103.意外過ぎる再会と腐敗した上層部に鉄槌を
アリサ行きつけの酒場にやって来た。
ここは妖精に会える酒場として、1年前からランクシャーでも一番人気の観光名所となっていた。
そして一年後の酒場を見て私は唖然とする。
『うわぁ。』
アリサが入り浸っていた酒場は、現在ライブハウス&バーのように増築改装されて、以前の「THE田舎町の酒場」然としたアンティークな面影など微塵もなかった。
妖精アイドル全面推し。
増築され3階建てとなった建物の外壁には、アリサとリティア君のバカデカいレリーフが立て付けられ、派手な外装で一際目立つ。
なるほど、あのレリーフは石材の削り出し彫刻ではなく、木型にコンクリートを流し込んで作ったのか。ランクシャーらしい彫刻である。
店の前には等身大の彫刻が置かれ、観光客が群がっている。
表にはグッズ販売所があり、様々な関連商品が置かれている。
妖精の刺繍入り手拭いや服、アリサ印の蜂蜜瓶詰め、妖精の手形付きの小物類等、ランクシャーでしか買えないグッズが置いてあり、飛ぶように売れて行く。
熱烈なファンや富裕層にはアリサとリティア君の人形が最も売れるそうだ。
併せてアリサやリティア君がライブしていた時に身に着けている妖精用の服や靴、装飾品も人形と同時に購入されている。
結構高額な買い物となるが、富裕層の娘向けのお土産に人気が高い。
どうやら着せ替え人形的に楽しむようだ。
別の目的で購入する熱烈なファンも多いようだが、その目的は想像したくない。
尚、一般の観光客には割安なアリサとリティア君の手形ペンダントが一番人気商品らしい。
酒場は現在ライブハウスとして運営されており、中に入るには入場チケットを購入する必要があった。
入口には受付とファンクラブ入会所が設置され、日々会員は増えているみたいだ。
それに伴い周囲の店も妖精景気にあやかり、無理矢理妖精絡みの商品を取り扱っている。
妖精の形に焼いた妖精パン
妖精の形に切り抜いた妖精チーズ
妖精の焼き印を押したステーキ
アリサ愛飲蜂蜜入り妖精ジュースなど、何でも妖精だ。
武具屋まで妖精女王リティア様の鞭とかブーツとか仮面なんて売ってる。
いや、それ・・ツッコミたくない。
ライブハウス同様にアリサとリティア君の石像が店の前に並んでいるので、ここら一体の通りは異様な雰囲気となっていた。
どんな秋葉原だ!?
とにかく、ここがランクシャー観光の中心地なのだ。
アリティアファンクラブの会員は、今や三千人に到達。
ちなみに国王は会員番号1234番である。
国王が来訪してからの伸びが著しかったようだ。
会員数の増加と広範囲に渡る会員へのサービスに対応すべく、会報を発行したり、支部を開設し始めたファンクラブ。
そうなると運営資金が必要となり、グッズの売上だけでは足りなくなった。
そこで新聞社のようなメディア活動や芸能プロダクションとしても運営を始めた。
妖精族だけではなく、亜人族のアイドルグループを養成するスクールも開業。
後々誕生する世界に名を轟かせる二大アイドルグループは、ここランクシャー本部と王都支部から産声を上げることとなる。
『おーい、アリサ。いるかー?』
アポイントは無いので、私は建物の外から思念通話でアリサに呼び掛けた。
『うわっ、びっくりした!ちょ、いきなり思念通話飛ばして来ないでよ!アンタ誰よ!』
もう私の声を忘れたようだ。
忘却が早いな!
『私だよ、私』
『アタシそれ知ってるよ、私私詐欺ってヤツね。』
ダメだコイツ。信じられないがマジで私の声を忘れてた。
『もう忘れたのか、シャチョーだよ!』
『は?オジサン?目を覚ましたの?』
名乗ってやっと気付いたようだ。
『ああ、昼前に起きたよ。』
『あそう。』
反 応 薄 っ !
この塩対応、大人気アイドルとしてチヤホヤされて、天狗になってるだろうとは思ってたが、やっぱりか。
『・・スゥ』
『ん?』
息を吸い込んだ?
『・・って、いつまで寝てんのよバカ!オジサン居なくて大変だったんだからね!リティアは居なくなるし、ノアちゃん役に立たないし、クルティナにも相談できないし、アタシ一人で頑張ってたんだから!』
突然の怒り爆発に困惑する。
どうしたのかねアリサ?
