったイメージなら水柱は簡単だ。
陸に打ち上げるだけなら、そこまでする必要はなかったが、ややオーバーにしておかないと、Lv3でもショボい水流しか生めなかったらアウトである。
ショートは許されないのだから、オーバーが安パイだ。
なにしろ、命が懸かっている。
全力で臨まなければ、悔いが残るというものだ。
次の瞬間、私は突拍子もなく巻き起きた水柱に打ち上げられ、予想よりも随分と遠くに放り投げられた。
「うわわわ!」
水飛沫と一緒に、大きな放物線を描き、私は空を飛ぶ。
威力、強過ぎた・・。
「でもやった、助かった!」
狙い通り水中から脱出出来た喜びに感無量。
それと同時に、最終目的地の「倒木日向」に向かって落下していく自分を感じた。
水柱の威力が強過ぎて、かなりの飛距離が出ていたのだ。
河原を跳び越え、茂みを越え、私は「倒木日向」の苔が広がる大地に向けて飛んでいた。
「やった!凄いぞ。ここなら日光を浴びれるぞ!」
目が無いので、陽の光の眩しさを感じられないが、そこには森の中とは比べ物にならない光量と暖かさに満ちていた。
森の中には無い、下草が生えているのが、その証拠だ。
きっと私と一緒に飛んできた大量の水飛沫に、日光が反射して、キラキラと輝いて虹を作っている事だろう。
そんな光景を思い浮かべ、私は流れる筈の無い涙が零れるような幻覚を覚えた。
苦労して、長い時間をかけて辿り着いた陽の光満ちる場所「倒木日向」。
その距離、私が埋まっていた場所から、約60m。
たった60m移動するのに、何ヶ月もかかった。
全ての力と知恵を振り絞り、スキルポイントも使い果たし、やっと辿り着いた。
たった60m・・遠かった。
だ が 嬉 し い !
嬉しい嬉しい嬉しい!
私は朽ちて苔むした巨大な倒木の、折れた根元辺りに着地した。
ふかふかの苔が、クッションのように優しく受け止めてくれた。
「やった、遂に辿り着いた!凄い、凄いぞ!」
日光を浴びるというのは、植物にとっては至高のご馳走なのかもしれない。
この場所の植物は、生命力に満ちており、苔さえも魔力豊富だった。
私は早く新芽を広げて、光合成をしてみたいと、期待に胸を躍らせた。
「ここからだ。ここから私は立派な木になるぞ。」
決意を新たに、私は空を見上げる。
色は無い。
魔力感知の視界だから。
だが、何故かとても蒼く感じられるのだった。
でも、次の瞬間には魔力感知の持続時間が終わり、再び私の感覚は暗闇に閉ざされてしまった。
「締まらないな・・だが、清々しい!」
私は心地よい達成感に満たされ、とにかく疲れたので、日光浴しながら昼寝する事にしたのだった。
第一章 種期 完
第一章、完走しました。
自分におめでとうございます。
あと、6話目で初ブクマ頂きましたー!
私の初めてを貰ってくれて、ありがとうございます!(←なんか違う)
この調子で、2日に1話ペースでアップします。
但し、次回は4/24アップです。
次回から、第二章 幼木期の始まりです。
第二章では、やっと別の登場人物(人物?)が出てきます。




