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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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お嬢様は、頑張り過ぎる

 コンスタンタンとリュシアンの旅行は、あっと言う間に終わった。

 大好きなミモザを堪能した上に、大好きなコンスタンタンと共に過ごす時間は夢のようであった。


 コンスタンタンの母方の実家であるカルパンティエ子爵家の人々も、温かく歓迎してくれた。

 すてきな思い出を胸に、王の菜園へ戻ったのだった。


 ◇◇◇


 王の菜園に帰ってからは、めまぐるしい毎日を送る。

 ついに、王の菜園の喫茶店がオープンしたからだ。開店当日は百名以上の人々が列をなし、王の菜園の料理に舌鼓を打ってくれた。

 圧倒的に人手が足りなかったが、ソレーユはすぐに対策を採り、実家であるデュヴィヴィエ公爵家から応援を寄越してくれる。

 新たに雇い入れた下町の者達も、みるみるうちに仕事を覚えてくれた。

 一ヶ月経つころには、デュヴィヴィエ公爵家の人々の手伝いを必要としなくなった。

 しだいにリュシアンも、現場ではなく裏方作業に回れるようになる。


 王の菜園の作物を見回り、農業従事者の質問に答え、新しい事業である王の菜園で開く宿の企画案に目を通す。

 ソレーユの筆頭侍女として、結婚式の準備にも手を貸していた。

 コンスタンタンから何度も休むように言われていたが、溜まっていく仕事を無視できなかったのだ。

 旅行に行っていた分、頑張らなくてはと思っていたのが良くなかったのだろう。

 気がついたときには、くるくると景色が回っていた。

 目覚めたのは、寝台の上だった。


「あら、わたくし……?」


 声を発した瞬間、「リュシアンお嬢様~~!!」というロザリーの声が聞こえた。涙目のロザリーが、リュシアンの手をぎゅっと握る。


「お医者様は、過労だとおっしゃっていました」

「過労? わたくし、もしかしてどこかで倒れましたの?」

「畑で黒キャベツを収穫している途中に、突然パタリと倒れたんですよお」


 リュシアンは瞼を閉じ、冷静になって考える。

 朝、朝食を食べたあと、コンスタンタンに一日休むように言われたあとの記憶がなかった。


「アンお嬢様、頑張りすぎだったんです。ずっとずっと、周囲の人達は働き過ぎだ、休めと訴えていたのに、聞かなかったんです」

「まあ……!」


 リュシアン的には休んでいるつもりだったが、休みの範疇に入っていなかったようだ。


「あんまりにもアンお嬢様が休まないので、アランブール卿がアンお嬢様のお母様を、ご実家から呼んだようで」

「お母様を? いつ、いらっしゃるの?」

「もう来ています。アンお嬢様の代わりに、ソレーユさんの侍女をしているようです」

「そんな、お母様を働かせていたなんて――!」


 起き上がろうとしたが、体に力が入らない。疲労で倒れたというのは、本当だったようだ。


「わたくしの体なのに、わたくしが一番わかっていなかったようですわね」

「本当ですよ。だんだん顔色が悪くなっていくアンお嬢様を見るのは、辛かったです」


 リュシアンは手を伸ばし、ロザリーの頬にそっと触れる。

 目の下に、クマが浮かんでいた。リュシアンが頑張り過ぎていたので、同じようにロザリーにも無理を強いていたのだろう。胸がぎゅっと、苦しくなる。


「自分を大事にしないと、周囲の人も、苦しむ結果になるのですね。ごめんなさい、ロザリー」

「アンお嬢様……」


 ロザリーの眦に浮かんだ涙を、指先で拭っていたら寝室の扉が豪快に開かれた。


「ロザリー、リュシアンは、目覚めましたか!?」

「あ……お、奥様。たった今、目覚めました」


 母親の声に、安堵と恐怖が一気にこみ上げてくる。

 リュシアンは即座に腹をくくり、母親の襲撃に備えた。

 のっしのっしと大股で寝台まで接近し、遠慮なくリュシアンを覗き込む。


「リュシアン! あなたって娘は、どうしてそう、自分勝手なのですか!」


 ロザリーが「アンお嬢様は目覚めたばかりなので」といさめたが、聞く耳など持たなかった。


「お母様、申し訳ありませんでした」

「謝罪は私にではなく、ソレーユ様やアランブール伯爵とアランブール卿になさい! アランブール卿なんか、特に気の毒でしたよ。髪を乱しながら、大慌てでやってきた私に深々と頭を下げて。逆に、気の毒でした」

「そう、だったのですね」

「あなたが倒れるほど働かせてしまったと、申し訳なさそうにしていたんですよ」

「コンスタンタン様……」


 コンスタンタンはリュシアンに何度も休むよう忠告していた。悪いのは、十分に休まなかったリュシアンだ。情けない気持ちで胸がいっぱいになる。


「フォートリエ家の侍女を連れてきたので、使いなさい。いいですか? 人を使うのも、一家の女主人として、重要な仕事ですからね? 今回みたいに、働きすぎて倒れるなど、あってはならないことですからね!」

「失敗を戒めとして、肝に銘じておきます」


 続けて、リュシアンの母クリスティーヌは宣言する。


「筆頭侍女になったようですが、この先私も手伝いますので、そのつもりで」

「あの、手伝う、というのは?」

「慣れるまで、あなたの傍にいるということですよ!」

「お母様、領地のお仕事は、よろしいのですか?」

「女主人の仕事は、アンヌに任せておりますので、心配はご無用です」


 アンヌというのは、一番上の姉である。夫は婿養子で、実家で暮らしているのだ。

 そんなわけで、リュシアンは母という強力すぎる味方を得た。

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