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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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堅物騎士は、お嬢様の帰りを待つ

 披露宴が終わると、コンスタンタンはグレゴワールと共に馬車で家路に就く。

 リュシアンは侍女として王妃の傍につくのだ。そのため、しばらくアランブール邸には帰らない。

 コンスタンタンはいまだ、心が高揚していた。

 生涯忘れられないような、結婚式と披露パーティーだっただろう。

 それはコンスタンタンだけでなく、グレゴワールもだった。


「いやはや、夜会であんなにたくさんの人に話しかけられたのは、初めてだったよ」


 息子であるコンスタンタンが親衛隊の主席騎士であるクレールに並んで立っていたので、質問攻めに遭っていたようだ。

 困ったと言っているが、にこにこ微笑みながら話している。まったく困っているようには見えない。


「人生、わからないものだな。長年、畑の騎士は蔑ろにされていたのに、今回の抜擢で英雄扱いだ」

「英雄は言い過ぎでは?」

「いいや、お前は、畑の騎士達を救った英雄だよ。今回の件がなくても、畑の騎士達は変わった。顔つきも、精悍になっている。指導の賜物だろう」

「それは、アンの助言のおかげです」


 王の菜園は騎士の左遷先となっていたが、やってきた者達は能なしではなかった。

 おそらく、どの部隊にいても、どういうふうに仕事に就いていいのか、いまいちわかっていなかったのだろう。


「私も、正直、王の菜園の騎士になったばかりの頃は、やりがいを感じず、不満ばかりが胸の中でくすぶっていたような気がします」


 けれど、コンスタンタンは変わった。

 フォートリエ子爵領からやってきた、リュシアンとの出会いをきっかけに。


 畑を荒らすウサギを追いかけ、走ってきたリュシアンがやってきた瞬間、コンスタンタンは特大の衝撃に襲われる。

 頭上に雷が落ちてきたと言えばいいのか。

 ここで、コンスタンタンは気付く。リュシアンに、一目惚れをしていたことに。


 雷云々の話をどこかで聞いたことがあったが、すぐに父親が話していたものだと思い出す。

 グレゴワールも、母カトリーヌと出会ったときに、雷が頭上に落ちたと語っていた。

 親子揃って、同じような惚れ方をしていたようだ。


「なんだ。コンスタンタン。何か、楽しいことでも思い出していたのか?」

「ええ。内緒ですが」

「そんなふうに言われたら、気になってしまうぞ」

「今度、お話しします」


 それは十年、二十年先かもしれない。今はまだ恥ずかしいので、未来の自分に任せることにした。


 その日は、体を拭いて眠る。寝台に腰掛けると、ドロドロに疲れていることに気付いた。

 いまだ、気分が高揚しているが、果たして眠れるものか。

 心配していたものの、横になったら意識が遠退いていく。

 コンスタンタンはぐっすり眠った。


 ◇◇◇


 朝を迎える。

 コンスタンタンは日の出前に起床し、鍛錬したのちに風呂に入る。

 朝食の席には、すでにグレゴワールの姿があった。


「コンスタンタン、おはよう」

「おはようございます」


 ここで、いつもならリュシアンが明るく朝の挨拶をしてくれた。けれど、今日はどこにもリュシアンの姿はない。


 王妃の傍についているため、不在なのだ。

 リュシアンがいる席を見つめていたら、グレゴワールは「リュシアンさんがいないと、寂しいなあ」と話しかけてくる。


「父上、アンは王妃様の侍女となったのです。王の菜園の敷地内に離宮ができても、朝はずっと私と二人きりですよ」

「そうだったな。カトリーヌが亡くなったときの静けさを、思い出してしまうな」

「父上……」


 カトリーヌが亡くなったあと、グレゴワールは独りでいる期間があった。コンスタンタンは士官学校で寮生活をしていたので、共に過ごす時間はほとんどなかった記憶がある。


「しかしまあ、お前がいるだけでもいいよ。私は、幸せ者だ」


 そんな話を聞いてしまうと、これまでグレゴワールと共に過ごす時間が少なかったのではと思ってしまう。

 これからはなるべく、夜にグレゴワールと酒を飲む時間を作ろうとコンスタンタンは決意した。


 二日目、三日目と、リュシアンは帰ってこなかった。

 一度、ロザリーが戻ってきて、荷物をまとめて再び王都へ戻っていく。

 次の日には、補佐をしていたクリスティーヌが戻ってきた。

 コンスタンタンはリュシアンに宛てて書いた手紙を渡そうか迷ったが、相手がクリスティーヌなので躊躇ってしまう。


 しかし、別れ際に見抜かれてしまった。


「何か、言いたいことがあるのでは?」 

「あの、これを、リュシアンさんに」

「ああ、手紙ですか。もっと早く言ってください」


 そう言って、クリスティーヌは手紙を受け取ってくれた。


「リュシアンは、元気にしておりますので。心配は無用ですよ」

「それを聞いて、安心しました」


 嵐のように、クリスティーヌは去って行く。

 翌日も、リュシアンは戻ってこなかった。


 もうずっと長い間、リュシアンと会っていないように錯覚してしまう。

 当たり前のように傍にいたので、いなくなると心にぽっかりと穴が空いたように感じてしまうのだ。


 そんなリュシアンが戻ってきたのは、それから二日後の話である。

 王の菜園のあぜ道で、休憩時間をぼんやり過ごしていたら、リュシアンの声が聞こえてきたのだ。


「コンスタンタン様ーーーー!!」


 リュシアンの姿が見えた瞬間、コンスタンタンは走る。

 そして、同じく駆けてきたリュシアンを抱き上げ、その場でくるくると回った。

 リュシアンは楽しげに笑っている。

 コンスタンタンの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめて耳元で囁いた。


「コンスタンタン様、ただいま帰りました」

「アン、おかえり」 

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