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108.薬師シミルと涙のカルピス

『ところで、シミル君は濃度の濃い薬品を薄める方法を知ってるかな?』

 

私は今一番聞きたいことを確認した。

リティア君の涙を薄めて、魔力回復ポーションを作りたかったのだ。

 

「んー、ああ、その薬物によるけど、希釈用溶液は何種類かは持ってるよ。」

 

そうか、単に水で薄めれば良いと思っていたが、そんな単純なものではないか。

専用の溶液とか使用しないと、有効成分を壊してしまうかもしれない。

カルピスみたいにはいかないな。

 

『コレなのだが、かなり薄めても効果は高いと思うのだが、幾つか試しても良いだろうか?』

 

リティア君に女神の涙が入った小瓶を出して貰う。

彼女の超次元ポケット(神業召喚術)には、私のお金や葉、枝、実、吸収灰、各種素材、アダンの実等の資産が納められている。

 

大変便利なアイテムボックスリティア君

時間経過を無視できるのも、彼女の能力特性だ。

冷凍庫より高性能!

神の超常能力有り難し。

 

こればかりはリティア君を高評価せざるを得ない。

でも褒めると対価に色々要求してくるので褒められないのが難点だ。

 

コトッ

 

リティア君が小瓶をテーブルへ雑に置いた。

 

「・・は?」

『ん?』

 

何だねその反応は?

 

「シャチョーさんって言ったっけ?これは一体何なのか教えて貰えたりする?」

『正体は明かせないが、超高濃度魔力溶液だ。』

 

クルティナ君がそう言ってたし、間違ってはいないだろう。

 

「魔力溶液?いやいやいやいや!こんなの有り得ないよ!何だいこの異常なまでの魔力量!?それにどう見ても飽和量を超えてるのに、どうして安定してるんだい!?まるで自ら意志を持って安定するように押さえ込んでいるかのような液体だよ。いや、それでもこの魔力量はおかしい。いつ大爆発を起こしてもおかしくないのに、何故あんなに雑に扱って、あーもー、頭がおかしくなる!」

 

あー、やっぱりトンデモ物質だったか。

 

彼は見ただけで保有する魔力量が分かるのか?

研究者らしいスキルを獲得してるようだ。

そんな彼にとってはニトログリセリンみたいな不安定な危険物に見えてるのだろう。

 

何故安定してるかって?

多分時が止まってるんだと思うよ。リティア君製だし。

 

とにかくヤバい物だと判明。

これは多分彼や私に手に負えるシロモノでは無さそうだ。引っ込めよう。

 

『やっぱり見なかった事に・・』

「いやいやいやいや!シャチョーさん、そりゃないよ!こんな凄いもの見せられてスルーなんて無理だ。お願いだ、少しだけ!少ーーしだけ実験させて!」

 

研究者魂に火が着いたみたいだ。

 

うーーん、正直触らぬ神に祟りなしだと思う。

マジモンの神様由来素材なので、下手すると世界を揺るがす大事件になる可能性すらある。

 

これは安易に取り扱わない方が賢明だろう。

やはりクルティナ君から正しい用法用量を聞いておくべきだ。

 

『少し待ってくれたまえ。鑑定スキルに相談する。』

「は?」

 

呆気に取られているが華麗にスルー。

クルティナ君に確認しよう。

 

『クルティナ君、これって安易に扱うと危なくないのか?』

『聞かなくても判るだろう。危ない。』

 

ですよねー

 

『ちなみに正しい希釈方法って教えて貰えたりするかね?』

『水で薄めるしかない。』

 

カルピスみたいだった!