『そ、そうかね・・悪かった。』
取り敢えず謝るしかない私。
『・・悪いよ。もう、バカバカバカ・・』
『申し訳なかった。』
そして涙声。
意外過ぎるアリサの反応に私は戸惑いを隠せなかった。
能天気で、楽観的で、快楽主義で、底抜けにポジティブなヤツだから、私が1年居ないくらいは何の痛痒も感じていないだろうと勝手に思っていた。
そうか・・・本当に大変だったのだな。
何だか心が痛い。
何年も一緒に過ごした時間は、伊達では無かったと言うことか。
私と彼女の間にも、ちゃんと絆を生んでいたようだ。
まさかのアリサの情緒不安定。
彼女が泣くとは思わなかった。
本当に悪い事をしたと痛感した。
『スン・・今何処にいるのよ?』
『ライブハウスの前だ。』
さすがに涙ぐんでいるアリサにお茶らけた言葉はかけられず、私は神妙な心持ちで答えた。
『じゃあリティアも、ノアちゃんも一緒なの?』
『ああ、そうだ。』
まさかアリサとの再会が涙の再会になるとは思っていなかった。
どんな顔して会えば良いのかと逡巡したが、そう言えば私には顔が無かったので杞憂だった。
取り敢えず長過ぎた寝坊を誠意を持って謝ろうと心に決める。
『そう・・・。』
アリサの呟きに再会の嬉色が含まれているのを感じた。
アリサにとっては一年振りの全メンバーの集合だ。
突然の音信不通状態という別れで不安だった事だろう。
本当に申し訳ない事をした。
これからまた一緒に・・
『 じ ゃ あ 今 す ぐ 入 っ て 来 て ! 』
『は?』
◆
『みんなー!リティアが帰ってきたよー!』
アリサは散々思念通話を酷使し続けた結果、思念通話のレベルが上がったそうだ。
かなり広範囲に声を届けられるようになっていた。
アリサは会場の外にも聞こえるように、リティア君の帰還を知らせた。
ライブ終わりの特別トークショー的な枠で、アリサとリティア君、そしてその後ろに観客の視線を受けて今にも倒れそうな、青褪めたゼムノア君がステージに立たされていた。
「アンタが居なくてマジ大変だったんだからね。」
「そ、そうなの?」
先程まで単独ライブをしていたようで、観客はまだ会場に残っており、唐突なリティア君の登場サプライズにライブハウスは大いに湧いていた。
「だってファンの人ってアタシのファンだけじゃないの。アンタのファンも多いわけ。」
「は、はぁ・・」
「はぁじゃないのよ、はぁじゃ!ソイツらの相手誰がすると思ってんの!?」
ファンの事をソイツら扱いはやめたまえ。
「わざわざ王都から来てくれたのに、お目当てのアンタが居ないって知った時の絶望した顔でここに来るのよ?アタシにどうしろって言うのよ。」
「ご、ごめんなさいね。」
おお、リティア君が謝った。
凄いぞアリサ、君は女神に謝らせたのだ。
「長いのよ、戻ってくるまでが!」
トークショーというより、アリサの愚痴を聞く会になっていた。
ちなみにアリサは既に飲んでいる。
ステージに置かれたテーブルに、蜂蜜酒のジョッキをドンと打ち据えて絡み酒。
蜂蜜酒片手のトークショーである。自由極まりない。
その後、散々リティア君に説教して気分が晴れたアリサ。
サービスで久し振りに二人で一曲歌うと言い始めた。
「聞いてないですけど!?」
「え?だって今思い付いたもん。」
無茶振り過ぎる。
しかし会場のファンは白熱し、今更取り消しは難しそうだ。
尚、ライブハウスには専属の演奏隊が居て、こんな思い付きでも対応が可能だ。
ちなみに演奏隊全員がファンクラブの初期メンバーなので、アリサの言うことには嬉々として賛同する盲信者達である。
「じゃあ歌います。ラブラブハッピーエンド!」
どこかで聞いた事のあるメロディ。
多分、私の前世の曲をパク・・インスパイアした曲なのだろう。
リティア君は全く練習していないにも関わらず、アリサの歌う様子を見て、即興で歌い上げていた。
地味に凄い。盛大に疑っていたがやっぱり女神だったのだな。
振り付けはアリサの鏡写しで完全コピーをしていた。
地味に凄い。神業の無駄遣いだが、流石は女神だ。
シンメトリーなダンスと定番の飛行ショーが再開され、観客を大いに熱狂させた。
あ、柱にぶつかって落ちた。
さすが残念女神だ!
「ひ~ん、なんでー?」
建物はアシンメトリーだからね。
アリサの方には柱がなくてもリティア君の方にはある。
全く同じ軌道で飛ぶからそんな事になるのだ。
目を回しながら、鼻血流しながらフラフラステージに戻って行った。
さすが残念女神だ!!
