第四章 歌姫の棺(4)
「じゃあどうして手間を惜しまず首を切ったか。それは、あの現場に大量の血を流す必要があったんです。血で血を隠す必要があったんです」
津野佑香は紗綾と目を合わせ、その視線を跳ね返そうとしていた。それが無意味な反抗だと知っていても、そうしていないと、今にも眼から涙がこぼれ落ちそうになっていた。
そんな津野佑香の心中を知ってか否か、紗綾は寂しそうに言った。
「どうして犯人は、花に囲まれた現場を作ったのか。それは、あなたがガラスの花瓶を凶器に使ったからじゃないですか? あの現場には、花屋でもらってきた花を一時的に入れておけるバケツはあるのに、花瓶が一つも無いんですよ。これは変だと思いませんか?」
一歩、紗綾は津野佑香に近寄ると、彼女の前にしゃがみこんだ。
「あなたは花瓶で昭代さんを殴った。その拍子にガラスの花瓶は割れてしまった。加えてあなたは一つ重大なミスを犯した。その花瓶の破片で怪我をしたんです。現場に自分の血を流してしまった。これが採取されると自分が犯人だと分かってしまう。それを隠すには自分以外の血を、大量の血を現場に流すしかない。死体の腕を切るだけでもいいけど、殴ったのは頭です。死体の頭を分析すれば、おおよそ何で殴ったかは想像できます。そうすると、あの部屋にない、花瓶を凶器に使ったことが推測できてしまう。凶器がなくなっていて、しかも大量に被害者の血が流れていたら、犯人が自分の血を隠すためのカモフラージュとしてあの現場を作ったとすぐにわかってしまう。だから、あなたは、あの人の首を切ったんですね」