 

『但し、水の量が問題だ。保持魔力量の乏しい亜人族が安全に飲用出来るまで希釈するには、リティア様の涙一滴に対して、そこの湖の水、半分程度が必要になる。』

『とんでもないな!』

 

そんなの市販品に出来る訳がない。

規模が桁違いだ。

お金儲けの夢が潰えた。

 

『私は?』

『幼木は原液を飲んで死滅して欲しい。』

 

もはやこの悪態も形式美と思えてきた。

 

『クルティナ君の希望ではなくて、現実的には?』

『貴様やゼムノアは10万倍程度に薄めればイケるのではないか?』

 

アルコール度数の高い酒みたいだな。

 

確か一滴は0.05mlだったから、10万掛けて5000ml。

つまり5リットルの水で希釈か。

ペットボトル10本分くらいになるのか。

それなら作れるな。

 

『アリサやモーリス翁なら、どれくらい水が要るのかな?』

『この家10軒分程度の水なら、耐えられるのではないか。』

 

おー、一般人より凄く少ない。やるじゃないか二人とも。

 

しかし耐えると来たか・・

 

魔力とは過剰摂取するとリスクがあるものなのか?

緊急時の回復やピンチの時のドーピング剤として今後使用する事になるかもしれない。

過剰摂取するとどうなるのか知っておきたい。

 

『ちなみに、許容魔力量を超える魔力を生物が摂取するとどうなるのかね?』

 

制限量を超えて飲むと全身に激痛が走ったり、自我を失い暴走したりするのが、バトル漫画やアニメでは定番のテンプレ展開だが、ここは残念女神がいる残念ファンタジー世界である。

絶対普通ではないはずだ。

 

『簡単だ、この世界では物質の結合に魔素が媒介されている。それが阻害され、動脈硬化や血流障害、ホルモンバランス異常、心筋梗塞や肝硬変等臓器の機能不全等を引き起こす。体内に結晶が出来たりもするな。最も顕著な症状は、尿に結晶が混じるようになる。』

 

普通に健康被害を起こすみたい!

何で無駄にリアルなのだ!

 

しかも尿道魔力結石!

なんだそのオッサンみたいな症状は!

 

魔力暴走とか、魔物化するとか、そういうロマンは欠片もなかった!

症状がリアルで嫌だ!

 

でも確かにそれが自然か。

体内を巡る血液には、老廃物や過剰な成分を排出する機能もあるのだからな。

 

『より重症化すると?』

 

どこかにロマン成分はないのかこの世界。

折角魔法のあるファンタジー世界なのに、魔力を多く持ってたら中高年のオッサンみたいになるなんて救われない!

 

『血中魔素濃度が許容を超えると、血栓が出来易くなり脳梗塞等、死亡するリスクが高まるな。』

 

コレステロールか!

聞けば聞くほどメタボリックシンドローム!

 

『最終的には全身の細胞が壊死を始める』

 

何それ恐い!

 

『もしかして、魔力量が多いと早死にするのかね?』

 

魔素が中性脂肪か悪玉コレステロールに思えてきた。

私は木なので血液は無いが、興味が尽きないので確認したい。

 

『妖木は勘違いしている。魔素は別に毒ではない。この世界は魔素を基礎に構成されていると言っただろう。つまり魔素と物質の親和性は高く、安定するようになっている。あくまで過剰摂取が過ぎると身体に異常をきたすと説明した。そして、魔力量の高い者は、魔素に対してより高い親和性を持っているか、単に身体が丈夫かに過ぎない。』

 

おー、今日はクルティナ君が大盤振る舞いだ。

こんなに素直に教えてくれると、何だか怖い。

だが素直に感謝はしておこう。

 

『ありがとうクルティナ君。理解したよ。そしてアレは永久封印決定だ。』

『アレは物質世界でも、魔素世界でも持て余すものだ。』

 

うん、神界でさえもヤバいレアアイテムだという事がよく分かった。

では、別の物にしようか。

 

『済まないシミル君。それはやはり危険な物のようだ。安易に取り扱わない方が良い。死にたくはないだろう?』

「確かにそうだけど・・いや、分かったよ。やめておく。」

『賢明だ。』

 

諦めてくれて良かったよ。

将来有望な人材を廃人にしたくはない。

 

『それよりこっちはどうかね?』

 

私は他に持て余している材料について訊いてみることにした。

リティア君にストックしている私の葉を出して貰う。

 

「それは?」

『私の葉なのだが、薬効成分が異常に高いらしい。ただ、今はこれを擂り潰して水に溶かしただけの飲み薬としか使えていない。君の知識や経験で、より効果を引き出せる手法がないか調べてみるつもりはないかね?』

「やる!やりたい!是非ともやらせて欲しい!」

 

うーわ、凄い食い付き方だ。

やはり薬バカ。

特異な素材を目にすると目が輝くなー。

 

魔法バカを一人知っているが、彼もそうだった。

 

バカに付ける薬はないと言うが、薬バカの場合は薬バカを治す薬を自分で開発出来るのだろうか?

