10.ある日森の中、蜂にシバかれてる妖精に出会った
不穏な来訪者現る!
ここに来て、やっとまともな新キャラ登場です。
「誰か助けてーー!」
高速で飛来した未確認飛行生物。
それは言葉を喋り、高い魔力を保有し、羽根を有し、人間に様な姿をした小さな生命体。
見るからに、妖精だった。
実に感慨深い。
植物が自在に動け、魔法という奇怪な能力が常識のように発現し、アブラムシが巨大化する世界である。
妖精の一匹や二匹、居てもおかしくはないと思っていたが、本当に居た。
しかも、残念な事に、スズメバチを一回り大きくしたような、巨大な蜂の大群を引き連れて、追いかけ回されていたのだ。
うわぁ・・。
「何だあれは・・」
私は素直な感想を呟いていた。
「!? そこ、誰かいるの!?」
ん?私の心の声を感知した?
いや、それよりも私が、あの妖精の声を聴けているのが不思議だ。
私には聴覚が無いのだから。
しかし聞こえているのは都合が良いので、その原理の追求は置いておこう。
会話が出来るのであれば久し振りのコミュニケーションだ。
緊張するなぁ。
「私の声が聞こえるのかね?」
「やっぱり!ねぇ、誰だか知らないけど助けて!アイツらしつこいのよ!」
どうやら本当に聞こえる様だ。
「おお、他者との会話なんて久し振りだ。感慨深い。」
「呑気に感慨に浸ってないで助けてってば!」
それもそうか。
そして、私の声の発信源を察したのか、私の幹の後ろに姿を隠してしまった。
妖精と会話するだけでも稀有な体験をしているのに、妖精を蜂から守るという、更にレア度の高い経験をする事になった。
そもそも何故この娘は、蜂に襲われているのだ?
妖精と蜂は仲が悪いのだろうか?
同じ森の住人同士、友好関係を築いていそうなものだが・・。
「ふむ、何をどうすれば良いのかね?」
私は前世のお人好し気質が、樹木になっても抜け切れていないらしい。
彼女に手を貸そうと応えていた。
「あの追いかけて来る蜂をぶっ殺して!」
言葉遣いが荒っぽいな。
「私は荒事は好まないのだが・・。」
「御礼はするから早く!お願い!アタシ、もう魔法が撃てないのよ!」
それは大変だな。
妖精も蜂に刺されたら痛いのであろうか?
判らないが、必死の訴えを無下に一蹴するのは気が引けた。
蜂は私の周りを取り囲み、警戒しながら耳障りな羽音を強く放っていた。
「ひっ!」
怯えて私の幹にしがみつく妖精。
その手足は恐怖に震えていた。
私はこの100匹を超える、大きな鉢の大群を、どうやって撃退すれば良いか考えた。
「分かった。任せなさい。」
作戦が纏まった。
次の瞬間、蜂が一斉に全方位から襲い掛かって来た。
「ギャー来たぁー!」
騒がしいなこの娘・・。
「魔法障壁Lv4展開。」
常時展開しているLv1をキャンセルして、Lv4を発動した。
蜂程度の攻撃では、Lv5は不要と判断し、Lv4で周囲を覆った。
すると、蜂は魔法障壁にビシビシと激突し、それ以上の侵攻が出来なくなっていた。
よし、これで安全である。
「お?お?おおーー!すごい!スゴーイ!」
蜂が見えない壁に阻まれ、近付けない様子を見て、妖精の娘は拍手喝采。
最初は破られないのか、おっかなビックリだったが、安全だと確信してからは、蜂に対してありったけの挑発と野次を飛ばしていた。
態度がコロコロ変わる忙しい娘だ。
確か前世の会社の従業員に、こんな娘がいたな。
そんな感想を抱きながら、続いて私は光魔法を準備する。
「光魔法Lv6、発動!」
広範囲に電撃を飛ばす魔法である。
蜂相手には、明らかにオーバーキルだが、広範囲を隈なく攻撃出来る魔法は、今のところこれしかなかった。
バァーン!
雷撃が弾ける音が森に木霊した。
「『ライオネルト』!?嘘ォ!?」
妖精は私の魔法に驚いている様子だった。
ん~、これ、スキルポイント6で手に入る魔法ですよ?
