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私、木になります。~精根尽き果てた社長が、転生先に樹木化を希望~  作者: 湯
第四章 私、妖風盆栽になります。
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102.好景気!妖精バブルのランクシャー

『取り敢えずリティア君とゼムノア君は分かった。アリサはどうしてるのかね?』

「アリサなら、今は単独ライブ中です。」

 

『は?ライブ?』

 

久し振りに聞いた単語だ。

 

「はい、王都で名が売れて、今では王国内トップアイドルとして活動しております。ランクシャー領に戻ってからも王国中からファンが殺到し、ランクシャーの町は現在観光都市として空前の好景気です。」

 

何て事だ。

あの娘、絶対調子に乗ってるに違いない。

会うのが嫌になってきた。

 

「尚、シャチョー様の本体は、夜間の肝試し会場として人気を博しております。」

『私の本体!』

 

不気味さを逆手にとって売り物にするとは・・。

こういうのはザイン君の思い付きだな。

 

「突然沈黙したシャチョー様を心配して、国王が来訪した事もありました。」

『それは悪いことをしたな。』

 

私は寝てただろうに。

 

「いえ、気にする必要はありません。お休みになっている旨を伝えたところ、残りの滞在時間は、毎晩変装してアリサと酒を飲んでいましたよ。」

『あの遊び人国王!』

 

妖精に会いに来たかっただけではないか。

 

「他にも細かな出来事はありましたが、概ね問題はありません。」

『ありがとうリティア君。』

 

リティア君の些事はたまに大事な時があるから、その報告に全面的には信用はできないけど、取り敢えずは有り難く受け取っておく。

あとは自分で調べるとするか。

 

あ、そうだ、

 

『クルティナ君は?』

 

神託通話を繋いでみた。

 

『チィ、目覚めたか妖木。』

『君も相変わらずだなぁ。』

 

舌打ちから始まる挨拶とは新鮮だ。

 

『貴様が寝ている間だけ、リティア様が戻っていらして幸福の極みだったのに・・そのまま永遠に寝ておけば良かったのだ。』

 

それでは死んでいると同義ではないか。

 

『いや、いっそ清々しい悪態だね。ところで涙はまだ出ないかね?』

『い゛っ、貴様まだ覚えていたのか!?』

 

君もなー

 

『私にとっては昨日の事なのだが。』

 

まだ、と言われても、時間の感覚がないのだよ。

 

あの時、クルティナ君がドン引きで退散する様はなかなかに壮観だった。

お涙頂戴(物理)は、対クルティナ君への切り札なのだ。

 

『とにかく、これからはリティア様を頼んだぞ妖木。貴様が寝ていると、その、リティア様の調子が悪いのだ・・。』

 

あら、クルティナ君がしおらしいではないか。

 

『ん?そうか、では任された。君から頼られるとは私も出世したものだな。』

『か、勘違いするな!利用しているだけだ!』

 

『はいはい、ツンデレツンデレ。』

『おのれ妖木、貴様・・!』

 

はい、通信カット。

 

「あ、相変わらずクルティナになんて事を・・。」

『心配要らない。いつもの掛け合いだよゼムノア君。』

 

さて、アリサ以外のメンバーが揃ったな。

私以外のメンバーにとっては約一年ぶりの結成か。

 

リティア、クルティナ、ゼムノア。

この三人は神格存在なので、時間の感覚が大幅にズレている。

 

不老不死の神格存在にとって時間という要素は、様々に移ろう世界の変遷を見せてくれる単なるエンターテイメントの一つに過ぎないだろう。

時間が無くても、単に面白くないだけで活動は出来るのだから。

良く考えるととんでもない存在である。

私の時間感覚もズレているが、私には一応寿命があるだけマシだ。

 

そもそも、何で彼女達は私なんかと一緒にいるのか?

 

根本的な疑問なのだが、理由を教えてくれないし、理由に見当がつかないので放置しているが、以前のゼムノア君の忠告を受けてそろそろ気になってきた。

「答えない」のではなく、「答えられない」のであれば、後ろめたい事でも裏にある可能性も否定できない。

いつかどうにか探ってみるとしよう。

 

 

さて、

つまり一年という期間は、この三人には大した年月には感じていない事だろう。

 

アリサの時間感覚は私に近いかもしれない。

妖精族の寿命は彼女曰く350歳くらいとはいつか聞いたが、アリサは既に100年以上生きているので、あと200年くらいが寿命なのかな?