そんなバカな事を考えている内に、シミル君は私の葉を手にとって嬉々として観察していた。

 

宝物を手にした子供のような無邪気さである。

 

『他に私の枝もある。こちらは取扱い注意だ。燃やした煙を吸い込むと麻薬のような催眠、幻覚、快楽効果がある。君は一度それで死にかけてるから、本来は渡すべきではないと思うが・・』


前科があるからなぁ彼は。

 

「大丈夫!あれはお腹空いたから、何だか良く分からないキノコを食べた食あたりなんだよ。僕は実験では失敗しないよ!」

 

それはそれで心配になるな!

 

『何だか良く分からないキノコをよく食べる気になったな!』

「あははは、徹夜が続くと意識が朦朧として、テキトーなものしか食べなくなるんだよ。」

 

研究者にありがちな不健康極まる生活をしていそうだ。

 

『アダンの実をあげるから、これを少量ずつ食べなさい。』

 

ランクシャー産のアダンの実を渡してあげた。

これは一番育ちが良かった実で、一般人が食べるには効果が強過ぎて適さない規格外品だった物だ。

 

薬の知識がある彼なら、用法用量を守って正しく摂取できるだろう。

 

「うおー!何だコレ、こんな立派なアダンの実は初めて見た!早速ロイス溶液に漬け込んで・・」

『君が食べる為に渡したのだ。薬の材料にするんじゃない!』

 

実を渡すと高く掲げ、すぐさま謎の淡い紫色の液体が入った瓶に入れようとしたので制止する。

ロイス溶液と言ったか?気になるな・・。

 

「そんな、勿体ない!」

『先に自分の命と健康を大事にしたまえ!』

 

このイケメンエルフ、普段何を食べているのか心配になってきた。

 

「・・分かったよ。」

『納得までの間が不安だが、まあ良いだろう。くれぐれも身体を大事にしなさい。』

 

研究に夢中になるのは良いが、健康な身体があっての研究だ。

ちゃんと食べて、ちゃんと寝たまえ。

その調子だと過労死して異世界に転生するぞ。

 

仕事に追われて倒れた私の前世を見ているようでモヤモヤする。

自分の身体を犠牲にした彼の生き方には、今の私は共感できない。

私が言えた口ではないのだが、しくじり先生の言うことは聞くべきだ。

 

「でも、こんなヤバいの食ったらガンギマりして、余計に徹夜が続きそうだなぁ、あははは」

 

アダンの実を脱法ドラッグみたいに使うんじゃない。

だが、彼ならアダンの実ではなくても、それに近い物も作れそうだ。

現状薬物中毒になってはいないので、越えてはいけない線は弁えているのだろう。

渡しても問題ないはずだ。多分、きっと・・。

 

『それから私の実もあるが、これは保存が難しいので葉と枝の研究が成功したらにしよう。』

 

実は数が少なくて貴重だから、簡単には渡せない。

 

「それは凄い!シャチョーさんが宝の木に見えてきたよ!」

『その目をやめたまえ。ランクシャーにも同じ目で私を見てくる不届きな守銭奴がいるのだ。』

「あははは、ゴメンゴメン。」

 

ザイン君、君の同類がここにいたよ。

 

『私の実を研究する際は、ランクシャーに来てくれたまえ。ランクシャーには私と同じ木があって、実を付けるのだ。移住にあたっては歓迎するよ。引っ越しを手伝っても良い。トレントならランクシャーの南にあるガンプ大森林にもいるだろうし。』

 

優秀な薬師を勧誘する餌に、私の実を使ってみた。

 

「行くよ!絶対行く!」


よし食い付いた。

薬師を釣るなら私の素材をチラつかせれば一発入れ食いだ。

 

『まずは私の依頼をこなしてからかな。』

  

そして私は幾つかの依頼を彼に伝えた。

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