◆
「ともあれリティアお疲れ!助かったよ。」
アリサは意外にも、本当に意外にも、あまり変わっていなかった。
「これでやっとファンも満足してくれるよね。」
毎日をアイドルの仕事に忙殺されて、怠惰になる暇がなかったのが功を奏したようだ。
あの筋金入りお調子者兼ニートの天才と、まともな状態で再会できるとは思っていなかった。
てっきり贅沢三昧のおデブ蜂蜜漬け妖精となっていると予想していたのだが、良い意味で不安を裏切ってくれた。
『ところでアリサ、これからについてなのだが。』
私は今後の予定についてアリサに説明した。
その結果、アリサは私について来る事を決める。
可愛いところもあるではないか。
◆
現在私はアイン子爵の領主邸へ向かっている。
実はこの後旅に出るのだが、その間アリサを少しの間借りたいのだ。
アリサは既にランクシャー領の看板娘。
立場的には私と同じで、国王のお墨付きの流浪の民、且つエレングレイド王国の賓客扱い。
なので、いつ何処に行っても文句は言われないし、文句を言ってもいけないのだが、やはりここまで関わってしまったら、断りは入れておかないと礼を失する。
尚、アリサを連れて行く旅の行き先は、リインシス=ヨルメノー伯爵領。
私はまずは王女誘拐事件を解決させることを優先とした。
目覚めてから、目覚めの悪い話を聞いて、どうにもモヤモヤするのだ。
別に私に責任がある訳ではない。
落ち度がある訳でもない。
単に事件の全容を知っているだけだ。
解決する為の力も、情報も、時間も、資金もあるのにスルーし続けるのが嫌なだけ。
知らない振りが出来ないだけ。
とにかく落ち着かない。
ならばサクッと王女を救出し、サクッと返還し、ササッと戻って来れば良い。
後顧の憂いを断って、元通りのんびりスローライフを楽しみたい。
だからそう決意した。
で、
その為に、飛行が出来て機動力が高い妖精族を連れて行きたいのだ。
そしてリティア君だけでは不安だし、人手不足なのでアリサの助勢を得たい。
その断りを入れに、領主邸に向かっていた。
◆
『では済まないがアリサを連れていくよ。』
「了解した。街にはしばらく不在にする事を通知しておこう。」
アイン子爵は淡々と私達の出張申請を受諾した。
私達の自由な行動を阻害してはならないと国王命令が下っている手前、断ることは出来ないのだから仕方ない。
アイン子爵は私が目覚め、リティア君も戻ってきた事を喜んでいたが、束の間にアリサを連れて旅立つ事になった為、残念そうにはしていた。
上げたテンションを即落とすような事となり申し訳ない。
ま、すぐに戻るから、そう落胆しないでくれたまえ。
『ところでザイン君は?』
アイン子爵の弟で、悪巧みが得意な元山賊のエセ神父の姿が見えない。
ザイン君はアリサの所属するアリティアプロダクションの社長なので、彼にも同席をお願いしたのだが。
「っ!・・・アイツは、死にましたよ。」
はぁ・・口は無いが心の中で溜息が出た。
尚、ザイン君が存命なのは知っている。言葉のあやだ。
何せ昼間のライブの監督もしていたのだからね。
今はアイン子爵の邸宅に戻っている事を私は知っている。
アイン子爵が言いたいのは、以前のザイン君とは別人になってしまったと言う意味だろう。
『上の部屋かな?』
「ええ、会いますか?」
『アリサは一応彼の事務所所属だから、黙って連れて行くと困るだろう。断りは入れておくよ。』
「・・分かりました。」
アイン子爵は苦虫噛み潰した様な複雑な表情で私達を見送る。
私は領主邸の一階応接室から出て、二階にあるザイン君の私室兼事務所へ向かった。
『ザイン君、私だ。入るよ?』
「ああん?今取り込み中だ。誰だか知らないが、外で待ってろ。」
うわ、横柄・・。
私には魔力感知と視界補正の能力で壁越しだろうと中の様子は丸見えだ。
するとザイン君の姿が目に入る。
うわぁ、デブってる。
偉そうに椅子に腰掛け、ふてぶてしく書類を眺めてはサインをしていた。
見るからにテンプレ小悪党!
物語序盤で主人公に懲らしめられる典型的悪役モブではないか。
中の会話を聞いてみると、
「俺の言う通りやれば儲かるんだよ。お前らは余計なこと考えなくて良いの。言われたことも出来ねーのかよ、使えねーな。」
あーあー、増長してるなー。
傲慢な物言いで部下を押さえ付けて悦に入っていた。
確かに君は商売の頭はキレるし、組織の運営も上手いが、それが部下の人格や能力を否定して良い理由にはならない。
「だからそう言ってんだろ!言われた通りやってろウスノロが!あ、明日までにな。」
「そんな!」
うーん、パワハラー
「ミュゼちゃん、今日もいいケツしてんなー」
「きゃぁっ」
うーん、セクハラー
「くぅ、昼間っから飲む酒はうめぇな。おう、お前も飲めよ。」
「いえ、私は・・」
「何だとコラァ?俺の酒が飲めねぇのか!」
うーん、アルハラー
ハラスメントのオンパレード!
駄目だこれ、はいギルティ!
『ザイン君、君はやり過ぎた。』
「あ?」
更正決定!
天 罰 覿 面 !