私を中心に全方位に放射状に放出された電撃は、行く手を阻む魔法障壁に、無駄な突進を続ける蜂達を丸ごと飲み込んで、その熱量で焼き焦がした。
「アババババババ!」
ついでに妖精も焼き焦がした・・。
■
「悪かった。」
私は平身低頭、謝罪していた。
「あqwせdrftgyふじこlp;@:!!!」
何を言っているのか判らないが、怒っているのはよく理解できた。
あと、「ふじこ」だけ聞こえた。
とにかく、頭に血が上っている今は何を伝えても無駄だろう。
こういう感情的な子は、根が素直だ。
落ち着いた頃合いで話せば、分かってくれるだろう。
私は凄まじい勢いで罵声を浴びせて来る妖精を、静かな心持ちで完全に無視して昼寝に入った。
起きた頃に、冷静に戻っていれば、もう一度謝ろう。
起きた時に、まだこの娘が居たらの話だが・・。
■
「ねぇ、ちょっと!ねぇ、無視しないでよー!」
「・・ん?おお、済まない、眠っていた。」
昼寝から目が覚めたら、妖精が半泣きで私を起こそうとしていた。
まだ居たんだ・・。
「はぁ!?何なのアンタ、怒り狂ってるアタシの前で、よく寝に入れるわね!」
今度は怒り始めた。
泣いたり怒ったり、元気がいいなぁ。
「怒り狂っていたと自覚があるのだね?」
「当然でしょ!」
うむ、頭が冷えたようだ。
怒り狂ってる人に、「怒ってる」と指摘しても、「怒ってない!」と怒り始めるのが人間だ。
怒ってない人は、怒ってた事を、ちゃんと認められるものだ。
つまり、今は感情の昂りを抑えられている状態だ。
怒ってないなら、今こそ謝ろう。
「申し訳なかった、君を守るのを忘れていた。」
「そうよ!危うく死ぬところだったじゃない!」
危うく初めて出会った私以外の知的生命体を、初見で殺すところだった。
「妖精殺し」なんて呼ばれたら、大層縁起が悪い。
全方位に電撃を飛ばしたが、彼女がいる方位に飛ばさないイメージを加えるべきだったのだ。
「久しく他者と会話すらしていなかったのだ。自分の事しか考えていなかった。本当に申し訳ない。」
これまで自分以外を守る必要性が無かったからな。
他者を気遣うという意識が、スッポリ抜けていた。
「まぁ何とか生き残れたから良かったけど。アタシもアンタの魔力吸って回復したから、ま、オアイコね。」
ん?吸った?
「は?どういう事だね?」
どうやって魔力を吸ったのだ?
「死にかけたから~、アンタに噛り付いて~、魔力吸った♡」
いや、そんな三段論法聞きたくない。
「・・・確かに、魔力が減っている。」
ステータスを確認すると、確かに魔力が大幅に減っていた。
吸 血 コ ウ モ リ か コ イ ツ は !?
私は早速「吸収Lv3」を発動させて補充する。
魔力の枯渇は、命の危機に直結すると、身をもって知っているからね。
尚、枝葉からも吸えるLv5にしなかったのは、妖精が私の枝に居座っているからだ。
Lv5にすると、彼女の魔力も強制徴収となる。
妖精の干物は見たくない。
「それより助けてくれてアリガト・・。結果は酷い目にあったけど、アンタが居なかったら死んでたわ。」
うむ、ちゃんとお礼も言えるのだな。良い子じゃないか。
ただ、照れ隠しに私の葉を蹴るのはやめてくれ。
「いや、どういたしまして。何とか撃退出来て良かったよ。ところで、何であんな事になっていたのだね?」
蜂の大群に追いかけられるとは。
ハチの巣駆除でもやったのか?
「え?蜂蜜食べようと思って。」
自 業 自 得 だ っ た 。
「・・キミは仲間から無鉄砲とか、愛すべきバカとか、そんな風に呼ばれていないか?」
「あ、よく言われるー。ウケるー!」
ギャルか、アホの子なんだろう。
「でもでも、おじさんスゴイじゃない!」
「おじさん・・まぁいいか。何がだね?」
この馴れ馴れしさも、ギャルっぽい。
「蜂に放ったアレ、超上級光魔法の『ライオネルト』でしょ?アタシ、初めて見たんですけど!スゴイんですけどー!」
彼女は興奮気味にバンバン私の幹を叩く。
「あの魔法は『ライオネルト』と呼ぶのかね?済まないが、ずっとここに居るもので、私は世間常識の見識が無いのだ。」
Lv6で超上級なのか。
え?そうなるとLv7ってどうなるのだ?
