表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/136

10.ある日森の中、蜂にシバかれてる妖精に出会った

不穏な来訪者現る!

 

ここに来て、やっとまともな新キャラ登場です。

「誰か助けてーー!」

 

高速で飛来した未確認飛行生物。

それは言葉を喋り、高い魔力を保有し、羽根を有し、人間に様な姿をした小さな生命体。

 

見るからに、妖精だった。

 

 

実に感慨深い。

植物が自在に動け、魔法という奇怪な能力が常識のように発現し、アブラムシが巨大化する世界である。

 

妖精の一匹や二匹、居てもおかしくはないと思っていたが、本当に居た。

 

 

しかも、残念な事に、スズメバチを一回り大きくしたような、巨大な蜂の大群を引き連れて、追いかけ回されていたのだ。

 

うわぁ・・。

 

 

「何だあれは・・」

 

私は素直な感想を呟いていた。

 

「!? そこ、誰かいるの!?」

 

ん?私の心の声を感知した?

 

いや、それよりも私が、あの妖精の声を聴けているのが不思議だ。

私には聴覚が無いのだから。

 

しかし聞こえているのは都合が良いので、その原理の追求は置いておこう。

会話が出来るのであれば久し振りのコミュニケーションだ。

緊張するなぁ。

 

「私の声が聞こえるのかね?」

「やっぱり!ねぇ、誰だか知らないけど助けて!アイツらしつこいのよ!」

 

どうやら本当に聞こえる様だ。

 

「おお、他者との会話なんて久し振りだ。感慨深い。」

「呑気に感慨に浸ってないで助けてってば!」

 

それもそうか。

 

そして、私の声の発信源を察したのか、私の幹の後ろに姿を隠してしまった。

 

妖精と会話するだけでも稀有な体験をしているのに、妖精を蜂から守るという、更にレア度の高い経験をする事になった。

 

そもそも何故この娘は、蜂に襲われているのだ?

妖精と蜂は仲が悪いのだろうか?

同じ森の住人同士、友好関係を築いていそうなものだが・・。

 

  

「ふむ、何をどうすれば良いのかね?」

 

私は前世のお人好し気質が、樹木になっても抜け切れていないらしい。

彼女に手を貸そうと応えていた。

 

「あの追いかけて来る蜂をぶっ殺して!」

 

言葉遣いが荒っぽいな。

 

「私は荒事は好まないのだが・・。」

「御礼はするから早く!お願い!アタシ、もう魔法が撃てないのよ!」

 

それは大変だな。

妖精も蜂に刺されたら痛いのであろうか?

判らないが、必死の訴えを無下に一蹴するのは気が引けた。

 

蜂は私の周りを取り囲み、警戒しながら耳障りな羽音を強く放っていた。

 

「ひっ!」

 

怯えて私の幹にしがみつく妖精。

その手足は恐怖に震えていた。

 

私はこの100匹を超える、大きな鉢の大群を、どうやって撃退すれば良いか考えた。

 

 

「分かった。任せなさい。」

 

作戦が纏まった。

次の瞬間、蜂が一斉に全方位から襲い掛かって来た。

 

「ギャー来たぁー!」

 

騒がしいなこの娘・・。

 

「魔法障壁Lv4展開。」

 

常時展開しているLv1をキャンセルして、Lv4を発動した。

蜂程度の攻撃では、Lv5は不要と判断し、Lv4で周囲を覆った。

 

すると、蜂は魔法障壁にビシビシと激突し、それ以上の侵攻が出来なくなっていた。

よし、これで安全である。

 

「お?お?おおーー!すごい!スゴーイ!」

 

蜂が見えない壁に阻まれ、近付けない様子を見て、妖精の娘は拍手喝采。

最初は破られないのか、おっかなビックリだったが、安全だと確信してからは、蜂に対してありったけの挑発と野次を飛ばしていた。

態度がコロコロ変わる忙しい娘だ。

確か前世の会社の従業員に、こんな娘がいたな。

 

そんな感想を抱きながら、続いて私は光魔法を準備する。

 

「光魔法Lv6、発動!」

 

広範囲に電撃を飛ばす魔法である。

蜂相手には、明らかにオーバーキルだが、広範囲を隈なく攻撃出来る魔法は、今のところこれしかなかった。

 

バァーン!

 

雷撃が弾ける音が森に木霊した。

 

「『ライオネルト』!?嘘ォ!?」

 

妖精は私の魔法に驚いている様子だった。

ん~、これ、スキルポイント6で手に入る魔法ですよ?

