堅物騎士は、熱血指導を受ける
先日、いろいろと問題を抱えていた国王が退位し、王太子イアサントが即位した。
国中祝いムードとなり、お祭り騒ぎとなる。
新たな国王となったイアサントは、国民の期待を背に国の頂点に立つ。
街中では、国王の即位を祝した記念品が並んでいた。
美男子と名高い国王の肖像が描かれたものは、瞬く間に売れていく。
即位を記念とした大売り出しも各店で行われていて、どこも盛況しているようだった。
そんな中で、リュシアンはバタバタと忙しそうにしていた。
国王と、王妃となるソレーユの結婚式を目前としているからだろう。
王の菜園での仕事はクリスティーヌに任せ、リュシアンはソレーユの傍であれこれと働いているようだ。
多くの侍女を引き連れ、王の菜園と王宮を行ったり、来たりしている。
王の菜園の片隅では、ソレーユの離宮の建設が進んでいた。あと半月ほどで、完成する予定だという。
残ったコンスタンタンは、クリスティーヌと共に結婚式の準備を進めていた。
「ボヤボヤしていたら、間に合いませんよ」
「はい」
クリスティーヌはコンスタンタン相手でも容赦しない。ビシバシと、指導してくれる。
苦笑していたら、急に押し黙る。
「子爵夫人、どうか、なさいましたか?」
「いえ、昨日リュシアンに、あまり口うるさく言わないよう、注意されていたのを思い出しまして」
リュシアンはクリスティーヌの言動を、気にしているようだった。コンスタンタンにも、言い方がキツイようだったら、教えてほしいと言われていたのを思い出す。
クリスティーヌはかつて王宮勤めをしていて、結婚後も貴族の娘達を相手に礼儀作法を指導していたような人である。
言い方は厳しいが、間違ったことは一つも言っていない。
「ごめんなさいね。もっと、優しく指導できたらいいのですが」
「いえ、どうか、お気になさらず」
コンスタンタンは母親を早くに亡くしている。女性視点から見た教育を、された記憶はなかった。
「この年齢になると、なかなか注意してもらえなくなるので、むしろありがたく思っています」
「そ、そうですか?」
「ええ。気になる点がありましたら、どんどん指導を賜りたく思っています」
「だったら、よかったです」
ホッと安堵した様子を見せていたのは、つかの間のことだった。
クリスティーヌの瞳はキラリと輝き、コンスタンタンにキビキビと指導を始める。
再び、コンスタンタンが笑ったため、クリスティーヌは怪訝な表情を見せていた。
「何か、おかしな点がありましたか?」
「いいえ。子爵夫人が、本当の母親のように思えてしまって。士官学校を卒業する前に儚くなったのですが、健康で今も生きていたら、子爵夫人みたいに、いろいろと注意をしてくれたのかもしれないな、と」
「コンスタンタンさん……」
クリスティーヌの目元に、涙が浮かぶ。ギョッとしてしまう。その間にクリスティーヌはコンスタンタンに接近し、ぎゅっと抱きしめたのだ。
「わたくしのことは、本当の母のように思っても構いません」
驚き、硬直してしまう。
だが、同時に幼い頃、こうして母親が抱きしめてくれた記憶が甦った。
「ありがとう、ございます」
コンスタンタンから離れたクリスティーヌは、目を真っ赤にして涙していた。
ハンカチを差し出すと、受け取って涙を拭っている。
自分は幸せ者だとコンスタンタンは思う。母は亡くなったが、リュシアンの母親が本当の息子のように接してくれるから。
指導を無駄にしないためにも、結婚式を立派に務めあげなければならない。
今まで以上に、力を入れて取り組んだ。
夜遅くに、リュシアンは戻ってくる。
コンスタンタンはリュシアンを抱擁して出迎える。
「今日は、忙しかったか?」
「ええ。もう、ソレーユさんの結婚式は目前ですから」
コンスタンタンの顔を見たら、疲れが吹っ飛んだとリュシアンは微笑む。
そんなわけはないので、温かい風呂に入って休むように言っておいた。
「コンスタンタン様、お母様は、厳しいことを言っていないですか?」
「大丈夫だ。とても、よくしてくれている」
「だったら、よいのですが」
クリスティーヌが手伝ってくれたおかげで、結婚式はよりよい方向へと向かいつつある。
きっと、参列者にも喜んでもらえるはずだ。
「コンスタンタン様、こちらを、国王陛下より預かっております」
リュシアンが差し出してきたのは、一通の手紙だった。
「国王陛下から?」
王家の封蝋が押されている。私的なものではないようだ。
執事が茶を淹れてくれたようなので、応接間でリュシアンと共に内容を確認をする。
書かれていたのは、驚くべきものだった。
「なっ――!」
国王は、結婚式の当日、コンスタンタンを護衛の一人として指名したらしい。
通常、国王に侍る騎士は、親衛隊である。
コンスタンタンは王の菜園の騎士を代表して、傍にいるようにと書かれていた。
「コンスタンタン様、とても、名誉なことですわ!」
いまだ信じられないが、リュシアンの言葉にコンスタンタンはこくりと頷いた。