非常級?
Lv6でも、どうやらかなり習得している者は少ないようだ。
これは高レベルの魔法は、あまり人に見せない方が良いかもしれないな。
私の常識は、世の非常識かもしれない。
「あ、木だもんね。」
「まぁね。」
遠慮のない明け透けな感想だ。
「それよりも、キミは私の”声”をよく聞く事ができるな?」
「ふふ~ん、思念通話スキル持ってるからね!」
思念通話か。たしかスキルツリーにあったな。
独りぼっちだったので、不要と思い、全く取得する気にならなかったスキルだ。
「なるほど、それがあれば意思疎通が出来るのか。私も取っておこう。」
私は早速スキルポインでお買い物した。
こうした知的生命体が他にもいるのであれば、会話する機会はこれからもありそうだ。
これで残るポイントは5。
少なくなってきたので、非常時に備えて、あとは温存しておこう。
「へ?スキルよ?そんな簡単に取れる訳ないじゃない?」
「ん?スキルの取得が難しいって事はないのではないか?」
寝てたら貯まるポイントを、ポチッと振り当てれば手に入る、お手軽ショッピングというのが私の認識だ。
前世のネットショッピングと変わらない感覚である。
「え?」
「え?」
ん~、またマズいことを口走った気がする。
「取ったの?」
「・・取ったが?」
「え?」
信じてないな。
「んん~?」
何だこの違和感と認識の違いは?
もしかしてスキルとは、一般的には取得が難しいのか?
それとも、この娘が特別おバカなだけで、この娘に限って取得が難しいのか?
・・・口調や会話の内容から、後者も有り得るな・・。
「・・・じゃぁさ、今から思念通話切るから、その後で使ってみて。いや、使えるもんなら使ってみなさいよ!」
「何でキレ気味口調に切り替えたのだね?」
「いいから!」
彼女に促され、試しに思念通話を発動してみる事にした。
まだLv1なので、使いものになるか判らないが・・
思念通話Lv1・・発動。
「えっと、聞こえるかね?」
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」
驚愕の様子だが、ノイズが酷くて凄い濁声に聞こえる。
「うわ、結構ノイズが酷いな。」
Lv1だからこんなものか。
やはり聞き取りにくい。
砂嵐の中で喋っているようだ。
彼女くらい明瞭な通信状態にするには、Lv4~5にしないといけないだろう。
「何で!?何でそんな簡単に使えるの!?」
あ、彼女の方から思念通話を再開した。
うん、聞き易い。快適通信だ。
「と訊かれても・・。」
「最初から使えたんじゃないの!?詐欺だわ!」
初対面の人に失礼な娘だ。
「私にとっては、これが普通なのだがな。」
「信じらんない・・・。」
彼女は言葉を失っていた。
そしてブツブツと小声で何か呟いていた。
これはまた、やらかしてしまったか?
どうやら私は、ちょっと非常識な存在のようだ。
確かに植物のクセに、意外と動けたり、魔法を使ったり、思考している事自体も変だ。
・・いや、木である私が喋っている事に関しては、この娘は違和感を抱いていない様子。
と言う事は、言葉を話す木は、他にもいるのか?なんと非常識な世界だ。
うわ~、こうなると何が良くて、何が地雷なのか、全く基準が判らない。
厄介な話だ。
・・・これは本格的に、この世界に関して確認しておく必要があるだろう。
これからの事を考えれば、また彼女の様な迷子がこの森にやって来ないとも限らない。
その時の為にも、常識を身に付けておかねば。
幸いにして、私は今、情報源を確保している。
初めて出会った、コミュニケーションが可能な貴重な知的生命体である。
今後も出会えるかは分からない。
この世界には、どれほどの知的生命体がいるのかさえ知らないからだ。
この機会を逃してはいけない。
是非とも、彼女にご教授を賜るべきだろう。
私は改めて彼女に向き合った。
妖精にこの世界に関して、話を聞いてみることにしました。