 

私を中心に全方位に放射状に放出された電撃は、行く手を阻む魔法障壁に、無駄な突進を続ける蜂達を丸ごと飲み込んで、その熱量で焼き焦がした。

 

「アババババババ!」

 

ついでに妖精も焼き焦がした・・。

 

 

 

 

「悪かった。」

 

私は平身低頭、謝罪していた。

 

「あqwせdrftgyふじこlp;@:!!!」

 

何を言っているのか判らないが、怒っているのはよく理解できた。

あと、「ふじこ」だけ聞こえた。

 

 

とにかく、頭に血が上っている今は何を伝えても無駄だろう。

こういう感情的な子は、根が素直だ。

落ち着いた頃合いで話せば、分かってくれるだろう。

 

私は凄まじい勢いで罵声を浴びせて来る妖精を、静かな心持ちで完全に無視して昼寝に入った。

 

起きた頃に、冷静に戻っていれば、もう一度謝ろう。

起きた時に、まだこの娘が居たらの話だが・・。

 

 

 

 

「ねぇ、ちょっと!ねぇ、無視しないでよー!」

「・・ん?おお、済まない、眠っていた。」

 

昼寝から目が覚めたら、妖精が半泣きで私を起こそうとしていた。

まだ居たんだ・・。

 

「はぁ!?何なのアンタ、怒り狂ってるアタシの前で、よく寝に入れるわね!」

 

今度は怒り始めた。

泣いたり怒ったり、元気がいいなぁ。

 

「怒り狂っていたと自覚があるのだね?」

「当然でしょ!」

 

うむ、頭が冷えたようだ。

怒り狂ってる人に、「怒ってる」と指摘しても、「怒ってない!」と怒り始めるのが人間だ。

怒ってない人は、怒ってた事を、ちゃんと認められるものだ。

 

つまり、今は感情の昂りを抑えられている状態だ。

怒ってないなら、今こそ謝ろう。

 

「申し訳なかった、君を守るのを忘れていた。」

「そうよ!危うく死ぬところだったじゃない!」

 

危うく初めて出会った私以外の知的生命体を、初見で殺すところだった。

「妖精殺し」なんて呼ばれたら、大層縁起が悪い。

全方位に電撃を飛ばしたが、彼女がいる方位に飛ばさないイメージを加えるべきだったのだ。

 

 

「久しく他者と会話すらしていなかったのだ。自分の事しか考えていなかった。本当に申し訳ない。」

 

これまで自分以外を守る必要性が無かったからな。

他者を気遣うという意識が、スッポリ抜けていた。

 

「まぁ何とか生き残れたから良かったけど。アタシもアンタの魔力吸って回復したから、ま、オアイコね。」

 

ん?吸った?

 

「は?どういう事だね?」

 

どうやって魔力を吸ったのだ?

 

「死にかけたから~、アンタに噛り付いて~、魔力吸った♡」

 

いや、そんな三段論法聞きたくない。

 

「・・・確かに、魔力が減っている。」

 

ステータスを確認すると、確かに魔力が大幅に減っていた。

 

吸 血 コ ウ モ リ か コ イ ツ は !?

 

 

私は早速「吸収Lv3」を発動させて補充する。

魔力の枯渇は、命の危機に直結すると、身をもって知っているからね。

 

尚、枝葉からも吸えるLv5にしなかったのは、妖精が私の枝に居座っているからだ。

Lv5にすると、彼女の魔力も強制徴収となる。

 

妖精の干物は見たくない。

 

 

「それより助けてくれてアリガト・・。結果は酷い目にあったけど、アンタが居なかったら死んでたわ。」

 

うむ、ちゃんとお礼も言えるのだな。良い子じゃないか。

ただ、照れ隠しに私の葉を蹴るのはやめてくれ。

 

「いや、どういたしまして。何とか撃退出来て良かったよ。ところで、何であんな事になっていたのだね?」

 

蜂の大群に追いかけられるとは。

ハチの巣駆除でもやったのか?

 

「え?蜂蜜食べようと思って。」

 

自 業 自 得 だ っ た 。

 

 

「・・キミは仲間から無鉄砲とか、愛すべきバカとか、そんな風に呼ばれていないか?」

「あ、よく言われるー。ウケるー!」

 

ギャルか、アホの子なんだろう。

 

「でもでも、おじさんスゴイじゃない!」

「おじさん・・まぁいいか。何がだね?」

 

この馴れ馴れしさも、ギャルっぽい。

 

「蜂に放ったアレ、超上級光魔法の『ライオネルト』でしょ?アタシ、初めて見たんですけど!スゴイんですけどー!」

 

彼女は興奮気味にバンバン私の幹を叩く。

 

「あの魔法は『ライオネルト』と呼ぶのかね?済まないが、ずっとここに居るもので、私は世間常識の見識が無いのだ。」

 

Lv6で超上級なのか。

え?そうなるとLv7ってどうなるのだ?