でもアイツは長生きしそうだなぁ。

ストレス無さそうだし・・。

 

そんな話はどうでも良い。

 

問題は亜人族だ。

彼等の生涯は短い。

 

ランクシャーの町人と話していても、最高齢は80歳前後だった。

 

果たして一年という年月を経て、どう変わったのか確認に行くとしようか。

ついでにアリサの様子も見ておこう。

 

嫌な予感しかしないので、見たくない気持ちもあるのだが・・。

 

 

 

 

「おー、リティアちゃん!久し振りだな。里帰りは終わったのかい?」

「え?もしかして妖精女王リティア様?」

「うおおお!やったぞ、遂にリティア様の帰還だ!」

「おい、リティア様は不在なんじゃなかったのか?」

「帰ってきたんだよ!俺達すげぇラッキーだ!」

「あれが妖精女王リティア様か!不在って聞いてたのに何と言う幸運!わざわざランクシャーまで来た甲斐があったぞ!」

「すげぇ、とんでもない美形だな。女神様みたいだ。」


街を行けばこの反応である。

リティア君の人気に衰えはないようだ。


どうやら不在の理由を里帰りにしていた様子。

ある意味的を得ている理由だが、神界に帰っていたとは誰も思わないだろう。

 

褒められて悪い気はしないリティア君は、町の通りを低空飛行しながら、得意気な顔で私をぶら提げていた。

 

ゼムノア君は背中を丸めてコソコソと、壁沿いを付かず離れずの距離を保ち付いて来ている。

自宅警備員を一年続けたヒキコモリが、日の光の下に出ると眩しいらしく、フードを深く被って外套で姿を覆っていた。

うん、怪しい事この上ないな。

 

そんなんだから魔王(笑)って言われるのだ。

美人さんなんだから、堂々としていれば様になるのに勿体ない。

 

ちなみに私は少し幹が太くなり、根も張ったので、鉢を替えた。

出掛ける前に植え替えをしたのだ。

 

鉢はリティア君に出して貰ったスタイリッシュな陶器である。

妖風盆栽姿も板についてきたな。

 

「アリサを知りませんか?」


魔力感知で居場所は判っているが、知らない体で町の人に尋ねた。

一般人を装いつつ、情報収集だ。


すると酒場にいるとの回答。

コイツも定位置だな!


と呆れたら、酒場がライブハウスに改装されており、そこで毎日のようにライブをして、酒場を拠点に地道にアイドル活動を続けているようだ。

リティア君がいない間も頑張っていたのだな。


どうやら今はライブ中なので、押し掛けると邪魔になりそうだ。

その為別の用事を済ませておく。


『リティア君、私の本体の所に行ってくれないか。』

「かしこまりました。」


久し振りに本体を確認しておこう。



『って、何じゃこりゃぁぁ!?』


私の本体の周囲に人集りが出来たいた。


近寄れないように柵が設けられ、警備員2人が油断なく目を光らせている。

そして柵の周辺には跪いてブツブツと祈りを捧げる人の海。

怖い怖い!


何だか順路みたいになっており、教会から通路が伸びていた。

私の隣に植えられているアダンの木も、国内初の栽培成功例として紹介されており、他にもガンプ大森林でしか見られないような、珍しい植物も展示されている。

植物博物館!?


順路の終点には売店があり、私の枯れ葉を使った「御神木茶」が売られ、求める人の列が出来ていた。


どうやら枯れ葉でも疲労回復や二日酔い予防等に効果があり、食欲不振、口内炎、皮膚疾患、便秘、胃痛等の改善が期待できるらしい。

特定保険用食品!?

 

「王妃様の身体を癒した御神木様の葉エキス、5%から25%まで数量限定販売中、詳しくは教会まで」とか書いてある。

 

5%で金貨2枚、10%は金貨5枚、25%だと金貨10枚

ぼったくりだ。

これら全部、ザイン君の仕業だろうな。

 

高いが、確かな効果がある為、求める人は後を絶たない。

噂を聞いた病人や怪我人やその遣いの人が購入に訪れているようだ。


一応薬師のスキル持ちが常駐し、事情や症状を確認して、私の葉とアダンの実を組合せて処方している。

金さえ積めば誰でも買える訳ではなく、本当に困っている人だけに限定的に販売しているようだ。

 

だが、金さえ積めば買える裏ルートもあるのがザイン君らしい策略だ。

教会の裏手には、貴族の高級車っぽい牛馬車が停まっていた。

 

一応私との約束で、1日に採取する葉の量は守られているようで、ハゲ散らかしていないことを確認出来て良かった。

                                                                                                                                                              

一年が経過したので、スキルポイントが3入っている。

転身スキルが使えるようになったので、本体に戻る事も出来るのだが、こんな人が多い状況の中戻るのは嫌だ。

戻るなら人がいない時間帯にしたい。


目立たないように隠れながら教会を離れた。

  



『・・・それにしても、まあ色々考えるな。』

 

商魂逞しい。

 

バイルランド軍を追い返した最新式城壁見学ツアー

一人では無理でも三人なら!集団魔法講習

ランクシャー名物 妖精人形焼き

お土産に最適 アリティアフィギュア

ランクシャー一周運河クルージング

御神木教ミサ体験会(ふわふわパン無料配布有)