非常級?

Lv6でも、どうやらかなり習得している者は少ないようだ。

これは高レベルの魔法は、あまり人に見せない方が良いかもしれないな。

私の常識は、世の非常識かもしれない。

 

「あ、木だもんね。」

「まぁね。」

 

遠慮のない明け透けな感想だ。

 

「それよりも、キミは私の”声”をよく聞く事ができるな?」

「ふふ~ん、思念通話スキル持ってるからね!」

 

思念通話か。たしかスキルツリーにあったな。

独りぼっちだったので、不要と思い、全く取得する気にならなかったスキルだ。

 

「なるほど、それがあれば意思疎通が出来るのか。私も取っておこう。」

 

私は早速スキルポインでお買い物した。

こうした知的生命体が他にもいるのであれば、会話する機会はこれからもありそうだ。

 

これで残るポイントは5。

少なくなってきたので、非常時に備えて、あとは温存しておこう。

 

 

「へ?スキルよ?そんな簡単に取れる訳ないじゃない?」

「ん?スキルの取得が難しいって事はないのではないか?」

 

寝てたら貯まるポイントを、ポチッと振り当てれば手に入る、お手軽ショッピングというのが私の認識だ。

前世のネットショッピングと変わらない感覚である。

 

「え?」

「え?」

 

ん~、またマズいことを口走った気がする。

 

「取ったの?」

「・・取ったが?」

「え?」

 

信じてないな。

 

「んん~?」

 

何だこの違和感と認識の違いは?

もしかしてスキルとは、一般的には取得が難しいのか?

それとも、この娘が特別おバカなだけで、この娘に限って取得が難しいのか?

 

・・・口調や会話の内容から、後者も有り得るな・・。

 

 

「・・・じゃぁさ、今から思念通話切るから、その後で使ってみて。いや、使えるもんなら使ってみなさいよ!」

「何でキレ気味口調に切り替えたのだね?」

「いいから!」

 

彼女に促され、試しに思念通話を発動してみる事にした。

まだLv1なので、使いものになるか判らないが・・

 

 

思念通話Lv1・・発動。

 

「えっと、聞こえるかね?」

 

「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」

 

驚愕の様子だが、ノイズが酷くて凄い濁声に聞こえる。

 

「うわ、結構ノイズが酷いな。」

 

Lv1だからこんなものか。

やはり聞き取りにくい。

砂嵐の中で喋っているようだ。

彼女くらい明瞭な通信状態にするには、Lv4~5にしないといけないだろう。

 

「何で!?何でそんな簡単に使えるの!?」

 

あ、彼女の方から思念通話を再開した。

うん、聞き易い。快適通信だ。

 

「と訊かれても・・。」

「最初から使えたんじゃないの!?詐欺だわ!」

 

初対面の人に失礼な娘だ。

 

「私にとっては、これが普通なのだがな。」

「信じらんない・・・。」

 

彼女は言葉を失っていた。

そしてブツブツと小声で何か呟いていた。

 

 

これはまた、やらかしてしまったか?

 

どうやら私は、ちょっと非常識な存在のようだ。

確かに植物のクセに、意外と動けたり、魔法を使ったり、思考している事自体も変だ。

 

・・いや、木である私が喋っている事に関しては、この娘は違和感を抱いていない様子。

と言う事は、言葉を話す木は、他にもいるのか?なんと非常識な世界だ。

 

うわ~、こうなると何が良くて、何が地雷なのか、全く基準が判らない。

厄介な話だ。

 

 

・・・これは本格的に、この世界に関して確認しておく必要があるだろう。

これからの事を考えれば、また彼女の様な迷子がこの森にやって来ないとも限らない。

その時の為にも、常識を身に付けておかねば。

 

幸いにして、私は今、情報源を確保している。

 

初めて出会った、コミュニケーションが可能な貴重な知的生命体である。

今後も出会えるかは分からない。

この世界には、どれほどの知的生命体がいるのかさえ知らないからだ。

 

この機会を逃してはいけない。

是非とも、彼女にご教授を賜るべきだろう。

 

 

私は改めて彼女に向き合った。

妖精にこの世界に関して、話を聞いてみることにしました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