 

街を上げての観光地化に取り組んでいた。

 

                                                                            

ふむ、ランクシャー道路公団作業員募集説明会か。


そうだ、ランクシャー道路公団の為に吸収灰のストックを作っておかないといけないな。


一応セメントの製造法は教えているのだが、原料である石灰石や石膏が採掘できる場所が遠いので、原料は購入に頼っている。

いずれ鉱山を購入し自社採掘、自社製造が出来るようになれば、私の手を離れる事だろう。



それにしても、宿屋が足りてないな。

押し寄せる観光客に対して、受け入れられる宿の部屋数が足りていない。


こうなる事は予想できたので、アイン子爵はランクシャーに戻って直ぐに大型宿泊施設を建築したようで、私がいた頃には無かった大きな宿屋が出来ていたが、それでも溢れた観光客は、街の外れで野営を余儀なくされていた。


その為、町のアチコチで宿泊施設の建築ラッシュが始まっていた。

それに貢献しているのが、剛力スキル持ち。

資材運搬や木材切り出し等、重機並みのパワフルさでガンガン現場を回していた。



人が増えると、その分必要となる食料も増える。


隣のリバーエイカー領から引っ切り無しに牛馬車がやって来ては、食料品を降ろして行く。

町の入口には、物流拠点施設まで出来ていた。


物流を支えているのが俊足スキル持ち。

身体強化スキルから派生してスピード特化した精鋭達が、縦横無尽に荷物を背負って街を走り回る。

異世界版佐◯急便の誕生である。

 

尚、リバーエイカー領からの輸入品の多くは、王都への道中にアイン領主を襲撃しようとした商人三人組からの定期便らしい。

どうやらキチンと孤児院に注文の品を届けてくれた模様で、その際にランクシャーの様子を見て、商機を感じたのだろう。

今やウハウハ笑いが止まらないのではないか?

 

 

そして廃棄物や排泄物も増えるのが、一番の問題なのだが、そこは何とかオーバーフローさせずに処理できているようだ。


どうも「ランクシャーは臭くない!臭くないぞ!」と好評らしい。

私は嗅覚がないので、気にしたことが無かったが、どうやら亜人族の町はどこも臭いらしい。

 

私がいた頃に上下水道整備を提案し、地下配管を敷設して回ったのが機能しているようだ。

 

道路公団の為に吸収灰を大量に作る際に、ついでにやった工事だ。

私は眠る必要が殆ど無いので、道路整備と同じ要領で、夜間に突貫工事をしたな。

 

あの頃は良く働いたよ。

働きたくなくて木に転生したのに、前世より働いてないか?と疑問を抱き始めたのもあの頃だった。


城壁末端に建築した刑務所横に、廃棄物の焼却炉や汚泥処理場も作ったので、そこで何とか処理できているようだ。

しかし想定を上回る処理量が流入してくるのも時間の問題。

増設をしないといけないだろう。


ちなみに処理設備の作業者は服役中の罪人と引き取り手のいないバイルランド軍の捕虜なのだが、罪人が足りず罪人募集中とまでなっている。

何だそれ・・。


罪人とは言え、ここが決壊すると町が機能しなくなるので、アイン子爵は罪人も貴重な労働者とみなし、彼等にも給料を支給している。

もう殆ど公務員扱いである。


好景気でお金はどんどん入ってくるので、ボーナスまで支給して働かせており、罪人達は毎晩酒盛り出来るほど生活は豊かだ。

お陰で出所後もそのまま職員として居着いてくれる者も少なくない。


処理場の責任者は元罪人で、今では頼れる設備管理主任だ。

工場長なんて元バイルランド軍の捕虜らしい。

人手不足も極まってるな。


主な仕事は焼却場の廃棄物の炉内投入と、獣油による燃焼管理、灰の掻き出し、設備補修等。

汚泥処理場では曝気槽への空気送り、沈殿槽の運用管理、汚泥の掻き出し、脱水乾燥作業等だ。

大変な肉体労働だが、亜人族の体力なら別に過酷って訳でもないようだ。


実はこの世界にはまだ知られていない処理技術なので、ここでの経験や知識を他領に持ち込めば、相応の地位を得られるのだが、まだ領外に情報は漏れてはいない。


いずれは排ガス処理や排熱回収設備等も導入したいが、この世界の技術水準では、まだそこまでは手が回らない。

熱交換器があれば、排熱で温浴施設が作れるのだがな。



とにかく町全体がフル稼働。

活気に溢れ、町はどんどん大きくなっていた。

もう貧乏領地とは言えないだろう。


これが1日情報収集した結果だ。


さて、そろそろアリサを見に行くか。


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